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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
第三章「騎士になれなかった騎士」
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自警団、みたびっ!?/其の壱


「……にしてもビックリだよなぁ~」 



 その日の夕方――

 僕は道を歩きながら、今日起きた出来事を思い返した。


 まさかセシルが女の子だなんて、ホントに思いもよらなかったよ。それにお互い一人前の騎士になろうっていう約束もしたし、今日はちょっとうれしい気分かも。




 浮かれ半分、ガンバろうという気持ち半分――そんな調子で道ばたを歩いた。




 刹那、背後で乾いたような大きな音が立てられる。


 僕は軽くバウンドして転がるような音に振り返って確かめてみた。

 すると、そこには鉄の冑が1(はね)落ちていた。併せて横を通り過ぎていく馬車が見えたので、僕はすぐに荷台から落ちたモノだということに気付いた。


 とっさに拾い上げ、大声で馬車に向かって叫ぶ。

 さすがに馬車を操縦してたオジさんも僕の声には気付いたようで、2、30メートル先で馬車を止めてくれた。



 すぐさまあとを追い、拾った鉄の冑を手渡す。



「……これ、落ちましたよ」


「ああ、すまないね。荷物の配達途中だったから、無くしたら弁償モノだったよ」


「後ろの荷台に詰めておけばいいですか?」


「頼むよ」



 と言われ、荷台の後ろ側へと回る。

 すると、雨避けカバーを結ぶロープが1カ所だけ緩んで外れかかっていた。



 ……ははーん、さてはここから冑が落ちたな。



 すぐに緩んだ箇所から冑を中に戻す――が、中の荷物を見たとたん、僕はロープを縛ろうとする手を止めてしまった。



 なぜなら、荷台の中は甲冑でいっぱいだったからだ。

 どうしてそんなにたくさんの甲冑があるのかと疑問に思ったけど、顔を上げて見つめるオジさんの身なりがそれとなく行商人っぽかったので、これらが売り物だということにすぐに気付いた。


 とっさに緩んだロープを引っ張って留め金に縛り付ける。


 それから、御者台で様子を見守るオジさんに向かって叫んだ。



「1カ所ロープが緩んでたみたいです。冑を元に戻してきつく縛って起きましたので、もうこれで落ちる心配はないかと思いますよ」


「ありがとよ、兄ちゃん」


「いえ……それより、この荷物なんなんですか?」


「エンゲラー子爵にお届けする甲冑だよ。なんでも警備の人たちの甲冑を新しくするんだって言うんで大量発注があったんだ」


「そうなんですか。結構な荷物ですから、道中お気を付けて」



 そう言うと、僕はオジさんを見送ることなく再び道を歩き出した。



 ……でも、あんなに大量の甲冑いったいどうするんだろ? 警備兵に配るにしたって、いくらなんでも多すぎるんじゃ?




 そんな疑問が頭をよぎる。



 しかし、とっさに顔見知った人物が目線の先にある橋を渡って歩いて行くのが見えて、僕は疑問のことなど忘れ、その人の名前を叫んでいた。



「あ、エフィさんっ!」



 僕の前を歩いていたのはエフィさんだった。

 だけど、当のエフィさんは気付かなかった。それどころか、まったく僕の存在に気付いていないようで、橋を渡ってすぐの道を曲がって行ってしまった。




 すぐに追いかけようと駆け出す。




 ところがエフィさんに追いつくことはできなかった――なぜなら、僕の行く手を遮る不審な3人組が立ちはだかったからだ。



「待て~いっ!」



 と僕に向かって大声で叫ぶ3人組のうちの1人。


 しかも、3人とも傍から見ても奇妙な格好をしている。

 それから、ニットで編み込まれた覆面マスクに黒いマント、「悪即斬」と書かれた上下薄手の肌着を着用してる。




 ……これ、誰が見たって怪しいと思うよね。




 さらに言えば、犬1匹も連れていてその犬も覆面のようなモノをしているんだもん。どう見たって、変態の域に達してる気がする。



 で、その人たちは僕に構わず勝手に自己紹介っぽいっことを始めた。



「天知る、地知る、ケヴィン知る! 怪盗ケヴィン参上っ!」


「左に同じくっ、怪盗ケヴィンBっ!」


「右に同じくっ、怪盗ケヴィンBっ!」



 あれ? なんかおかしくない……?



 僕は唐突なわき上がった疑問からおもわず突っ込んじゃった。



「あのぉ……カッコよく登場したところごめんなさい」


「なんだっ!?」


「……なんで怪盗ケヴィンBが2人もいるんですか?」


「いや、ホントは俺の方がBなんだよ」


「ちょ……オマ……さっき2人でBにしようって言っただろ?」


「ちげぇよ。オマエが妥協して『C』にするって言ったんだろ?」


「んなわけないだろっ!」


「なんだとっ!?」


「あの、ケンカは良くないと思います。それとBっていう名前って、脇役みたいでカッコ悪くないですか?」


「……言われてみると確かに」


「カッコ悪いかもなぁ~」


「うん、フツー気付きましょうよぉ……」



 大丈夫かなぁ~この人たち?


 いきなり登場したのはいいけど、僕の邪魔するどころか自分たちが迷走してるよ。しかも、リーダー格と思われる人は犬をあやしてるし。


 僕はその人も相手にすることにした。



「あと、そこの犬あやしてる人」


「犬ではないっ! コイツにはシルドラという立派な名前があるんだ!」


「あっ、はい……シルドラくんですね」



 うわぁ~この面倒くささ、間違いなくデメトリオさんだよ。

 そして、こっちの2人は部下の人たちだ……どうせまたくだらない理由で僕を逮捕しようと企んでるんだろうなぁ。


 僕は3人を警戒しつつ、ことの成り行きを見守ることにした。



「え~っと、それでお三方はどういったご用件なんでしょうか?」


「ああ、そうだった……だが、その前に名乗り直していいか……?」


「え? またやるんですか?」


「なにごとも最初が肝心だろうがっ!」



 例によって逆ギレ……このパターン、いったい何回目だろ?



 僕は呆れつつ、「どうぞ」と言って名乗り直すことを許可した――が、なぜか3人は後ろ向けで円陣を組み始めた。




 また作戦タイムらしい――




 無駄な時間だなぁ~と思いつつ、作戦の様子を眺めてみる。しばらくすると、デメトリオさん改め怪盗ケヴィンさん一行が名乗りを上げた。



「天知る、地知る、ケヴィン知るっ! 怪盗ケヴィン参上っ!」


「左に同じくっ、怪盗ケヴィンの父!」


「右に同じくっ、隣のルドルフさん!」


「え、誰っ!?」



 もうワケがわからないよ。


 隣のルドルフさんって誰なの? 知らない人間入れてわかると思ってるの? しかも、もう1人は怪盗ケヴィンの父とか言っちゃってるし。



 僕はもう一度問い直した。



「ごめんなさいっ、もう1回いいですかね?」


「今度はなんだ?」


「まず怪盗ケヴィンの父って誰なんです?」


「父は父だろ?」


「いや、まずアナタはケヴィンさんのお父さんなんですか?」


「違う。ケヴィンの同僚で息子がいるお父さんだ」


「……それ、自分の息子のこと差してますよね……」



 うん、この時点で明らかにおかしい。

 そして、もう1人おかしいのがいるのも忘れちゃいけないよね。



「それと……隣のルドルフさんって誰なんですかっ!?」


「いや、ルドルフさんはルドルフさんだよ」


「だから、いったい誰なんですか?」


「俺の家の隣に住んでるルドルフさん」


「じゃあアナタがルドルフさんなわけないじゃないですか!」



 ちょっと! なにウソ言っちゃってんの、この人。



 もうこの3人組相手にしているとこの先どうなるやらわからないよ。しかも、またケヴィンさんは犬をあやしてるし。


 ホント、いい加減にしてよねっ!


 僕がうんざりしているとさすがの3人も理解したのか、唐突に開き直って目的らしき事柄を言い始めた……お願いですから、早く解放してください。



「我々は貴様の不正を暴くためにやってきた正義のヒーローだ」


「そうだ、ヒーローだ」


「ヒーローなのだ」


「――はい、わかりました。それでそのヒーローさんが僕になんの用なんですか?」


「だから、貴様の不正を暴くためにやってきたと言っておろう」


「不正? どこが?」



 まったく白々しい。

 そうやって、僕を罠に陥れて逮捕しようなんて……あ~はいはい、不正ありますよぉ~だ。



 ふと足下に犬がいることに気付く。



 さっきからケヴィンさんにあやされている犬だ。どうも僕のにおいを嗅いでいたらしく、クンクンと鼻を鳴らしている。

 僕は気になって、ケヴィンさんに犬の存在について聞いてみた。



「それより、この犬はさっきからなんなんです?」


「フッフッフ、聞いて驚くなよ」


「はぁ……?」


「ソイツはにおいを嗅いだヤツが善か悪か見極めることのできるスーパーヒーロー犬なのだ!」


「わぁ~それはスゴイじゃないか、ケヴィン!」


「いったいどこで見つけてきたんだい?」


「なんですか……そのわざとらしい三文芝居は」



 なんかつまらない路上販売の寸劇を見せられかのようだ。だけど、この人たちがそれを気にすることはない。むしろ、積極的に僕を捕まえるために演技をし続けている。



 ……どうやったら終わるんだろ、この寸劇。



 3人の話は僕を無視して続く。



「いいか? この犬ににおいを嗅がせればたちまち善であるか、そうじゃないか、わかってしまうんだ」


「おおっ! さすがじゃないか、ケヴィン」


「ステキね。どうやって使うの?」


「なんか女言葉の男の人が混じってますよ……?」


「よく見てみろ? こうやって人の足下に鼻を近づけさせて――」




『ワンッ!』




「ほら、吠えただろ?」


「つまり、これはどういうことなんだい?」


「ハッキリ言ってしまえば、彼は極悪人ってことさ!」


「スゴイわっ、そこまで判ってしまうのね!」


「は~い、僕は善良な市民でぇ~す。ねつ造は止めてくださいね」



 ……まあ聞いちゃいないだろうけど。




 そう思っていたのもつかの間だった。




 クルリとこちらを振り返った3人が目の色を変えたように僕をにらみつけてくる。

 僕はあまりの突然のことに虚を突かれた。



「な、なんですか……?」


「フッフッフ、いまのを見てただろう?」


「ええまあ……」


「そういうワケだ。貴様にはこれからシルドラによってにおいを嗅がれ、善であるか悪であるかを判定してもらうのだっ!」


「え? いまの前フリ?」


「細かいことは気にするなっ!」


「うわぁ~めんどくさっ」


「行けっ、シルドラ! 行ってヤツの善悪を確かめるのだっ!」



 とケヴィンさんが犬に指示を与える。


 すると、犬は僕の足下に寄ってきて靴のにおいをかぎ始めた――かと思ったら、不意に半身を起こして僕に寄りかかってくる。

そのせいで僕は重みに耐えかね、地面に伏すことこととなった。



 それから、半ば犬にのし掛かられる体制で仰向けになり、僕は馬乗りの状態で犬に体中を舐められた。



「うわっ、ちょっとくすぐったいよ!」



 同時ににおいも嗅いでくるから、僕はくすぐったさと妙な気持ちよさにおもわずあえぎ声を漏らしてしまった。



 ……しかも、公衆の面前でだよ?



 さすがの僕も恥ずかしさでいっぱいになっちゃったよ。でも、犬が言うことを聞くはずもなく、僕はしばらくの間至る所を舌でなめ回された。



「うわぁぁぁあああああっ、やめてぇぇぇ――――あ、あれ?」



 くすぐったさに抵抗できずにいたのもつかの間。

 いつの間にか乗りかかっていた犬がいなくなっていた……いったいどういうこと?



 突然の終幕にキョトンとなって、あたりを見回す。すると、犬は足下の数メートル先であらぬ方向を向いて、遠くのにおいを嗅ぐような仕草を見せていた。


 とっさのことにケヴィンさんの顔を見合わせる。



「……もうおしまいですか?」


「あ、いや……ちょっと待ってくれ」



 と言って、ケヴィンさんがシルドラに近づいていく。


 そして、元の位置に戻るようにしつけているみたいだったけど……ああ、見る限りぜんぜんいうこと聞きそうにないね。

 それどころか「邪魔すんな」って感じで主人の手を噛もうとしている。




 ……完全に主導権が逆転してるよ、アレ。




 そうこうしているうちに犬は主人の制止を振り切ってどこかへ行ってしまった。



「うわーん、シルドラーッ! 行っちゃヤダァ~!」



 ……なに? その子供みたいな台詞。




 僕は泣き崩れるケヴィンさんの姿を遠巻きに生暖かい目で見守り続けた。






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