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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
第三章「騎士になれなかった騎士」
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テレジアさんと玉転がし/其の弐


「――ジュリアン君、ここがいいのかしら……?」


「あっ、もっと右です」


「それじゃあ……こっち?」


「……あ、近い……」


「なら、ここかしら?」


「そこですっ! すごく上手です……」



 ……って、なにやってんだって?


 もちろん、技巧祭の競技に出る準備だよ。

 いまからテレジアさんと「二人三脚大玉転がし競争」なる競技に出るんだ。一応断っておくけど、これは健全な競技だからね?




 きっかけは参加を募るアナウンスがあってからのこと。




『ただいま午後1時半より行われる『二人三脚大玉転がし』に参加される一般参加者を募集中です。参加希望の方は入場口にお越しください』



 なんて声が聞こえてきたのは、およそ30分前。

 「魔法で音量を上げられたモノなんだろうなぁ~」などと1人で感心していたら、突然アルマが参加しないなんて言い出したんだ。



「ねえジュリアン。よかったら、一緒に参加しない?」


「えっ? この競技に?」


「せっかくお呼ばれしたんだし、なにかしら楽しみたいじゃない?」


「別にいいけど……」


「……なによ? 妙にハッキリしない言い方ね」


「い、いやそういうんじゃなくて。アルマがこういうのに興味があるんだってことだよ」


「あら? 私が興味を持っちゃいけない?」


「そうは言ってないけど……」


「だったら、いいじゃない? 一緒に出ましょう」


「わかった。アルマがそこまで言うなら参加するよ」



 とまあこんな感じで出ることになったんだ。

 けれども、とたんにアルマを呼ぶ声が聞こえてきて、僕たちの参加は見送られることとなったんだ。



 現れたのはパン屋のご主人の奥さんであるマルガさん。



 なんだかとても慌てた様子でアルマを呼びに来たみたいだった。僕はそうした様子からなにかよからぬことでも起きたのかなと思った。


 不意にアルマとマルガさんが会話を始める。



「マルガおばさん、どうしてここに……?」


「悪いんだけど、いまから工房に来てくれないかしら?」


「いったいなにが起きたんです?」


「実は今朝から石窯の調子がおかしいなと思いながら、主人と2人でずっとパンを焼き続けてたの。でも、1時間ほど前に突然窯が爆発したの」


「ええぇぇ~っ!? どうしてそんなことに?」


「詳しい原因はわからないわ。それで主人が古い石窯に火を入れて、夕方の分のパンを焼くことになったの。だけど、そのせいで私と息子だけで明日売り出すパンの仕込みをやることになったんだけど、2人じゃぜんぜん間に合いそうなくて……」


「わかりました。私も手伝います」


「お休みだったのにゴメンなさいね」


「いえ、しょうがないです」



 なんだかエラいことになってるみたい。


 僕は横で聞き入りながら、アルマの表情を確かめた。すると、アルマが残念そうな顔つきで僕に向かって言ってきた。



「……そう言うわけだから、参加できなくなっちゃった」


「まあしょうがないよ。アルマはおばさんを手伝ってあげて」



 事情が事情だしね。


 それから、アルマはおばさんと一緒に工房へと急いでいった。僕はその後ろ姿を見送り、競技に参加することなく技巧祭を見物することにした。


 ところがそんなときテレジアさんに声を掛けられたんだ。



「よかったら、私と一緒に出ない?」



 ビックリするような突然のお誘い――

 おもわず聞き返しちゃったよ。



「え? 僕でいいんですか?」


「せっかく2人で出ようとしてたのにもったいないじゃない。だから、私がアルマさんの代わりに一緒に参加するわ」


「で、でも……」



 ホントに僕でいいのかな?


 この競技がどんな競技かわからないけど、テレジアさんみたいな人と参加できるなんて夢のような出来事だし。



「遠慮することないわ。2人で楽しみましょう――ねっ?」


「じゃあお願いします」



 と言うようないきさつがあって、僕はテレジアさんと二人三脚大玉転がしに参加することになったんだ。


 だけど、この競技フツーじゃなかった。


 さすが魔法学校というべきか、魔法に関連する項目が含まれていたんだ。


 具体的なことを言えば、まず1人が目隠しをした状態で大玉に唾液を染み込ませて操作者として認識させる。次に互いの片足を縛って肩を組み、スタートの合図で場内にある点数ボードを専用の棒で大玉を魔法のように操って倒しつつ、一番でゴールを目指すというモノだ。




 要約するなら、玉を舐め、玉を転がし、棒を使って一番早くゴールにたどり着ければオーケー。




 ……ん? なんかいま卑猥なこと言ったかな?



 あ、それともう1人の人は目隠しして見えない操作者の目となってサポートしてあげるという作業があったんだ。

 まあそんなわけで、僕たちは二人三脚大玉転がしに参加することとなった。



「準備はだいたいこんなところですかね?」


「ええ。係員の子の教えが良かったせいか、いとも簡単に玉が操れちゃうわ。なんだか私が魔法使いになったみたいね」


「もし、テレジアさんが魔法使いだったらすごく魅力的な魔女なんだろうなぁ~」



 きっと美魔女とか言われてると思う。

 妄想しただけでも興奮しちゃうよ。


 そんな僕の言葉にテレジアさんは笑って応えてくれた。



「フフッ、ありがとう。でも、私が一番なりたかったのはフツーのお嫁さんね」


「どうしてですか?」


「ほら、いまの私だと主人の代わりに現当主を引き継いで、教会騎士団の小隊を任されてるじゃない?」


「そうですね……」


「家の方は御爺様からのご指名だったわけだけれども、騎士団の小隊の方は昔から御転婆だった私が半ば自分の夢を叶えるために大司教様にお願いしたようなモノよ」


「ああ、だからお屋敷の敷地内に屯所があるんですね」


「そうなの。ヴェラやロッテみたいな各地を転々とする女性の遍歴騎士や傭兵を受け入れることが当初の目的だったわけだけど、その中に私の『騎士になりたい』という夢も含まれていたのよ」


「意外ですね」


 確かに女性が騎士になるなんて聞いたことがないよ。

 それを達成できる教会騎士団って、ある意味公国騎士団より自由なのかもしれない。



 ふと先日の事件のことが頭をよぎる。



「――そういえば、先日の事件ってどうなったんですか?」


「湖で見つけた敵兵のことかしら……?」


「そうです。クララを誘拐しようとした女とその黒幕と思われる人物が一緒にいたという件です」


「その件なら、目下調査中よ。アナタたちが倒した敵兵の鎧の様式からクシュナリハト帝国の斥候の可能性が出てきたけれど、まだ断定はできないわ」


「クシュナリハト帝国って、南西のあの大国ですか?」


「ええそうよ。どうやら、最近まで私たちの国の動向を探ってたみたい」


「でも、どうして森の中にいたんですかね?」


「それもよくわかってないの。ただあの湖畔の森は建設途中のヴィエナを囲む城塞の中にあることが気になるのよね」


「……というと?」


「つまり、連中は街ではなく森でなにかをしようとしてたってことよ。しかも、ヴィエナの旧市街がある山の部分に隣接してるから隠れるのには持ってこいなの」


「じゃあ危険ってことですか」


「……そうなるわね。だから、いまは公国騎士団が警備に当たってるわ」



 そんな大事になってるなんて、正直思いもよらなかったよ。


 言われてみれば、あの一団は異様な雰囲気を醸し出していた。しかも、黒幕とおぼしきヤツはマルティンさんと知り合いだったみたいだし。




 ……って、あれ? そういやマルティンさんはどうしたんだろ?




 僕はさらにテレジアさんに尋ねた。



「あの、マルティンさんが連中の黒幕っぽいヤツと知り合いみたいだったってお話ししたと思うんですけど、そっちの件はどうなったんですか?」


「……ああ、その件も調査中よ」


「調査中? マルティンさんに直接聞かなかったんですか?」


「もちろん、聞いたわ。だけど、知り得たのはわずかなことぐらいね」


「そうですか……」



 やっぱり、マルティンさん話したんだ……僕には話をしてくれなかったのに。


 少しショックだった。


 ただ僕たちを守りたいという気持ちから話してくれなかったのは事実だし、軍に話したのは逆に身を守るための手段だったのかもしれない。



「もし差し支えなかったら、マルティンさんが話した内容を教えて――」


「ごめんなさい。彼との約束でアナタとアルマさんには教えないで欲しいと言われているの」


「……やっぱり、そうですよね」



 そこまで頑なに話したくないということはよほどのことなのかな? 内容が気になるところだけど、それを考えている余裕はなくなっちゃった。


 とたんに威勢の係員の声が聞こえてくる。



「まもなく競技が始まりま~す! ご参加の方はこちらに並んでください」



 どうやら、もうすぐ始まるみたい。

 僕たちはその声にお互いを励まし合った。



「さあ一生懸命ガンバりましょ?」


「もちろんです」



 結局、マルティンさんの話は聞けなかった。


 まあアルマのいないところで、僕一人が先に聞いちゃうのも悪いしね。マルティンさん本人から聞くのが一番いいのかもしれない。




 いまはこのひとときを楽しもう。




 僕は係員の誘導に従い、テレジアさんを伴って入場口へと向かった。






※健全です。

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