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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
第三章「騎士になれなかった騎士」
24/45

テレジアさんと玉転がし/其の壱


 技巧祭――



 それは年に1度行われる魔法学校主催の一般参加型のイベント。

 そんなイベントに僕たちは招待された。



 もちろん、招待してくれたのはリズだ。



 今日はアルマのほかにクララとおつきのメイドさん、それと護衛役のヴェラさんの4人で魔法学校を訪れた。渡されたパンフレットには技巧祭はグラウンドで行うと書いてある。具体的になにをするかは聞かなかったけど、とても楽しいお祭りらしい。


 僕は歩きながら、感心そうにあたりを見渡すヴェラさんと会話をした。



「ヒャーっ、さすが王立学校だけにデカいッスねえ」


「僕も訪れるのは2度目ですけど、確かに建物は大きいし、敷地面積も相当ありますよね」


「王女様の肝いりだとは聞いてたッスけど、まさかこんなに大きいなんてチョビっとも思わなかったッス」


「……王女様の肝いりなんですか?」


「あれ? 知らないッスか。この学校を創設したシーデル様は西の国の偉大な魔法使いだったらしいんッスけど、この国で市民でも魔法をチョビ使えるようにするために来たらしいッス」


「それと王女様の肝いりと、どう関係があるんですか?」


「端的に言えば、魔法を庶民の生活に役立てられるモノにしようってことッス」


「へえ……。でも、それって魔法自体のコントロールだったりとか、魔法そのものの悪用につながったりしないんですか?」


「もちろんないことはないッス。だから、5年前に創設を支持なさった王女様が公王様に直接提案して、魔法の使用に関する法律と部署を作ったッス」


「そうだったのかぁ~」



 魔法って少しぐらいしか興味なかったけど、いろいろと大変な部分があるんだなぁ~。


 ふとズボンの裾をつままれる。


 顔をうつむけると、クララがなにか言いたそうにしていた。僕は歩く足を止めて、クララに尋ねた。



「どうかしたの?」


「お兄ちゃん、これからなにするのぉ~?」


「え、なにするのかって……。あぁ~実はお兄ちゃんにもわからないんだ」


「わかんないの?」


「うん、招待してくれたリズに聞けばわかるはずなんだけど……」



 当の本人がここにいないんじゃしょうがないよね。


 しかも、本人は本人で準備があるとかで僕たちの迎えにはこなかった。代わりに言われたことは「9時に学校へ来て」ということだ。



「お~い、ジュリアァ~ン!」



 噂をすれば影――そんな言葉を当てはまるかのようなタイミングで、聞き覚えのある声が聞こえてくる。



 声の主はリズだった。



 すぐに声の下方向を目で追っていくと、リズは30メートル先の『技巧祭会場入り口』と書かれた案内ゲートの下にいた。


 ゆっくりとリズの元へ歩いて行く。



 それから、目の前に立って今日招待されたことへの感謝の気持ちを述べた。



「やあリズ。またご招待ありがとう」


「いえ、こちらこそ来てくれてありがとう。いろいろな出し物があるから見ていって」


「ところで秘密だって行ってたけど、今日は具体的にどんなことをするの?」


「う~ん、端的に言えば学んだ魔法を使った運動競技会みたいなモノかしら……?」


「運動競技会?」


「まあ見てもらえばわかるわ。あと一般参加者にも参加できる競技もあるから是非参加していって」


「わかったよ。そういえば、シーデルさんは?」


「先生は朝から技巧祭の準備に朝から大忙しよ。なにせこの祭典を考えたのは先生だし」


「じゃあ今日はご一緒できないんだね」


「まあ落ち着いたら一緒に挨拶に行きましょ。それまではゆっくりしていってね」


「うん、ありがとう」



 どうやら技巧祭は楽しそうなイベントなのかもしれない。


 とっさにリズが「まだ準備があるから」と言って去っていく。

 僕らはその姿を見送ると会場のあるグラウンドへと向かった。



 グラウンドには、すでに大勢の観客がいる。



 中には魔法使いとおぼしき人もいて、ガラガラを宙に浮かべて子供をあやしたり、空から我が子の姿を一目見ようと特等席を探す親御さんお姿も見られた。


 ……うーん、改めてこうして見てみると魔法学校ってスゴイんだなぁ~。


 そうこうしているうちに技巧祭は始まった。

 最初の競技はほうきにまたがって誰が一番早くニルト川の魚を魔法を使って釣ってくるかというレースだ。


 ただし、このレースには魚の大きさもあるようで一番早く帰ってきた子の魚が小さかったために2番目に帰ってきた女の子が勝っちゃうなんてハプニングもあった……まあ一番のハプニングは見知らぬオジさんが乱入して「俺が世界を釣ってきてやったぞ」とワケのわからないことを言ってたことだけど。




 それから、変身魔法を使った集団演舞、クラス対抗クィディッチ、マッチョなゴーレムを使っての攻防戦。




 ……って、あれ? なんかヘンなの入ってるな。




 ――などなど、魔法ってなんでもあるんだなぁ~と思わせる競技ばかりだ。

 僕たちはそうした競技を見ながら、楽しい時間を過ごした。



「ちょっとっ! どうしてウチの子が反則負けザマスっ!?」



 ところがある時間になって、そんな声が聞こえてきた。


 僕が気になって左後ろの方を見てみると、10メートル先で女の人と男の人がもめている様子が目に映った。



「いや、ですから……。あの競技のルールは何度もご説明申し上げたはずです」


「それじゃあ納得いかないザマス。ウチの子が1位にならない理由をもっと具体的にハッキリと教えてほしいザマス」



 なんだあれ? ここの先生と親御さんかな?


 見て取るにそうらしい……でも、なんか一方的に親御さんの方が突っかかってる気がするんだけど。


 僕はじっと2人の様子を注視した。



「スネール君はノヴィ君に対して明らかな妨害をしたんです。我々としても彼の無実を信じたいところですが、残念ながら運営側の生徒に対する買収や工作依頼を謀ったことがわかったんです」


「言いがかりザマス! ウチのスネールさんに限ってそんなことしないザマス!」


「そのうえ競技上のルール違反も明確で――」


「いいからっ、スネールを1位にするザマス!」



 うわぁ~これは見るに明らかだ。

 親の方が一方的に言いがかりを付けて、自分の子供もを1位にしたいとかそんな感じなんだろうなぁ~。



「どうしたッスか?」



 そんなことを考えていると、唐突にヴェラさんが話しかけてきた。



「ヴェラさん。あの人、教師に向かって言いがかりつけてますよ」


「ああGoblinSquawker(ゴブリンスクォーカー)ッスね」


「ゴ、ゴブ……なんですか?」


「略してゴブスク。ゴブリンみたいに喚いて、なんでも言いがかりを付ける人のことッス。最近、チョビで済まないぐらい貴族の女性でそういう人種が増えてるんッスよ。そのせいで市民の間で貴族に対する評判がガタ落ちッス」


「なんだか迷惑な話ですね」


「んまあ、ああいうのにはかかわらない方が身のためッス」


「は、はぁ……」



 ……とはいってもなぁ~。相手をする方も可哀想だし……よしっ、ここは僕が行って注意してあげれなくちゃ。



「ちょっと僕注意しています!」


「あっ、ジュリっち止めるッス」



 とヴェラさん制止を振り切り、僕は揉める2人の間に割って入った。



「あの……」


「なんザマスっ!?」


「もうそれぐらいにしてあげた方がいいんじゃないでしょうか?」


「アナタは誰ザマス?」


「え? い、いや僕はただ仲裁に入っただけの人間で――」


「教師でもない人間は黙ってるザマス!」


「い、いやそうですが……。いくらなんでも無茶苦茶な理由でお子さんを1位にするなんてヒドすぎます」


「まあっ、ヒドいとはなんザマス! いくら部外者とはいえ、その言葉は聞き捨てならないザマス!」


「別にそんなつもりじゃ――」


「そんなつもりでも、どんなつもりでも許さないザマス! 差別ザマス!」


「うう、どうしよう……」



 無下に入ったのは失敗だったかも。

 ちょっと注意するつもりが、ドツボに嵌って大ピンチ。おかげでどういういわれか、こっちが非難され始めちゃったよ。


 僕はいわれのない避難に頭を悩ませていた。



「失礼ですが、奥様はブロスフェルト男爵夫人ではございませんか?」




 最中、唐突にそんな声が聞こえてくる。




 声に反応して、顔をそちらに向ける。すると、金色の長い髪をなびかせたテレジアさんがそこに立っていた。



「テレジアさんっ!?」


「まったくジュリアン君ったら……。なりふり構わず首を突っ込んじゃダメよ?」


「スミマセン……。でも、どうしてここに?」


「公務が一段落したからクララの様子を見に来たの。普段、あの子と遊んであげられる時間も限られてるから……」


「なるほど、それでいらしたんですね」



 確かにテレジアさんは公務に追われて忙しい人だ。


 小隊の隊長ではあるけど、王家の親戚筋に当たる伯爵家の当主としても活躍している。そのうえ亡くなった旦那さんが教会騎士団の元団長だということもあって、いろんな会議に借り出されてはその発言力を期待されてるらしい。




 だからなのか、クララと遊んでる時間がないことを気にしてるみたい……最近はメイドさんか僕がいつも面倒見てるしね。




 僕たちが話し込んでいると、ブロスフェルト男爵夫人と呼ばれた女性がテレジアさんの質問に言葉を返してきた。



「その通りザマスが、なんザマス……? アナタいったい誰ザマスか?」


「やはりそうでしたか。私はテレジア・ユリアイル・ディートリッヒと申します」


「へ? も、もしかして――ディートリッヒ伯爵ザマスかっ!?」


「ご存じいただいているようで光栄です――が、いくらなんでもお子様が参加なさっている競技に口出しするのはいかがなモノかと思いますが?」


「は、伯爵には関係ない話ザマス!」


「いえ、そいうワケには参りません。いま婦人がなさったような振る舞いが貴族全般に影響を及ぼすこともご自覚いただかねばなりませんので」


「わかっているザマス! 上流階級の人間として下々の者に慈悲を施すのは責務ザマス」


「それでは、お子様の結果に不満を漏らさないと誓っていただけますか……?」


「……うっ」


「『はい』と答えぬ理由はありませんよね?」


「…………」


「よろしいですか、ブロスフェルト婦人?」


「わ、わかったザマス……」


「ご理解感謝します。我が主ソーアの御心のままに無知を払い、婦人に『理解する』という名の勇気を与えてくださることでしょう」


「…………」


「どうかそのお言葉をお忘れなきよう」



 テレジアさん、スゴイなぁ~。

 あんなにガミガミ言ってた婦人を黙らせちゃったよ。



 結局、僕の出番はなし。

婦人も婦人で悔しそうな顔をしてたけど、なにも言わずに去って行っちゃった。それから、学校の先生らしき人がテレジアさんにお礼を言ってきて揉め事は無事解決。



 僕らは技巧祭を楽しんだ。






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