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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
第二章「静かな湖畔の森の影から」
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静かな湖畔の森の影から/其の弐


 マルティンさんから詳しい話を聞いて、僕は奇岩があるという森の奥に向かって歩いた。

 同行したのはアルマとクララ、それと邪魔者のセシルの3人だ。マルティンさんとクララの家のメイドさんは持ってきた荷物のこともあって一緒には来なかった。



 言わずもがな、これからセシルを森に置き去りにする計画を発動する。



 これでセシルのヤツが醜態をさらしてくれれば、僕の気も少しは晴れるというモノだよ。自画自賛だけど、僕って結構悪だなぁ……って、あれ? もしかしてデメトリオさんの言ってたことこと合ってる?


 まあいいや――きっとそのうち実力で見返してやれる機会が来るはずだし。


 そんなことを考えているうちに、僕たちは奇岩のある森の奥の泉にたどり着いた。

 泉は一般市民の家が丸ごと収まりそうなぐらいの大きさで、水底まで見えてしまうんじゃないかというぐらい水が澄んでいた。




「これが奇岩なのかぁ~」



 と奇妙な形に感嘆として、おもわずつぶやく。


 だって、その奇岩はどこかネズミの顔みたいだったんだもん。そのうち「ハハッ」とかしゃべっちゃうんじゃないかなと思ったよ。


 不意にアルマが「順番にお祈りしましょ」と言ってくる。僕たちは代わりばんこに奇岩に触れ、ゆっくり目を閉じて思い思いに祈りを捧げた。

 全員が祈りを捧げ終えると、唐突にアルマが話しかけてきた。



「ジュリアンはなにをお願いしたの?」


「もちろん、『一人前の騎士になれますように』だよ」


「やっぱりかぁ~。まあジュリアンらしいっていえばらしいわね」


「そういうアルマこそ、なにをお願いしたのさ?」


「えっ、私?」


「そうだよ。僕に聞いておいて、まさか自分は答えないとかじゃないよね?」


「わ、私は『長生きができますように』よ。ジュリアンみたいに高い目標なんかないし、健康で充実した日々が過ごせればそれでいいの」


「……ふ~ん……」


「なによ? なにか文句でもあるっていうわけ?」


「そう言うわけじゃないけどさ。なんだかウソくさいというか、なんというか――」


「う、うるさいわねっ! ちゃんと祈ったんだから、別にいいでしょっ!?」


「そこまで言うなら、ホントのことはあえて聞かないよ。でも、ここへ来る前から疑問だったんだけど、アルマはもう何度も来たことがあるわけ?」


「ええもちろん。だって、小さい頃に何度も来たことがあるもの。その頃はまだお母さんが元気で外にも出られた頃だったんだけど……」


「……あっ」



 そういえば、アルマのお母さんはご病気で亡くなられたんだっけ?


 もう2ヶ月ぐらい前の話になるけど、僕が居候させてもらうことになった頃に一度だけ聞いたことがある。だけど、それ以降はアルマの悲しい顔を見たくなくて一切触れないようにしてた。

 もちろん、それはマルティンさんからの頼み事でもあったんだ。


 僕は顔色をうかがうようにアルマに一言謝った。



「――ゴメン、聞いちゃまずかったよね?」


「ううん、もう気にしてないから平気よ。それより、どうしてそんなこと聞くのよ?」


「だって、ここに来るまでの道をよく知ってるように思えたから」


「ああ、それで聞いたのね」


「なんだかすごく詳しそうだったし」


「まあお母さんが病気で死んじゃった前の日まで、ずっとここに来て『お母さんの病気が治りますように』ってお祈りしてたんですもの。そりゃあ覚えたくなくても覚えちゃうモノよ」


「そうだったんだ……」



 なんかヘンな話聞いちゃったな。


 ……あ、でもマルティンさんが一緒に来なかったのは、アルマがお母さんのことを思い出しちゃうからだったのかな? もしそうなら、ヘンにカッコ付けてこなかった理由もわかる。


 僕はさらに気まずくなるのを避けようと顔をそらした。


 ふと奇岩に両手と額をこすりつけるような状態で祈るセシルの姿が目に飛び込んでくる。

 様子から察するにさっきからずっと祈ってたらしい。

 なにをそんなに真剣に祈ってるのかわからないけど、よっぽど大切な願いなんだろうなってことだけはわかった。


 とっさに祈り終えたセシルと目が合う。



「――ん、なにか用か?」


「あ、いや……」



 突然のことにおもわずたじろいじゃったよ。


 でも、よく考えるとこれはチャンスじゃないか。


 この流れでセシルを泉の向こうにおびき寄せて、うまいこと森の奥の方に追いやる。次にアルマたちを連れて先に湖に戻ってしまう。あとはマルティンさんに「先に返った」とでもウソを言えばいい……うん、これなら行けそうだ。


 思い立ったら吉日――

 僕は考えた作戦を実行に移した。



「実は君に話があるんだ」


「俺に話……? いったいなんの話だ?」


「ここだと詳しく話せない話なんだけど、向こうの方で話できないかな?」


「別に構わんが……」


「それじゃあ、あっちの方で話をしようよ」



 と言うと、僕はアルマにこの場を離れることを告げた。


 それから、セシルと一緒に泉の奥へ行き、そこでありもしない『大事な話』を聞かせてみせた。



「――で、大事な話ってのはなんだ?」


「うん、実はね。さっきから森の奥の方で光ってるモノがあるようで気になってしょうがなかったんだ」


「光るモノだと……?」


「そうなんだ。僕が見に行っても良かったんだけど、やっぱり愛剣を持っていても実力が伴わないんじゃ危険かなぁ~と思って」


「なるほど。それで俺に見てきて欲しいということか」


「そ、そうっ! そうなんだよ!」



 ……しめしめ。これはうまくいきそうな予感。セシルって案外馬鹿正直に信じやすいのかもしれない。


 僕は続けざまにセシルの好奇心を扇ぎ立てた。



「やっぱり、よく考えたらここはセシルに見に行ってもらうのが一番なんだよねぇ~」


「……匂う」


「ギクッ……」


「さっきの威勢はどこに行ったんだ? まるで借りてきた猫みたいだな」


「い、いやだなぁ~。少しは冷静になって考えた結果だって」


「……ソイツは本当なんだろうな?」


「信じてよぉ~。ここでウソ付いたってしょうがないじゃん」



 油断大敵っと。

 ここでバレちゃったら、なにをされるかわかったモノじゃないしね。



「とにかく一度見てきてよ」


「……もしウソだったときは覚悟しとけよ」


「わかってるってぇ~。もうっ、セシルは疑り深いんだから!」



 念を押して頼み込む……そうでもしないとセシルは見に行ってくれないっぽいし。


 僕は両手を胸のあたりで合わせて、ニッコリと笑ってみせた。

 その結果、「わかった」という短い返事がかえってきた。僕は心の中でほくそ笑みながらもセシルに感謝の言葉を述べた。



「ありがとう。助かるよ」


「問題ない。なにかあってからでは遅いからな。あくまでも警備上の不安を取り除くだけだ」


「やっぱり、セシルって一番騎士っぽいね!」


「オマエに言われると妙に腹立たしいのは気のせいか……?」


「なに言ってんのさ! ホントのことだよ?」


「……んまあ、そこまで言うなら褒め言葉として受け取っておこう」


「あれれ……? もしかして照れちゃった?」


「う、うるさいっ! とっとと行ってくるから待ってろ!」


「ガンバってぇ~」



 ……そして、二度と帰ってこないで。


 僕はセシルの意外な一面を微笑ましく思いながらも、稽古場での一件の腹いせができたことを素直に喜んだ。

 すぐさまセシルが森の奥へ消えたことを確認する。



「よしっ。もうだいぶ奥の方まで行っちゃったみたいだね……」



 これでようやくスッキリしたよ。

 まあ帰ってからいろいろ言われるだろうけど、そのときはそのときで上手に丸め込めば大丈夫。


 僕はアルマのところに戻り、セシルが先に戻ったことを告げた。



「――アルマ。セシルが先に帰るって帰っちゃった」


「え? 帰っちゃったの?」


「うん、なんだか大事が用があったみたい」


「それは残念ね。セシル様ともう少しお話ししてみたかったのに……」


「もしかして、アルマはセシルに気があったの?」


「ないわよ。でも、あんなに美形で男らしい騎士様だったら、どんな女の子でも話しかけてみたくなるじゃない?」


「う~ん、僕にはよくわからないなぁ」



 そんなに女の子ってイケメンが好きなの?

 なんかアルマってば、目をキラキラ輝かせちゃってるし。



「とにかくもうセシルは帰ったんだ。僕たちもマルティンさんのところに戻ろうよ」


「そうね。お祈りは済んだことだし、もうここにいても仕方ないわね」


「うん、だから戻ろう」



 そう言うと、僕はクララの手を引いて湖畔まで戻ることにした。



 ……さよなら、我が友セシル。君のことは忘れないよ――なんつって。



 などと思い描きながら道を歩く。

 ところがその半途――





「エンゲラー閣下、報告します。あと数日で例のモノが完成です」





 と、どこからともなくそんな声が聞こえてくる。


 僕とアルマは互いを顔を見つめ合って、空耳ではないことを確かめた。そして、三人で茂みに隠れるようにしてしゃがみ込み、声のする方角をのぞき見た。



 すると、10メートル先に複数の人影があることに気付く。

 森が静まりかえっているせいか、ここからでも会話が聞き取れる。



 僕は茂みから顔を半分出して聞き耳を立てた。



「……そうか……ようやくか……」


「かれこれ11年。あの馬鹿な公王の信頼を得るまで長い道のりでしたが、これでようやく準備は整いましたね」


「まだだ。まだ連中に悟られないように気をつけねばならん」


「ハッ、万全を期しておりますゆえ」



 ……諜報? もしかして敵国のスパイ?


 それを聞いたとたん、頭の中にマルティンさんと怪しげなヤツが話していた一件がよぎった。もしかしたら、あれが関係していたのかもしれない……ということは、マルティンさんはこの国に送られたスパイだったの?




 思わぬ疑惑が浮上する。




 居ても立ってもいられず、僕は敵の顔を確かめてみることにした。

 とっさに振り返ってアルマを見る。



「アルマはこのままクララと一緒にマルティンさんのところに逃げて」


「どこへ行くの?」


「ちょっと敵の顔を見てくる」


「ダメよ! いま行ったら見つかるだけだわ!」


「大丈夫。どんな顔の連中か確認したら帰ってくるから」


「でも、そういうのはセシル様の役目でジュリアンじゃまだ……」


「心配しないでよ。これでも僕は白薔薇騎士団の一員だから」



 僕はそう言い残して、迂回するようにしてゆっくりと敵に近づいていった。






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