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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
第二章「静かな湖畔の森の影から」
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誕生!白薔薇騎士団の雑用係/其の四


『――次にオマエはここはどこだと言う』




 ここはどこだ――――ハッ!




 などと、夢の中に現れた人物に呼応してワケのわからないことを口走る僕。

 ……うん、いったいなんなんだろう。自分でもよくわからないや。


 気付くとベッドの上に寝かされていた。



「ジュリアンっ!? 大丈夫?」



 ふと顔を上げると、アルマとテレジアさんが僕を見ていた。



「あれ? 僕はいったい……」


「稽古場で倒れていたのよ。セシルが私のところに来て『すぐに介抱してやってください』って言ってきたときはビックリしたわ」


「……そうか。僕、セシルに一戦申し込んで負けちゃったんだ」



 ボンヤリとした頭がかすかに晴れてきて、あのときの情景が思い出される。

 僕はあのとき勝てると思って、セシルのふところに飛び込んだ。だけど、それはセシルが仕掛けた罠で結果的に待ち構えていた左拳に打ちのめされちゃったんだ。




 ……ようやく思い出したよ。なんだ、僕ってば負けちゃったんだぁ~。




 そう思ったら、深いため息が漏れた。



「怪我はない? どこか痛むところとかなさそう?」


「大丈夫だって、アルマ。セシルが上手に気絶させてくれたみたいだし」


「……よかった……」


「ホント、アルマはお母さんみたいですごく心配性だなぁ~」


「べ、別に心配なんかしてないわよ。ただ怪我してたら、連れて帰るのも面倒なだけよ」


「はいはい……」



 ホントは申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 いつもアルマは僕のことを気に掛けてくれてるし、優しくもしてくれる。そのことをありがたいと思ってたし、ちょっとホントの家族みたいに思えてたしね。

 だから、今回ばかりは心配かけ過ぎちゃったかも。



 不意にテレジアさんの方を向く。



 すると、目があったテレジアさんは意味ありげな微笑みで僕を見ていた。その様子から察するにアルマは気絶している間もずっとそばにいてくれたんだろう。


 その証拠に再びアルマの方に顔を戻すと、目尻のあたりにうっすらと涙の跡が残っていた。


 僕はそれを見なかったことにして、テレジアさんに尋ねた。



「――あの、セシルは……?」


「散歩に出かけると言って、屯所を出て行ったわ」


「……そうですか……」


「ジュリアン君、ごめんなさい。あの子があそこまで拒絶するなんて思っても見なかったわ」


「とんでもないっ! 悪いのは僕なんです。セシルに『夢は叶わない』みたいな言葉を言われて、ついカッとなっちゃったんですから」


「あの子、そんなことを……」


「でも、正直僕もわかってたんです。公国の片隅にあるちっぽけな土地の領主で、没落貴族で、僕自身も養子で、なんの血筋も知識もない人間が騎士になろうだなんて夢物語なんですよ」


「そんなことないわ。夢を持つってことはステキなことよ」


「テレジアさん。だけど、それはこの身分制度の社会じゃ叶わないんです。セシルの言うとおり騎士になるにはコネも上納金もやっぱり必要みたいだ」


「……ジュリアン君……」


「僕はもうあこがれのヴィエナに来ただけでも幸せなんです。それでなんの不満も――」


「だったら、うちの小隊に入らない?」


「へ……?」



 とっさのテレジアさんの言葉。


 ……小隊に入らないだって? ヴェラさんのつまらないギャグじゃないけど、ホントにご招待?


 僕はワケがわからなくなった。



「え、えっと……僕はなんの知識も経験もない夢見がちな没落貴族の息子ですよ?」


「ここではそんなの関係ないわ。アナタさえよければ、ここでは身分なんて必要ないの」


「だけど……」


「ヴェラとロッテの出自については聞いた?」


「え? あ、はい……」



 そういえば、ヴェラさんとロッテさんの出自について聞いていたっけ。確か2人とも遍歴騎士で貴族の身分には縁遠い存在だとかなんとか言ってたような。


 僕はそれを踏まえた上でテレジアさんに向かって答えた。



「2人とも遍歴騎士だとおっしゃってました」


「……そうよ。そして、2人は私の本籍である家が代々寄付し続けている孤児院の生まれなの」


「え? じゃ、じゃあ2人とも孤児なんですかっ!?」


「ええ。元をたどれば、2人とも血筋は名門貴族なんだけど、ワケあって親に捨てられたみたい」


「そうだったんですか……」


「まあ詳しい話は本人たちから聞いてちょうだい。それより、いまはアナタが私の小隊に入りたいかどうかを聞きたいの」


「僕なんかでホントにいいんですか……?」



 テレジアさんはなにを考えてるんだろう?


 確かに騎士になるための第一歩を踏めるのはうれしい。しかし、セシルにやられて温情で入れてもらってるみたいで気が気じゃなかったのも事実だ。


 だから、テレジアさんの提案は受け入れがたかった。



「もちろん、歓迎するわ。だけど、アナタは騎士としていろいろと足りないところもあるみたいだから、公国騎士が慣例的に取っているような雑用係から初めてもらうわ」


「……雑用係?」


「つまり、ヴェラやロッテ、それからセシルや私に頼まれた雑用をこなして欲しいの。その見返りと言ってはなんだけど、アナタには剣の稽古や騎士としての作法を教えるわ」


「じゃ、じゃあ僕は騎士になれるんですか……?」


「そう言うことになるわね。まあここは教会騎士団所属の部隊だから、アナタが望んでいるような公国騎士とはまったく性格が異なるんだけど」


「……僕が……騎士になれる……」



 ホント? 夢じゃないよね?


 僕はうれしさのあまり頬をつねった。






 ……痛い。






 確かに現実的な感覚がある――じゃあこれは本当に夢なんかじゃないんだ。

 それを知ったとたん、僕は両手を高く挙げて大声で喜ばずにはいられなかった。



「やったぁぁあああーっ!!」



 でも、すぐにテレジアさんとアルマが見ていることに気付いて恥ずかしくなった……いやぁ~つい勢いでやっっちゃうとなんでもできちゃうモノなんだね。



 とっさにアルマに声を掛けられる。



「良かったわね、ジュリアン」


「ありがとう。アルマが居候させてくれなかったら、こんな夢みたいなこと起きなかったよ」


「もう大げさねぇ~。これはジュリアンが勝ち取ったチャンスなのよ。私はなにもしてないわ」


「ううん、アルマのおかげなのは間違いないよ」



 きっとそうに違いない。


 だって、あのときアルマを無視して直接公国騎士団の屯所に行ってたら、僕はヴィエナには留まってなかったかもしれないんだもん。


 そう考えたら、アルマを助けたことは間違いじゃなかったと思える。


 僕はベッドから起き上がり、改めてテレジアさんに挨拶をした。



「テレジアさん。僕、一生懸命やりますのでどうかよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします。いろいろと雑務をお願いすることになるから大変だとは思うけど、頑張ってちょうだい」


「お任せくださいっ!」



 よぉ~し、やるぞっ! いつか絶対アイツを見返してやる!




 僕はその気持ちを胸に両手の拳を握りしめた。






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