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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
第二章「静かな湖畔の森の影から」
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誕生!白薔薇騎士団の雑用係/其の壱


 僕の一日。

 それは朝の安らかな二度寝から始まる。



 起床時間になっても布団の中でぐっすりと就寝。

 ただし、それには投石機から射出されたアルマという名の大岩の一撃を伴う。なお、腹部に直撃すると瀕死の状態になります――最近パリイを覚えたけど。



 第2に朝食を済ませてから朝市でパンの売り出し。ここで「毎日が安息日」と言って休もうとすると、口の中に沸かし立ての熱湯を突っ込まれます。


 よい子はまねしちゃダメよ。


 第3は午後から靴屋「オリーヴェ」で店番。

 マルティンさんはほぼ毎日工房に籠もってオーダーメイドの靴を作っているから、こっちはアルマと交代でやっている。



 とはいえ、アルマも家事があるから僕がほとんど店番してるんだけどね。まあお客さんお頻繁に来るわけじゃないから、いつも夕方ぐらいまでマルティンさんの蔵書を借りて読んでいる。


 だから、今日も店番をしながら3時ぐらいまでの時間を過ごしてたんだ。


 ところが3時をちょっと過ぎた頃。

 この時間に珍しくドアベルがカランコロンと乾いた音を立てた。



「チョビお邪魔するッスよ」



 聞こえてきたのは、以前聞いたことのある声。


 僕はすぐさま本を置いて、店のドア先まで歩いて行った。すると、そこには白銀の鎧を身にまとった2人の女性騎士が立っていた。



「ヴェラさんとロッテさんじゃないですか!」



 そう。そこにいたのは、以前クララちゃんを助けたときに会った2人だ。

 揃ってやってきたってことはなにか用事があるらしい。



「こんにちは、ジュリアン君」


「どうもッス」


「こんにちはお二人とも。今日はどうなさったんですか?」


「……んっとね、今日はアナタをウチに招待しようと思ってやってきたの」


「ウチって……。もしかして、白薔薇騎士団のことですか?」


「そうッス! その駐屯所があるディートリッヒ邸の裏屋敷にチョビご招待ッス」


「招待? でも、なんで――」



 と思ってたら、突然奥から僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


 家事を終えたばかりらしいアルマだ。

 アルマは手でエプロンをたたみながら、僕らの前までやってくる。



「誰かお客さ……って、あれ? この前の騎士様じゃないですか」


「どうもこんにちはッス」


「お邪魔してます」


「なにかご用ですか? もしかして、ジュリアンがなにか失礼なことしました?」


「そうじゃないの。実は今日ジュリアン君をウチの小隊の駐屯所にご招待しようと思って」


「駐屯所に招待……?」


「そうッス。小隊だけにご招待なんつって!」



 ウマいっ、さすがヴェラさん!


 ……本音を言えば、すごく寒かった。ああ、ロッテさんもアルマも突然の寒波が訪れに縮こまってるみたいだよ。


 僕はすぐさま相づちを打った。



「招待ですかぁ~! そんなスゴイところに僕なんかが言っていいのかなぁ~」



 半ば苦笑い。

 まったく、ヴェラさんが滑ったのをカバーするのも楽じゃないよ。


 僕はロッテさんとアルマに会話をするよう目で促した。



「そ、そうね……。私たちみたいな平民が行ってもいいモノなのかしら?」


「大丈夫よぉ~。私たちも貴族って身分じゃないし、気軽に来てくれて平気よ~」



 うわぁ~声がうわずって嘘くさくなってる。

 一方のヴェラさんは笑ってもらえなくて落ち込んじゃってるし……と、とにかく話を進めるしかないよね。


 なにごともなかったかのように話を切り出す。



「でも、ホントにいいんですか?」


「もちろんよ。だって、テレジア隊長が呼んでこいって言ったんですもの」


「あのテレジアさんが……?」


「ささやかなお礼がしたいっていうの。だから、一緒に来てくれないかな?」


「う~ん、そう言われましても店番もありますし……」


「それだったら、私が見てて上げるわよ」



 とっさにアルマが口を挟んでくる。



「え? でも、この前と同じでアルマばかりに悪いよ」


「呼ばれてるのはジュリアンなんでしょ? 無下に断る理由もないんだし、オリーヴェのお得意様ってこともあるから行ってきたら?」


「だけど――」



 正直、アルマに負担を掛けさせたくはないなぁ……アルマとしては、僕が居候するまでずっとこなしていたことぐらいの認識がないんだろうけど。


 だけど、それじゃ男が廃る。


 女の子ばかりに仕事を押しつけるなんて、なんかカッコ悪いじゃないか。



「だったら、2人で行ってくればいいんじゃないか?」


 ふと店の奥からそんな声が聞こえてくる。


 振り返ってみると、マルティンさんがカウンターのところに立っていた。

 とっさにロッテさんたちが会釈をする。マルティンさんはテレジアさんのところの靴も作ってることもあって、2人とは面識があるらしい。

 三人で仲良さそうに世間話に花を咲かせていた。


 ある程度落ち着いたところで、僕はマルティンさんに尋ねた。



「2人って……。アルマも一緒ですか?」


「そういうこと。店番の方は私が代わりにやるから」


「でも、お父さん。それだと靴の製作作業に支障を来すんじゃ……?」


「なあにアルマが心配することじゃないよ。今日一日ぐらいなら大丈夫さ」


「――ですが、そんな甘えはいけないことのような気がします」


「2人が気にすることなんかないさ。君たちは若いんだし、少しぐらい羽目を外しても文句は言わないよ」


「……マルティンさん……」



 やっぱり、マルティンさんはいい人だ。


 脳裏にこの前の裏通りでの会話がちょっとだけよぎったけど、とても殺人を犯したような人には見えない。正直そのことを考えると胸が痛むんだ。


 僕はどうすべきか迷った。

 チラリとロッテさんたちの方に目線を向ける。



「私たちの方も問題ないわ。むしろ、大歓迎って感じね」


「チョビじゃなくて、いっぱい接待するッスよ!」



 と言って、2人で来ることを歓迎してくれている。

 そうした気持ちにも報いなければならないのかもしれない。



「わかりました。では、失礼ながらお相伴にあずかることにします――アルマもいいよね?」


「……うん、私は構わないけど……」


「なに? まだ迷ってるの?」


「当たり前じゃない! お父さんが働いてるのに私が働かなかったら……」


「アルマはいつもガンバってるんだから、ちょっとぐらい休んだっていいんじゃないの?」


「……そう言われると弱いのよねぇ~」


「じゃあ僕につきあうってことで!」


「え?」


「この前の魔法学校の時だって、なんだかんだで付いてきてくれたじゃないか」


「あ、あれはリズに拝み倒されたからで……」


「なら、僕も拝み倒していい?」


「うっ……」


「ねえいいでしょ?」


「……わかったわよ……」


「じゃあ決定だね!」



 うんっ、なんだかいい感じ……むしろ、これでよかったのかもしれない。

 僕はマルティンさんに一言お礼を言ってオリーヴェをあとにした。






ヴェラのギャグで福山潤さんを思い浮かべたのは僕だけじゃないはず……(笑)

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