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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
第二章「静かな湖畔の森の影から」
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自警団(笑)、ふたたび/其の壱


 ここはヴィエナの新市街からさらに西へ行った郊外。


 四角い螺旋状に作られた街を囲む城壁の付け根に当たる部分で、周囲は農地として利用されている。

 その一角にたてられた農場兼ホイリゲ形式の酒場『フクロウの止まり木亭(デェーブッシュエウル)』は、ブドウの木を屋根代わりにしたオープンテラスが売りで、そこで地酒や農場で採れた野菜や果物、それに家畜の肉を出している。



「お待たせしました。牛肉のリブステーキです」



 そんなお店でウェイターっぽい一言。


 僕はいま猛烈に働いている――なんでかって? それは以前助けてくれたエフィさんにお礼がしたいからという理由からだ。


 もちろん、無給。


 お礼なのに給料なんかもらっちゃったら、それこそ失礼だよ。だから、今日はアルマにも断って朝から開店準備を手伝ったり、夕方開店してからの配膳や注文取りをしたりしているんだ。



 ゆえに現在大忙し。



「ジュリアン君、あちらのテーブルのお客様の注文をお願いできるかしら?」


「すぐにうかがいますっ!」



 なぁ~んて受け答えて、お店を切り盛りする歯車になっちゃってます。

 でも、まだまだ夜は長い。



「よ~しガンバるぞぉ!」



 などと思ってたら、新たなお客様がご来店。


 同時にドアベルが鳴って、僕は景気のいい声で出迎えた。ところが振り向いてその客を見た瞬間、おもわずビックリした。

 なぜなら、やってきた客は僕に無実の罪を着せた自警団のデメトリオさんwith部下のみなさんだったからだ。



「フワッハッハッハ! やっと見つけたぞっ、我が愛しの罪人よ!」


「デ、デメトリオさんっ!?」


「――さあ、今度こそお縄をちょうだいしてやる」




 もうなんでこんな時に来るかなぁ~。



 僕はタイミングの悪さに頭を悩ませながらも、デメトリオさんに無実を訴えた。



「ですから、僕はなんの罪もない市民です。あれはアナタが悪意を持ってやったんじゃないですか!」


「……フッ、私はそんなことをした覚えはないぞ」


「へ?」


「私は悪くない。あれを付けていたオマエが悪いのだ!」


「ちょっ……」



 ダメだ、この人まともな話が通じない。

 どうにかして、僕の無実を証明しなくちゃ。



「だ、だったら……もう一度僕が罪を犯したという証拠を見せてくださいよ」


「いいだろう! ならば、いま一度オマエの背中を見せていろ!」


「わかりました」



 と言って、くるりと背中を見せつける。


 すると、デメトリオさんが決め台詞でも言うかのように言った。



「見ろ! オマエの背中には『悪』の1文字が――」


「ありませんよ」


「……あれ?」


「あるわけないじゃないですか。だって、紙で貼ってあったんですよ?」




「しまったぁぁぁぁあああああ!」




 なにこれ? どういう三文芝居?

 馬鹿なの、死ぬの? まあ本気でまだ僕の背中にあの紙が貼ってあると思ってたあたりがデメトリオさんらしいけど。


 ……というか、ホントにこの人自警団の人?


 僕はそっちの方が気になった。

 そのうち、デメトリオさんが目の前で起きた悲劇にうなだれる主人公みたいに両手をついて倒れ込む。



「……馬鹿な……証拠が……消えただとっ……」


「いや、アナタが馬鹿なだけだと思いますけど……」


「まさかっ! 密室トリック!?」


「な、なんだってぇーーーーーーー!!」


「あのぉ~そこは部下のみなさんが驚くところなんですか――それに密室じゃないし」


「……こうなれば別の方法でアプローチするしか……」


「あ、まだ捕まえる気なんだぁ~」



 こりゃ呆れるどころか、相手にしない方がよさげかも。でも、きっとなにがなんでも絡んでくるんだろうなぁ~。


 僕は次になにが起きるのかと様子を見守ってみた。

 すると、デメトリオさんと部下のみなさんが円陣を組み始める。



「……作戦は……ああしてだな……こうしてだな……」


「ふむふむ……なるほど……」



 どうやら、いまから作戦を練るみたい……というか、入り口でそんなことされるとほかのお客様の邪魔なんだけど。



「よぉ~し決まったぞ。これでアイツもばっちり逮捕だ!」



 と言って、デメトリオさんたちが再びこっちを振り向く。


 ……いったいどんな作戦を練ったんだろう?


 僕は固唾を呑んで、次の言葉を待った。



「いいか? オマエの罪はこうだ」


「な、なんですか……?」


「いまオマエはウェイターをしているな?」


「はい?」


「いや、だからウェイターとして働いてるだろ?」


「え、ええまあ……確かに僕はいまウェイターです」


「ならば、客に水を持ってくるべきではないか?」


「……客?」


「我々のことだ!」


「あ、お客様だったんですね……」



 すっかり忘れてたよ。


 この人たちなにしに来たのかと思ってたけど、単に飲み食いに来ただけなのね。言われてみれば、僕を捜し回っていたにしては偶然すぎるし。


 僕は先導して「どうぞこちらへ」と言って席へ案内しようとした。



 ところが――



「待て」



 突然、立ち止まるよう命じられる。


 その声にすぐに足を止め、後ろを振り返る。すると、デメトリオさんがなにか言いたげな表情で僕を見ていた。


 いったいなにがしたいんだ?

 僕はただウェイターとして席に案内しようとしてるだけなんだぞ。



「席に案内するのはあとで構わん。先に水を持ってこい」


「え? え? え?」


「早く水を持ってこいっ!」


「か、かしこまりました……」



 う~ん、なんだろ――よくわからない。


 僕は言われるがままカウンターの奥に行き、そこにあったピッチャーの水を木製のコップにくみ出した。

 それから、元の場所に戻って要望通りデメトリオさんに水を差し出した。



「どうぞ」


「いらんっ!」


「え……? いまさっき持ってこいって言いましたよね?」


「そうではない。その水を私にかけんだ」


「は、はい?」


「だから、私にそれをかけるんだ」



 もう完全にこの流れおかしいよねっ!?


 僕は疑心暗鬼になりつつも、恐る恐るデメトリオさん顔にコップの水をかけた。

 もちろん、そうした以上顔はびしょ濡れだ。


 髪は水分を含むし、服だって首を伝って流れた水で濡れている……ホント、どうしたいの?



「……私に……水を……かけたな……」



 と思ったら、急に意味ありげな一言が発せられる。


 僕はその言葉に半ば呆然としながら「はい」と頷いて答えた。



「隊長っ! ウェイターが水をかけました!」


「え?」


「こいつはくせえーっ! ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーっ! こんな悪には出会ったことがねえほどになぁーーーっ。こいつは生まれついての悪だっ!」


「ちょ、ちょっと待ってください! かけろっていったのはデメトリオさんですよ!」



 うわぁ~めんどくさい展開になった。


 デメトリオさんはこれを狙っていたのか……というか、また自作自演だよ。まったくどうしてそんなにも僕を捕まえたがるのかな。


 すぐさま無罪を主張しようとしたら、不意にデメトリオさんの言葉を遮られた。



「黙れ! この悪人めっ! オマエの罪は私に水をかけたことだ!」


「そうはいきませんよ。少しは話を聞いてください!」


「ええいっ、悪に話す言葉などない!」


「どうしてですか?」


「だって、悪いことしたからに決まってるじゃん!」



 と、捲し立てるようにデメトリオさんが声を荒げる。


 どうみても逆ギレです。本当にありがとうございました……ってか、ダメだぁ~! この人に良識ってモノが通じないよ!


 どうにもならない状況に僕は頭を痛めた。



 そんなときだった――



「おい、オマエら入り口塞いで邪魔だ」



 そう言って、現れた別の客。


 どうやら、いましがた来て入るに入れずにいたみたい――僕もデメトリオさんもその存在に気付いて、おもわず申し訳なさそうな声で答えちゃった。


 だけど、その甲斐あってうやむやになった。


 目の前をお客さんが通り過ぎていく。


 その間にエフィさんが近づいてきて、



「はいはい、お遊びはそこまでにしていただけませんか?」



 とデメトリオさんに説教し始めた。


 もちろん、デメトリオさんがそれで引き下がるわけがない。あれだけ僕に食らい付いたんだから、ガキ大将みたいな態度でエフィさんにも食らい付くはず。


 僕は二人の様子を静かにうかがった。



「なんだ、エフィ。私の仕事の邪魔をするっていうのか」


「そうじゃありませんよ。ここは私の働くお店ですし、ほかにもお客さんがいらっしゃるんです。理由もなくアナタ方が好き勝手していい場じゃないんです」


「ふんっ、理由ならちゃんとあるぞ?」


「なんですか?」


「私はこの悪党を捕まえに来たのだ」


「デ~メ~ト~リオさぁ~ん」



 とたんにエフィさんの声が裏返る。


 ……ってか、怖い怖いっ! まるで獲物を狙い定めてうめくオオカミみたいじゃないか。そのせいかデメトリオさんの方もまるで子鹿みたいな目でおびえている。


 さすがエフィさん!


 この酒場でずっと働いてるだけあってトラブルには慣れてるみたいだ。僕はそんな安心感とデメトリオさんの相手をしたという疲労感からため息を漏らした。


 やがて、デメトリオさんは部下のみなさんと共に肩を落としながら、ゆっくりと奥のテーブルの方に消えていった。


 それから、僕はエフィさんに頭を下げた。



「すみません、ヘンなのに絡まれちゃって」


「しょうがないわ。あの人たち、いっつもあんな感じですもの」


「は、はあ……」


「それより、今日はもう上がっていいわよ」


「え? いや、でも僕はまだエフィさんにお礼できたと思ってませんし、それにまた絡まれたところを助けてもらってしまって……」


「気にしちゃダメよ。それに個人的な用事もあるの」


「個人的な用事?」



 僕がそう言うとエフィさんが目線を奥の方へと見遣る。


 すると、そこにはさっき僕たちが入り口を塞いでしまったことに怒っていたお客さんの姿があった。


 しかも、エフィさんに向けて手を挙げている。



「……あれ? もしかして、エフィさんの彼氏さんですか?」


「そんなんじゃないわよ――ただの知り合いよ」


「あぅ、ごめんなさい……」


「ううん、いいの。それぐらい親しくしてるのは間違いないから」



 と僕の間違った見立てを笑って受け流すエフィさん。


 その物腰の柔らかさは、なんとなく近所に住む年上のお姉さんって感じがするなぁ~。このまま甘えていたいかも……なんて思ってしまう。


 けれども、なにか大切な用事がある手前そういうわけにもいかない。

 僕はお礼を言って、フクロウの止まり木亭から去ることにした。



「では、お言葉に甘えてお先に失礼します」


「今日は手伝ってくれて助かったわ。ありがとうね」


「……いえ。こちらこそ先日も助けてもらったばかりか、今日もデメトリオさんたちに絡まれたところを助けてくださって、ホントに感謝してます」


「またいつでも遊びにいらっしゃい。仕事もしたくなったら優遇してあげるわ」


「はい! そのときは是非」






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