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我が主(マスター)に剣の誓いを  作者: 丸尾累児
第一章「主を求めて三千里」
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宿敵(ライバル)はファンタスティック少年ボゥイ/其の弐

 捜索開始から20分。



 未だ女の子の行方はわからない。僕はメイドさんと一緒に一生懸命近隣を探し回ったけど、どこにも見つからなかった。

 その半途――

 僕はメイドさんに女の子の特徴を改めて尋ねた。



「もう一回、女の子について詳しく教えてもらえませんか?」


「はい。お嬢様はクララというお名前でして、今年で7歳になられます。背丈はわたくしの腰元に届くぐらいで、亜麻色の髪を垂れた犬の耳のように頭部の両サイドで縛っておられました」


「ほかには?」


「そうですね……。亡くなられた旦那様がプレゼントなさった大きな星の形をしたペンダントをよく身につけてらっしゃたので、おそらく今日もそれをしていたのではないかと」


「星の形のペンダントかぁ……でも、どうして急にいなくなったりしたんですか?」


「実は今日ご当主様が会食をなさるということで市場へ買い出しに来ていたんです。ところがその買い出しにお嬢様が同行したいと申されまして……」


「それで目を離しているうちにいなくなったと?」


「ええ、そうなんです。いつもはお世話係と一緒に邸内を遊んでいらっしゃるのですが、玄関から出て行くところを目撃されてしまいまして、それでついて行きたいと駄々をこねられてしまったのです」


「ずいぶん好かれているんですね」


「なにぶん母親であるご当主様がお忙しい身ですから。わたくし共がお相手差し上げる機会が多いんです。そのこともあって、使用人を家族として愛情を抱いているんです」



 なんとなくメイドさんの話からクララという女の子の姿が垣間見えてきた。

 たぶん、クララはいつも遊んでくれるメイドさんについて行きたかったんだ。そして、多くの人でごった返す市場を目の当たりにして、目を輝かせていたに違いにない。


 だけど、ちょっと目を離したスキにいなくなちゃった。


 目移りしてどこかに行ったのかもしれないし、人の波に流されて迷子になってしまったのかもしれない。


 僕は再度メイドさんに問いかけた。



「ほかに同行した人は?」


「わたくしのほかに2人のメイドが付いておりました」


「その人たちはどこに行ったんですか?」


「一人は屋敷へ報告に戻りました。もう一人はおそらく別行動でほかの場所を探しています」


「なるほど~。でも、状況から察するにそれほど遠くへは行けないんじゃ……?」


「そう思ったのですが、かれこれ探し始めて一時間になります。それでも見つからないこの状況を考えたら、ホントに遠くへ行ってしまわれたのではないかと」


「うーん、そうなのかなぁ~」


 僕が思うにクララっていう女の子は箱入り娘っぽい。


 周りを大人に囲まれて、愛情いっぱいに育った女の子だもん。さらに聞く限りじゃとても気弱そうに思える。

 そんな子が自分から遠くに行こうなんて、僕には到底可能だとは思えないよ。とにかくメイドさんの話から考えうる行き先を導き出さなきゃいけない。


 僕は道すがら、頭の中で女の子の行方を追い続けた。

 ところが夢中になりすぎたせいか、とっさに前を歩いてきた人とぶつかっちゃった。



「おいコラッ、前を見てあるきやがれ!」



 勢いよくメイドさんの足下に倒れ込む僕。

 それと同時にぶつかった相手から罵声を浴びせられた。



「スイマセン……」


「ちっ、気をつけろよ」



 なんだか機嫌が悪かったみたい。


 様相はいかにも柄の悪そうな男。しかも、ほかにも3人仲間がいて、全員が僕を睥睨するような目で見ている。




 ……ううっ、怖い。できるだけ目を合わせないようにしないと。




 身震いする僕は作り笑いを浮かべて、再度男に対して謝った。そのうち、男は大きな麻袋を肩に背負い込んで立ち去っていった。

 僕はメイドさんに手を貸してもらい、その場で身を起こした。



「大丈夫ですか?」


「ええ、なんとか……」


「それにしても、柄の悪い人たちですね」


「まあ前を見てなかった僕が悪いですから」



 このことに関しては、全面的に僕が悪いんだからしょうがない。




 そう思っていた矢先のことだった――




 不意に足下に光るなにかがあることに気付く。それは星の形をしていて、どこかで聞いたようなモノのように思えた。

 僕はすぐにそれを手に取り、顔に近づけてじっくり観察してみた。すると、とっさにメイドさんから「あっ」という声が漏れた。


 僕はその声に顔を振り向けて驚いた。


「……これは……お嬢様の……」


「え? これクララちゃんの持ち物なんですか?」


「ええ、間違いありません。お嬢様がいつも肌身離さず持ち歩いていた亡くなった旦那様からプレゼントされたペンダントです」


「……どうしてこんなところに……」


 ホントにビックリ仰天だ。


 まさかこんな足下にクララちゃんの手がかりが落ちてるなんて。でも、いったいどうしてこんなところに落ちていたんだろう。


 不意にぶつかった男が肩に背負っていた大きな麻袋が頭をよぎる。



「……待てよ……」


「どうかされたんですか?」


「いえ、いまぶつかった男が持っていた麻袋から落ちたような気が……」


「あの細長い大きな麻袋ですか?」


「それですっ! もしかしたら、あれかもしれない!」


「え?」


「こんなところにペンダントが落ちているんだったら、ちょっと注意すれば気付くはずですよ。でも、アッサリ見つかった」


「じゃああの中身がお嬢様だっておっしゃられるんですかっ!?」


「おそらくは……」



 ある意味、棚からぼた餅だ。


 不謹慎かもしれないけれど、女の子の行方がわかっただけでも収穫かもしれない。とにかくメイドさんを急かして、あの男たちを追いかけないと。


 とっさに僕はメイドさんに呼びかけた。



「行きましょ。行って、あの中身を確認しなきゃ!」



  そう言って、僕は風のごとく走り出した。




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