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来世で劣等生やってます。  作者: 海野叶衣
第1話 劣等生の日常
6/8

6


 放課後、教室は掃除当番が掃除をするだろうと、とりあえず図書室に移動した。


 みんな放課後はさっさと帰りたいのか、放課後たまに来る図書室は昼休みより静かである。……が、今日は一部姦しい人たちがいた。

 多分、最近生徒会副会長である竜胆凌(りんどうしの)先輩が、放課後図書室に来るのが習慣であるという噂が出回っているからだと思う。


 いつ来るかな。なんてきらきらした顔で笑い合う少女たちの姿は大変可愛らしいのだが、如何せん場所が場所である。勉強している人たちもいる中であの歓声は、あまり望ましくないのではないだろうか。


 ちらりと周りを見渡してみると、やはり迷惑そうな顔をしている人がちらほらいる。主に男子である。女の子であればまだ彼女たちと同じように竜胆先輩を見たい人もいるのだろう、あまりあからさまに嫌そうではない。しかし男子にとって格好いい男というのは、たいてい無興味、もしくは嫉妬の対象でしかない。


 ご愁傷様です。

 私は小さく苦笑いして、適当な席に座った。隣の椅子にカバンを置いて、中からノートと筆箱を取り出す。数学、ではなく英語である。今日は遅くなる予定なので、できる予習や宿題は済ませておきたい。


「……よし」


 小さくこぶしを作り、気合を入れて英文に取り掛かった。








「――あ」


 予習を始めて、1時間くらいたったころ。

 すでに竜胆先輩狙いの女の子たちは諦めがついたのか、さっさと帰ってしまっていた。ちなみに他の勉強していた人たちは早々に退出されました。やっぱりちょっとうるさかったようです。


 私はといえば、いったん集中できれば騒音があまり気になる方ではないため、割と順調に自分の勉強を進めていた。そしてたった今、電子辞書を教室に忘れたことに気付いたところである。

 少し悩んだものの、正直あれがないと単語がまったくわからない。私は小さなため息をつくと、そっと席を立った。……最近、かなりの頻度でため息をついている。私の幸せは少しずつ逃げて行ってます。なんてね。



 頭の中で冗談を言ってる状況に我ながら切なさを感じながら、図書室のドアを開けようとした。――その時。


 自動でドアが開きました。



「……。」

「……あ……。」



 いくらハイテクな学校とは言え、ドアが自動で開くシステムまではない。当然、外から誰かがドアを開けたことになる。目を丸くしてドアの前に立つ男を見上げ、さらに目を見開いた。



 ドアの前にいたのは、少女たちが心待ちにしていた生徒会の紳士――竜胆先輩だった。



 ……この方、ゲームの中ではかなり腹黒いキャラクターとして描かれていたと記憶している。しかし、滝沢先生の例もあるため、一概にゲームとまったく同じ性格であるとは言えない。

 どちらにせよ、今ドアの前で立ち往生していては邪魔だろう。私はさっと避けて、「どうぞ」と小さな声で言った。正直、肝が縮みそうである。


 竜胆凌と言えば、自分の容姿にキャーキャー言っている主人公以外の女の子を“公害”だなんて呼んでいたのだ。今も「マジこの女邪魔だわ消えてくんねぇかな」とか思われてたらどうしよう。

 そんな私の気持ちを感じ取ったのか偶々か、はたまた演技か。彼は薄っすらと笑みを浮かべ、私に小さく会釈して見せた。



「ありがとうございます」

「あ、いえ……。」



 優雅な所作の先輩に、私は慌てて会釈し返した。

 その顔に浮かべられた柔らかい微笑みに、私は少し顔を赤くして苦笑した。“腹の中で何か考えているに違いない”なんて、私の被害妄想が過ぎたらしい。実際腹黒いかどうかはともかく、初対面の私に突然「公害」なんて言うようでは先ほどの女子のようなファはつかない気がする。どうも失礼な勘違いをしてしまい、私は一方的に気まずさを覚えた。


 先輩が室内に入ったのを確認して、素早く廊下に出てドアを閉める。ぱたん、と音が鳴り、私はほっと息をついた。


 ……気にしすぎだよね……。


 私はふとそう思い、苦笑した。

 向こうはきっと私のことなんて、さほど気にしていないだろう。ゲームのキャラクターということで自分が向こうのことを知っている分、向こうにも自分が知られているような気になってしまう。むしろ自分が意識過剰になっている気がして、少し恥ずかしかった。



「……所詮、脇役だもんね……。」



 ゲームの中で私、“大崎綾”は登場していなかった。名前すら出ていなかったように思う。つまり主人公との接点も隣の部屋というだけで、ストーリーに触れるような関わり方はしないのだろう。……多分。


 頭の中を整理して少し気持ちがすっきりした私は、今度こそ辞書を取りに行こうと教室へ向かった。




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