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来世で劣等生やってます。  作者: 海野叶衣
第1話 劣等生の日常
3/8

3

 数学研究室を出てすぐ、寮に帰った。


 家から通う生徒もいる中、私は学生寮『桃の木寮』から通学している。中等部までは家から通っていたし、高等部からも家から通いたかったのだが、母が許してはくれなかったのだ。父はむしろ私を家から出したくはなさそうだったが、いかんせん、我が家の主導権は基本的に母にある。「ただでさえ不器用なんだから、今からでも自立できるようにしなさい」と言われ、今年の春から入寮したのだ。

 ただ、一応お年頃。みんなで暮らしているとは言え、部屋は一人部屋――一人部屋と相部屋が選べるようになっている。私は自立が目的の入寮なので一人部屋――なので、気分は一人暮らしだ。


 ご飯は寮の食堂で食べられるが、自炊もできる。母の言いつけ通り、入寮以来私のご飯は私の手作りだ。ちなみに味は微妙だが、入寮したばかりの頃に比べれば断然マシ、という具合である。

 初めて作った料理は辛くて酸っぱくてなのに甘くて……正直、とんでもなく不味かった。食材を無駄にできないと思い食べたがとたん胃が痛くなり、持ってきていた胃薬が早速役に立ったのも今では良い思い出だ。


「……今日は、オムライスにしよう」


 少しずつ増えていく料理のレパートリーに胸を躍らせながら、私は寮の中に入った。











 部屋に着き、部屋のカギを開けようと鞄を漁った。寮の部屋はセキュリティ管理が厳重にされており、ロック・解除どちらもカードでの操作になる。おまけにカードが学生証代わりであり、これ1枚で学園内のあらゆるサービスが受けられるのだとか、そうでないとか。あまりそう言った特典を使ったことがないので、よく分からない。

 カードを捜しあててドアロックを解除したところで、ふと廊下の向こうにいる人影に気がついた。向こうもこちらに気がついたようで、輝くような笑顔を携えて小さく手を振りつつ、駆け寄ってきてくれた。買い物袋を提げているから、学園の近くにあるコンビニにでも行っていたのだろうか。


 ピンク色のTシャツと短パン、それにスニーカーという、かなりラフでシンプルな格好だが、どこかのモデルにさえ見えた。学校にいる時はポニーテールにされていた長い髪だが、今は結んでいないようだ。そのため銀色の髪が、彼女が動くたびにさらさらと(なび)いていて気持ちよさそうだった。普段の気の強そうな青い瞳は、私に微笑みを向けていることで少し細まり、優しい雰囲気がある。

 さらに、短パンから伸びた足がとても綺麗で印象的だ。

 ……べ、別に変態的な意味ではなく……。


 自分の脳内で慌てて言い訳をしている私に気づかないまま、美少女――松山香織(まつやまかおり)さんは、学校が終わってしばらく経っているにも関わらず未だに制服姿の私を見て、少し首をかしげた。その動作さえ愛らしい。


「大崎さん、今帰って来たの?」

「え、えっと……。」


 言われて、少し言葉につまる。美少女な松山さんは頭も良い。ちなみに運動神経も抜群だ。家の都合で能力があるにも関わらずこの学校に通っていなかったはずだが、先日の中間試験では張り出された試験結果の順位の1位の位置に名前があった。

 そんな彼女に、「前回の試験結果が悪すぎて呼び出し喰らってました」と正直に言うのは、少し躊躇(ためら)われた。


 考えた結果、「滝沢先生に呼び出されてた」と少々省いて伝える。

 しかし、それを聞いた松山さんは少し目を見開いて、「え?」と呟いた。


「……滝沢先生、って……数学の?」

「う、うん……。」

「……ふーん」


 ……な、何だろう……。松山さんの目が少し鋭くなった気がして居心地が悪く、少し目をそらした。


「……あ。そう言えば、滝沢先生って大崎さんのクラスの担任だったっけ?」

「う、うん」

「そっかぁ!」


 思い当ったように言った松山さんの言葉に頷くと、先ほどと同じような笑みをいただき、ほっと息をついた。何が癇に障ったのか分からなくて戸惑うが、とりあえず嫌われなくて良かった。


「じゃあ、私そろそろ部屋入るね!」

「うん。それじゃあ、おやすみなさい」

「うんっ!おやすみー」


 松山さんは機嫌よさげに――私の隣の部屋へと帰って行った。

 そう。私と松山さんは、寮の部屋が隣同士なのだ。入寮したのは私が先だったので、彼女が挨拶に来た時には本当にたまげた。だって、まさか――。











「ゲームの主人公が隣の部屋なんて、すごい偶然だもんな……。」











 前世でプレイしていた乙女ゲーム、『LOVE SKILL』の内容を思いだしながら、私は自分も部屋に入った。





中途半端……。

思うようにはいきませんね。

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