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若葉が顔を出し、爽やかな風が気持ちいい晩春のこと。
私、大崎綾は、真剣にこの世の終わりを考えていた。
「……に……にじゅ……っ!?」
「……大崎。分かってると思うが……。」
追試だ。
先生の無慈悲な言葉に、私は項垂れた。先生はため息をつき、「俺も悲しい」と一言。ごめんなさい。
ここは、国単位で運営される聖フィラリス学園。色々な能力を持った子どもが小学校から強制的に入学させられ、その能力によって社会に悪影響を及ぼすことのないよう躾けられる。
能力というのは、いわゆる“超能力”のようなものだ。学園内には水を操る人、火を操る人、記憶を操る人など、様々である。かくいう私は“変化”の能力を持っており、色々なものの色や形を、自由自在に変えることができる。……はず、である。なぜ曖昧なのかと聞かれれば答えは簡単。私が能力をうまく扱うことができないために、自由がまったくもって自在でないからだ。
入学費や授業料などは普通の学校と変わりはないが、能力持ちにはいいとこのぼんぼんが多い。
能力持ちはその力を活かして社会に貢献し、自然と地位が上がってゆくからだ。自分で会社を築いてゆく人もいる。この学校は学力も進学校並みを維持しているため、普通の人に劣ることはない。そうしてできた子どもも遺伝が色濃く出て、能力持ちとなることが多い、というわけだ。
――そしてそんな素晴らしい未来を期待された学校の生徒である私は、かなりの落ちこぼれだ。
能力も思うように使うことができず、勉強も平均、また数学に関しては壊滅的だった。中学の頃から数学は苦手だったが、高校に入って使う公式が増えてからは、もう何が何だか分からない。
「大崎はなぁ……。授業も真面目に聞いてるし、板書以外にもメモしたりしてるみたいだし、テスト前も必死に勉強してるし……むしろ、何がいけないんだ?」
「う……え、えっと……。」
不思議そうに首をかしげる先生に、私は肩をすくめた。
滝沢誠司先生は、私のいる1年D組の担任の先生である。担当は数学だ。
あまりにも私のテストの点がひどいため、呼び出された。情けなさすぎる。もちろん、普通なら呼ばれない。呼ばれないが。高校になって初めのテストで。この点数は低すぎる。
「分からない問題も聞きに来てたのにな」
「せ、せっかく教えていただいたのに……すみません……。」
「ん?いや、気にしてねぇよ。一応“先生”だしな」
少し微笑みを浮かべ、私の頭を撫でる滝沢先生。何ていい人なんだろう。私はあまりの罪悪感に涙が出そうだ。
先生は色々な人から「ホストみたい」と言われ、真面目な子たちからは敬遠されているらしい。らしい、と言うのは、私の気弱でトロい性格により友達が少ない……いや、見栄を張りました。友達がいないから、だ。たまたま図書室ですれ違った真面目そうな女の子たちが、眉をひそめて噂していたのを耳にしたのだ。
確かに私も初めは「ホスト……?」と思った。しかし、質問には必ず答えてくれるし、理解の遅い私に根気強く教えてくれ……その結果がこれでかなり申し訳ないが。とにかく、とてもいい人である。決して女の人を騙してお金を貢がせるような、そんな人ではない。ホストがみんなそうだとも限らないだろうけど。
「まぁ、あまり落ち込むなよ。他の教科では一応、平均点とれたんだろ?」
「はい……っい、いえ!決して先生の教えが悪いとかではないのですが……!!」
再び項垂れて謝る私に、先生は苦笑して「分かってるから」とだけ言って下さった。先生、優しさが痛いです。
……次の試験では、頑張ろう。特に数学。
初めましての投稿です。
いつまで続くか分かりませんが、末永くよろしくお願いします。