一途なハーレム主人公のメインヒロインは胃を痛めるもの
2話目は早めに投稿。次は遅れるかな。
こうして見ると短いなあ…
『SincereHearts』
一緒に行動する女の子を選んで、選択肢を選び話を進めていくオーソドックスなギャルゲ―である。
中学の時に告白した先輩が忘れられず、先輩の残した気まぐれにすがって追いかける主人公。
先輩のことを一途に思う主人公と、主人公のことを一途に思うヒロイン達がおりなす恋愛劇。
その先輩を攻略するには、他のヒロイン全てのエンディングを見た後、追加される選択肢を選んでいけばいい。
いわゆる真ヒロインってやつだ。裏ヒロインとも言うかな。当然パッケージでは真ん中でないにしろ一番大きく描かれている。
他の子に一切目移りせず、先輩の好感度を上げる選択肢のみを選んでいけば、めでたく先輩のルートに入れる、というわけだ。
そしてその先輩が……九条楓、つまり今の私なのだった
家に帰ると、すぐにベッドに頭からダイブした。
「――なんて頭の痛い事態に……」
枕を抱きかかえ顔を押し付ける。
ベッドに脇には大きなキリンのぬいぐるみ。
ここ数年ですっかり様変わりしたまごうことなき女の子の部屋がそこにはあった。
九条楓……ゲームの中では物語の中核を務めるヒロインである。
小柄で、胸は控えめ。黒くて長い髪を後ろで二つに分けて結び、星を象った髪飾りでとめている。
間違いなく私だった。髪飾りは親からの誕生日プレゼントだ。
子供のくせに何もほしがらない私に苦心して選んでくれた、宝物だ。ぬいぐるみもしかりである。
改めて、整理してみる。
ゲームの中の『九条楓』は、ルートによってかなり違う顔を見せるヒロインである。
主人公に惹かれながらも、主人公が他のヒロインにも惹かれていることに気づき身を引くルート
思い切り手ひどく利用して振って、主人公を傷心させるルート
最初から最後まで友達というスタンスを崩さないルート
ヒロインと恋の鞘当てをして、主人公を奪い合うルート
ユーザーからは賛否両論あるヒロインであった。
他のルートにおける『九条楓』は、お邪魔キャラでしかないからだ。
その分、メインとなるシナリオでは、ファンをしっかりと得ていたりする。
主人公が最後まで一途でないと、振り向かせることは不可能というギャルゲ―にしては難儀なヒロインである。
……現実になると、他の女の子に目移りしない、というのは高評価なのだが。
どこまでこのゲームの設定がこの世界と同じなのかは調べてみないと分からない。
だけどおそらく、ツンデレだが世話焼きな幼馴染や、主人公の義妹、三年生のミステリアスな先輩、同級生の快活な女の子といった他のヒロインは存在するのだろう。
それに、私にとってはこの世界はもはやゲームの世界だなんて枠には収められない。ヒロイン達は一際目立つというだけでまだ彼に思いを寄せる子がいないとは限らないのだ。
その女の子達は、須らく主人公に対し一途な思いを抱いている。
それゆえに『九条楓』に対し、あからさまなライバル心をむけることももちろんあるのだ。
つまりゲームの通りなら複数の女の子たちからの嫉妬の嵐を受けることになるわけで……
「……胃薬、用意しとこうかな」
――うん、必要になるだろう。
「先輩、おはようございます!」
後輩が通学路で待ち伏せしてました。
「お……おはよう、日下部君」
おもわず顔が引きつるが、仕方がないだろう。主人公の後ろに、修羅が見える。
……怖ぇえええ!!?
あ、あれがもう一人のメインヒロインである幼馴染の……
「……裕樹、その人が、いつもいつも耳がタコになるほど聞かされた、『先輩』?」
森永若菜、その人であった。メガコワイデス。
どう見てもヒロインのする顔じゃないと思う私はおかしいのかな。
森永さんのその様子に気づかない日下部君。さすが主人公、鈍感だね。
「ああ、その先輩だよ。――先輩、絶対に振り向かせてみせますからね」
森永さんにいかにも嬉しそうに返した後に、こちらに挑戦的な笑みを浮かべる日下部君。
思わずどぎまぎしてしまうが、森永さんの膨れ上がる黒いオーラに物おじして、ひきつった笑みしか返せない。
昨日はあの後、一方的に宣言した日下部君は
『先輩は考えてくれるって言っただけで、これで彼氏になれるなんて自惚れてはいません。あくまでスタートラインに立てただけです。――先輩、絶対に振り向かせてみせますから』
笑顔とともにそう言い残し、帰っていった。
流石は主人公、中学のときはぱっとしないと思っていたあの男子生徒が、これである。
男子三日会わざれば……とはいうけれど、とんでもないものである。
私のために男を磨いのだ、とふと考えてしまって熱烈すぎるラブコールに戸惑いを隠せず大いに悶々とするはめとなってしまった。
この私が男にドキッとさせられるとか。ありえん、と言い切れないのがギャルゲー主人公の恐ろしい所だ。
大きなプレッシャーを受けながらも軽く雑談をしながらの登校。
道すがら森永さんが私に近づいて……
「……絶対、負けませんからね」
……すごい目つきで仰りました。
……さっそく胃薬のお世話になりそうだと思いつつ、ため息をこっそり吐いたのだった