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多目的室
もう長い間つかわれていないこの教室は、どこか埃っぽいにおいがする。ろくに掃除もされていないのだろう。
でも、人目につかなくて、中庭に見おろせる場所はここだけなので、文句はいえない。
「璃子、見て。来たよ」
隣で茉莉花がさわいでいる。窓の下をのぞくと、たしかに彼女の黒髪が見えた。
「あっちも、ほら」
「ほんとだ」
ちいさなふたつの人影が中庭の端と端から歩いてくる。すこしずつ、すこしずつ近づいていく。
「もうすぐ、だね」
嬉しそうに声を弾ませて、茉莉花が言う。どう見たって楽しんでいるようにしか思えない。やっぱり連れてこなきゃよかったか、とすこし後悔する。
あたしが考えたのだから、責任持って一部始終を見届けます。胸を張ってそう言った茉莉花を頼もしいと思った私は、どうかしていたのだ。
「璃子?」
「うん、そろそろだね」
私はスケッチブックを広げた。それはこの間、藤野がほうっていったもの。
すこし考えて、私は最後のページをやぶった。びりびりと心地よい感触がして、スケッチブックからひとつの紙片が離れる。
私は深く息をした。