踊り場、2
「あ、そうだ。ねえ、璃子。あれ、今でもできるの?ふうってしたら、剥がれてしまうやつ」
「え?ああ、できてしまうね。なぜか」
うつむいて璃子は言い捨てた。
いつの頃からか、しらないけれど、璃子にはちょっとかわった特技があった。鉛筆や水彩絵の具、色ペンなど、たいていの『手がき』のものを紙から剥がすことができるのだ。それも、吐く息ひとつで。
璃子が紙にふっと息を吹きかけると、書かれた文字や絵はひらひらと空を漂い、ぱちんと弾けるように消える。
どういう科学的原理がはたらいてそうなるのかなんて、さっぱりわからないし、そんなことはあまり気にしたこともなかった。でも、璃子は自分の息をひどく気にしていて、絵が好きなのに美術部に入れないでいる。
誰かの絵を剥がしてしまったら悪いから、といっていた。
「璃子、それ、すっごく役にたつよ!でも、それでいいの?」
「え、どういうこと?」
璃子は大きく瞬きをした。わけがわからないという様子で。
「だから璃子は、不思議な、二度と巡りあわないような、かわった事件を起こせるけど、藤、じゃなくってその友達を応援していいの?」
あたしは璃子の目をじっと、見つめてきいた。璃子は床に視線をおとした。昼休みの喧騒が近くなる。
「わからない。けど、あいつの絵を見れないのは、たまらなく嫌。だから、私にできることなら、なんでもする。さっき、言ったじゃない」
顔をあげて、璃子はきっぱりと笑う。
底抜けにあおい空みたいに、はればれとした表情だった。
きっと、璃子は大丈夫だ。
十数年、側でみてきたあたしがいうのだから、間違いなんてある余地すらない。あたしはさっきの思いつきを話すことにした。




