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神の祈り  作者: 紫堂 涼
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虚無

 浅葱を残したまま、一人己が社に戻った八束は先程の一件が無かったかのように鳥居に腰掛ける。そのままぼんやり暮れ行く町並みを見下ろしていると、珍しくこんな時間に人が歩いているのを見つける。

 夕暮れ時から夜には、寂れた社は不気味に映るのか……その時間帯に人気は無いのが常だ。たまにあるとしても、面白半分にオカルト好きが深夜に現れるくらいのものだ。

「何だ、アイツ。くっれ~の」

 疲れたような足取りでとぼとぼと歩く青年がこちらへ向かって歩いてくる。ここに用でもあるのかと、あまりの情けないツラに気まぐれで願いを叶えてやろうかと鳥居から降り立ち、青年が来るのを待つと、鳥居の前に差し掛かった青年は、そのまま社を通りすぎようとする。

(違うのか)

 拍子抜けしたように、八束が帰ろうとした時、不意にその青年と目があった。まるでこちらが見えているかのように視線が絡みあう。


 ───無。

 仄暗さを帯びた青年の瞳から伝わる感情はそれ一つだった。


 身勝手な欲望も、分不相応な望みも───それどころか、夢や希望。何一つ無い。

(……(かばね)かよ)

 生の息吹を感じない。ただ、存在している。それだけのモノ(・・)にしか見えなかった。

 暗い瞳を持つものは多い。だがそれもまた、妬みや嫉み、恨みや辛み、負の感情に満ち溢れているものなのに、青年の瞳にはそれさえなかった。虚無というのを形にしたらこう在るのだろうか。そう思えるほど……何も、無かった。


 驚愕に目を見開きながら、青年を見据えていると……ゆっくりと、その黒い瞳が閉じられ、ゆっくりと開く……

 再び開かれる瞳を覗き込みたくなくて、八束は一瞬で社の内へと舞い戻る。

(あれが、人の心か……?)

 何一つ強い感情は無く、いったい何を糧に生きているのだろうか、何が楽しみで生きているのだろうか。ああ、でも……


「一つだけ、感情があったな」

 それはやはり強いものではなく、感情の残滓のような、(かす)かなものでしかなかったけれど。



───諦らめ。(わず)かにその感情だけが青年の中にあった。




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