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神の祈り  作者: 紫堂 涼
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結果報告

 静謐な空気が溢れているはずなのに、そこかしこで和やかに話すものたちのおかげでそんな空気が一蹴される。相変わらず気の抜ける中を浅葱はきびきびと、八束はだらだらと足を進める。

 八束が遅れるたびに振り返り睨みつけてくる浅葱に、もう何度目かもわからない溜息で応えながら古めかしい廊下を進む。多すぎじゃないのかと思うほどの扉の数が次第に減り、最後には他より豪華そうな扉が一つだけ残る。

(あ~……瑞貴の説教は長ぇんだよな~)

 このまま帰りたい。その思いを隠しもしないまま、八束は浅葱がノックをしようとするより先に、乱暴に扉を蹴り上げる。

「な…っ、八束。流石に度が過ぎますよ!」

「いいんだよ、俺が来ましたよ~って教えてやってんだから」

 さすがに怒りを露にする浅葱を余所に、中からの応えを待たず八束は扉を大きく開く。

「はいはい、お呼び出しにより参上しましたよ~っと」

 気怠るそうに八束が告げると、人を殺せそうなほどの鋭い視線が飛ばされる。

「ほぅ……相変わらず可愛らしい態度だな、八束。何年たっても幼いままで愛らしいこと限りないな」

 楽しそうに含み笑いをしながら、八束の行為に動揺など一欠けらも無く返す男の瞳に笑みは無い。この男こそが八束を呼び出した張本人───瑞貴だった。


 広い室内には重厚な家具が置かれ、中でも一番目を引く大きな机に瑞貴は鎮座しながら、頬杖を付いて極上の笑みを乗せる。

「さて、何故呼び出されたのかわかってるんだろうな?」

 細いフレームに飾られた眼鏡越しに八束を見据えるその瞳は冷ややかで、問いかけながらも八束の返事など期待していないことが明らかだ。

「……今年の初めのお前の状況だが。参拝した人間のうちの三分の一。それだけの人数に力を与え───ほぼ成就」

 コツコツと机の上に広げられた書類の一部を形良い指先で叩きながら、瑞貴は淡々と記されている情報を口にする。

「受験当日熱が出て、本来は浪人するはずの人間が、補欠とはいえ無事合格。練習に打ち込みすぎたせいでアキレスを断絶するはずの少年は無事地区大会予選突破。夫の浮気が原因で離婚し一家離散になるはずが、妻の妊娠を機に心改めぎこちないながらに縁を繋ぐ」

 八束が力を与えたその結果を次々と口に上らせる。皆、無事にそれぞれの幸せを得たようだった。

 コツコツコツ、とその間も瑞貴の指先がリズムを刻む。そして最後の一件を口にし終え……コツリ、と一際高い音を立て、指が止まる。


「───お粗末すぎて話にならんな」


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