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プロローグ
───目が、合った。
勘違いで済ませる事は出来なかった。その瞳が……ヒトの持つものではなかったから。
瞳の色は黄金色。細く尖った瞳孔は縦に裂け、獣のようだった。同じ色を纏うであろう髪は、辺りを赤く染める夕日に照らされ赤銅色に染まっていた。
昼と夜の狭間。逢魔が時と呼ばれる全てが不安定な一瞬。見蕩れている間には夜の領域へと入り込むその間際。
近く遠く聞こえるヒグラシの声。アスファルトから立ち上る熱気さえもしだいに遠ざかってゆく。
絡み合う視線はひたと据えられ、解ける気配はない。紅から藍へと色を変える風景と遠退いてゆくヒグラシの声。鼓動の音が聞こえてきそうな張り詰めた空気なのに、やけに間延びして感じられる。
白昼夢でも見ているのかと、ゆっくりと瞳を閉じる。束の間の薄闇の世界を揺蕩う。微睡みから覚めるように目蓋を開く。そこには───寂れた鳥居だけが佇んでいた。