総括
どうも、お疲れ様でした。
作者のAllenと申します。
相変わらず名前は全角なのがこだわりです。
今作、『Frosty Rain』を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
もし読まずにここだけ読んでいる方で、これからこの作品を読んでくださる方は、ネタバレに注意ですが。
ともあれ、前作ほどのペースにはなりませんでしたが、今作も完結する事ができました。
ここまで応援、ありがとうございます。
さて、今回もちょっとした話をして、このストーリーを締めくくらせていただこうかと思います。
ちょっとした裏話とか、そんな所ですが、興味が無い方は読み飛ばしてくださって構いません。
ラインナップとしては、前作同様こんな感じ。
・ストーリーに関するコメント
・キャラクターに関するコメント
・次回作の話
恒例と言っていいのかどうかは分かりませんが、こんな内容で語って行きたいと思います。
ではまず、ストーリーについてから。
・ストーリーに関して
コンセプトは『それぞれの正義』。
一度滅びかけた世界と、生まれてしまった奇妙な能力。そして、そんな世界の中でも懸命に生きている人物達。
そこは決して優しい場所ではなく、蹴落とされてしまった人間がいる。
そんな人物を主人公にしてみました。
ピカレスクのようなそうでないような内容ではありますが、結局の所誰が正義で誰が悪とかはありません。
涼二からしてみれば槍悟が悪で、槍悟からしてみれば涼二が悪。
ただそれは立ち位置という点のみの事であり、二人からすれば互いはただの『敵』でしかありません。
ただそれだけならば良かったんですが、ロキが絡んできた所為でややこしくなっています。
言わずもがなですが、今回の話の元ネタとなっているのはタグにもある通り『北欧神話』です。
ルーン文字やニヴルヘイム、ムスペルヘイム、ユグドラシルetc、と言う感じでとにかくそれ関係の単語が出てきているので分かりやすいですが。
しかしながら、登場人物たちはそれが神話の単語であるという自覚はありません。
それに関しては、疑問に思った読者さんもいるかもしれませんが、真相はロキの語った通りです。
一応前作の総括でも、今作は『IMMORTAL BLOOD』との繋がりがあると語っていましたが、そういう点が関係していました。
まるで遠い世界の話に見えますが、前作と共通した概念として『超越者』というものがあります。
今作で言えば涼二、雨音、ロキ。前作で言うならば、主人公達を初めとした面々。
簡単に言うと、超越に至った人間の事です。
存在自体が法則となり、一つの世界を己の中に内包する存在。不完全ながらも神となり、永遠に生きる存在となる。
涼二たちが住んでいた世界は超越者を生み出すための箱庭であったため、それなりに発生しやすい環境となっています。
前作を読んだ方に分かりやすく説明をすると、こんな感じ。
始祖ルーン=既に回帰、超越が心構え次第で発動可能な段階の《神の欠片》。
つまり、始祖ルーン能力者は、強い願いと世界を塗り替えようという意志さえあれば、誰でも超越者になれます。
まあ、よほど特異な人間性を持っていなければそうそうなれないので、あまり意味はありませんが。
今回は、ADV風に言うと、グランドルートという感じです。
雨音ルートと言ってもいいかもしれませんが、雨音は結構特殊なので仕方ないと言うか。
一応、ヒロイン個別ルートになると緋織とかも超越者になれるかもしれません。
まあ、涼二が普通に長生きできるルートは雨音ルート以外にありませんが。
グランドルートのみは、涼二が少々特殊な方向性なので何ともいえません。
・キャラクターの話
・氷室涼二
今作主人公。
途中まで色々と中途半端だったのは、本来の渇望が歪められていた結果。
でなければ、涼二は孤児院時代にさっさと自殺していたでしょう。
渇望を友への思いにすり替えられ、普通に生きる中で凝縮されていった為に超越者へと至っています。
立ち位置としては、北欧神話における『ヘル』。
ただし、それは姉である氷室静奈の代役としてです。
と言うか本来なら、槍悟を打ち倒す役目なのは双雅なんですけどね。
とにかく姉大好き。姉さんと一緒にいたい。
姉さんがいないならば偽物で気を紛らわせるけれど、やっぱり本物がいる場所に行きたい。
最後の最後に本物が何処にいるかを理解しながら消えて入ったので、かなりの根性で戻ってこようとするでしょう。
筋金入りのシスコンです。宇宙規模のシスコンとか呼ばれてます。
目的は復讐と分かりやすい感じではありましたが、ユグドラシルの面々への未練もあり、少々はっきりしない感じ。
だからこそ緋織たちとも完全には敵対しませんでしたし、結果的には良かったとも言えますが。
・静崎雨音
今作ヒロイン。
前作のミナとは若干違った形のお嬢様でしたが、世間知らずなのは変わらず。
ただし世間知らずキャラというのは世界観の説明を必要なものにしてくれるのでやりやすいです。
その超絶箱入りっぷりのおかげで家族に対する執着は強く、そのおかげで超越者となった感じです。
立ち位置としては、涼二と同じく『ヘル』の役どころ。
ただしどちらも静奈の代役でしかなく、結局二人ともその役目を果たしたとは言いがたい感じです。
雨音と涼二は二人で一つ、と言い換えてもいいかもしれませんが。
家族が大切。家族が幸せに過ごすその瞬間瞬間を大切にしたい。
『その日の花を摘め』という言葉の通り、刹那主義でありながらも未来を大切にする意志を持っている。
だから、その未来が少しでもいい形であって欲しい、というのが雨音の願いです。
涼二が帰ってこないと思ってしまうと、結局涼二と同じように歪んでしまう可能性を持っているのですが。
ニヴルヘイムの面々の中では若干異質ではありましたが、それでも必要不可欠な人間です。
雨音がいなかった場合、涼二は確実に死ぬと言うか消滅する結末となりますので。
・磨戸緋織
ヒロイン力が異常に高かったわんこ娘。
涼二に対してどこまでも従順で、けれど必要とあらば反抗する事も出来る。
ただその反抗も、あくまで『自分にとって理想の涼二に従いたい』という願望なので、結局従順。
非常に人気が高かったですが、もしも緋織ルートがあった場合、涼二の寿命は非常に短いです。
立ち位置としては、分かりやすく『スルト』。
まあ、レーヴァテイン持ってたし、名前もそれっぽいので非常に分かりやすかったかと思います。
スルトをオーディン側にするのは少々悩みました。緋織が成長せず自分の意志を持たないままだったら、北欧神話通りになっていたかもしれません。
緋織ルートの場合は、自分で涼二の側についていたかもしれませんが。
涼二の部下でありたい、涼二が頼れる存在でありたい。
彼の行くべき道を炎で照らし、彼と肩を並べて戦えるだけの強さが欲しい。
何処までも涼二基準な願いを抱いていましたが、結局望む形の世界を思い描きはしなかったため、超越者には至っていません。
何というか従順すぎてM属性なんじゃないだろうかという子。
実は戦闘で一番出番が多く活躍していますが、結局相手を仕留められた事は一度も無いという。
何か呪われてるんじゃないかというぐらい勝ててません。
・大神美汐
めげない、へこたれない。理想を貫く強メンタル。
実際の所落ち込むような事もあるし、ショックを受けるような場面が無い訳ではない。
それでもただ強く在ろうとする、敵も味方も全て己の腕の中に抱いてしまう。
精神力のみで言えば、前作含めてトップクラスです。
立ち位置としては、『バルドル』。
名前が思いつかず、とりあえず白と光のイメージから『美白』という名前が当初ありましたが、どう見ても『びはく』にしか見えないので、ちょっと読みを変えました。
しかし技はヴォルスング・サガとかシグルドとかそっち方面という。
皆が手を取り合って進む道が欲しい、誰か一人を傷つけるような真似をしない。
それだけならばただの理想論ですが、美汐は決して犠牲を否定はしません。
むしろ犠牲があるからこそ、よりいっそう頑張って理想を実現しようとします。
現実を知り、現実を理解する理想論者。強すぎるメンタルが無ければまず出来ない道でしょう。
ヒロインかどうかと聞かれると、たぶんヒロインではありません。
あまりにも弱い部分が無さ過ぎて、ヒロインにはし辛いという。むしろ涼二の方が引っ張られてしまう。
・降霧スリス
緋織とは違った形の涼二主義。
こっちは純粋に涼二の事を信奉している感じです。
光を失ったスリスにとって、涼二は道を示してくれる光そのもの。
信じるほか無いという面もあります。
立ち位置としては、『霜の巨人』という存在。
スリスの名前は、そのフリームスルスという名前から取っています。
まあ、他の面々みたく具体的に名前のある連中ではありませんが、場所的にはヘルの味方なのでそのまま。
実はかなり活躍してますが、あんまり目立ってはいないという。
涼二の示す道を、示す光を進んで行きたい。
光を失っているが故に、それ以外の生き方を選ぶ事ができない。
涼二としても彼女を連れてゆく事は若干悩んだでしょうけれども、涼二が連れて行かなければスリスはさっさと野垂れ死んでいたでしょう。
一応ヒロインですが、ヒロイン力は低い。
元々ヤンデレ属性だったのに、流石に前作のヤンデレほどはキャラが濃くなりませんでした。さもありなん。
・ガルム・グレイスフィーン
筋肉。そして頭脳派の筋肉。
経験豊富な涼二をして、指示を仰ぐほどに知性派ではありますが、見た目は筋肉達磨。
ガルム自身も涼二には共感する部分があるため、共に行動していました。
一応年長者である為、それなりの責任を感じている部分もありましたが。
立ち位置としては、そのまま『ガルム』。
ニヴルヘイムのヘルの館へと続く道を塞ぐ番犬。
そのままと言えばそのままですが、荒れ狂う獣とは若干違う印象を持たせてみました。
若干年を経てしまっている為か、渇望らしい渇望は無し。
ただしそのあり方は、涼二たちの行く末を憂えているものではあります。
本当ならば自分が全てを引き受けたいけれど、自分にはそこまでの力は無い。
無力感を覚えつつも涼二の手助けをしてゆくのが、ガルムのあり方と言った感じです。
双雅と戦うと、実は勝てるかもしれない人。
技量の極みにあるので、物理攻撃パワー押しの双雅とは相性がいい。
・次回作の話
次回作に関してですが、実はあんまり書く事が決まっていません。
ネタはあるんですが、どれを書こうか迷っているような段階と言うか。
一応、現在考えているのは三種類です。
・誠人の妹主人公の、学園+ホラー+ギャグもの
・カミカゼ☆エクスプローラー!の二次
・リリカルなのは二次
とりあえず、上から順番に説明。
まず一つ目は、これまでの世界観と完全に連なったもの。
誠人の妹が友人や先輩達と、都市伝説の謎に挑んでゆくという話。
キャラクターの関係上、前作のキャラクターがちょくちょく出てきます。
ただし異能とかは無いので、超展開バトルとかは無し。普通の物理攻撃に限ります。
二つ目は、知っているかどうか分からないエロゲ二次。
読んでくれそうな人が少ないのでモチベ維持が大変そうな感じですが、設定は結構好みです。
ジャンルとしては超能力+学園もの。そしておっぱい。あとおっぱい。くるくる。
とりあえず原作をやった事の無い人にも読めるように書いていくつもりではありますが、アフターストーリーになりそう。
三つ目は、言わずと知れた魔砲少女。
ただし作者の経歴を知っている人なら分かるかもしれませんが、ユーノ主人公。
そして、このなのは世界は、前作と今作に連なった世界観になっています。
と言ってもオリキャラは基本的に出てきませんが、前作主人公達に目を付けられたなのは勢は、恐らく性格が変わると思われ。
とまあ、こんな感じになります。
何か希望がありましたら感想にでも書いて頂けるとありがたいです。
ここまで長くなりましたが、こんな所で『Frosty Rain』は完結です。
再びになりますが、ここまで呼んでいただいてありがとうございました。
ここから下には、蛇足とも呼べるものが書いてあります。
前作を最後まで読んだ人にしか理解出来ない内容となっているので、それ以外の方はスルーして頂いて構いません。
また次回作がありましたら、そこでお会いしましょう。
ではでは。
―――世界に溶け、消滅したはずの意識が再生する。
それはありえない事であると、誰よりも知らぬはずの涼二自身が知っていた。
魂は形を失い、二度と戻るはずの無い混沌へと溶け出していた。
HとThという名をつけられた世界に溶け、形を失い、その中に集っていたそれらを持つ全宇宙の能力者のプラーナと融合していたのだ。
意識を取り戻す事など適わない。無限の意思は、《自壊》の理を自覚し、認識し、共に破壊されるべき存在を願っていた。
だからこそ、氷室涼二は消滅したのだ。だというのに―――
「―――やはり、超越者まで至れば魂の格が違うな。集合意識となったプラーナの残骸の中でも形を保っていたか」
「っ……」
―――その魂は、形を取り戻している。
そんな事はありえない。涼二の持つ《自壊》の理によって破壊されれば、二度と元の形に戻る筈は無いのだ。
しかし事実として、今それは成されている。
自然に起こるはずが無い事ならば、それは即ち、目の前にいる存在が成したという事であろう。
―――そこに立つ、銀髪の少年の姿をした何かが。
「まあ、《欠片》を元に肉体を構成するいい練習になったよ。やっぱり、兄貴の身体を創るならばそうそう適当な事はできないからな。
出来れば、あの人には俺達と同じ領域に立って貰いたいしな、強くないと。俺の認識から外れた存在は、あまり良くない影響を受けてしまう」
「……なんだよ、お前は」
立っている場所が違う。
格が、領域が、世界が、理が―――あらゆる意味で隔絶されている。
今いる世界こそ穏やかな風の吹く草原ではあるが、涼二は今己の踏んでいる地面すら危うく感じる程の不安を覚えていた。
超越者―――己の理で世界を創り出す領域に辿り着いたからこそ、それを理解できる。
今立っているこの場所は、目の前の存在によって創り上げられた理の世界なのだと。
涼二の言葉を聞き、愉快そうに笑みを浮かべていた少年は、その時初めて『氷室涼二』に視線を向ける。
瞬間―――背筋が凍るほどの衝撃が、涼二の意識を駆け抜けた。
「ッ……!?」
「超越者の領域へようこそ、氷室涼二。お前は元々俺の世界を破壊する為に作り上げられた存在のようだが、その主犯も今はいない。ならまあ、別に問題は無いだろう」
「お前の世界を、壊す為……?」
己の渇望の方向性が操作されていたことは、涼二も十分に理解している。
そしてそれが、ロキが『天主』と呼ぶ存在と戦う為であったという事も。
つまり―――
「お前が、天主って奴か」
「……妙な呼び方ではあるが、まあ認識は間違ってないかな。俺は、この『管理世界』の管理人。お前達の世界を創り上げたのも俺だし、あのバカをお前達の世界の管理人にしたのも俺だ」
「ッ!」
瞬間、膨大な怒りを感じかけ、それを何とか押し留める。
元凶の元凶と呼べる存在―――しかしながら、この存在があのような回りくどい行動を取るはずがないという事は理解できる。
それはこの存在を信頼したというわけではない。わざわざそんな事をせずとも、直接望みを叶えるだけの力を持っているからだ。
「まあ、別に怨まれたって構わないがな。あの管理人の人選に関しちゃ、全く以って俺のミスだ。選んだ頃はまともな人格してたんだが、随分歪んじまってまぁ。
だがまあ、お前の理を向けるのは勘弁してくれ。その時は、全力でお前を潰すしかないんでな」
「……奴の行動は、お前の意志じゃないんだな?」
「まあ、そうだな。少なくとも指示した訳じゃない。超越者でありつつ俺の意識と繋がってない以上、俺の考えに影響される事は無いだろうからな」
その曖昧な物言いに、涼二は思わず視線を細める。
少なくとも、この存在は何らかの目的を持ってあの世界を創り上げたのだ。
霞之宮星菜を育て上げようとしたのもその一部。ならば、その目的とは一体何なのか。
いかなる方法でかそんな涼二の疑問を感じ取り―――少年は、小さく苦笑を零す。
「俺の理は《拒絶》。願うもの以外、万象一切全てを拒絶してしまう。それは生命の生きられない地獄だ。いや、消滅させちまうんだから地獄以上に最悪な場所だろう。
俺の望んだ場所には、俺の望むものだけが在ればいい―――今なら分かるだろう?
こんな馬鹿げた理で、世界を制御する訳には行かないんだ」
強力無比にして強大な意志を込めた理。
それは祈りにも似た切なる想いによって編まれたもの―――故にこそ、その特異な性質は決して反映されるべきではない。
だからこそ、この存在の目的はただ一つ。
「己の代理人を……己以外に、この世界を制御できる者を望んだって言うのか」
「そういう事だ。だから、あらゆる世界から超越者を求めた。けれど、どいつもこいつも歪んだ渇望ばかりだし、俺を滅ぼして世界を手に入れようとする連中ばかりだった。
まあ確かに、そういう存在に攻撃された時に負けないだけの力と理は必要だが、今俺の手の中にあるのは数億の敗北の後にようやく手に入れた、たった一度の勝利の世界だ。
だから俺は、俺が普段存在している世界を含め、守護してくれる存在を求めていた。この世界の主は、人を愛し慈しむ事が出来る存在にこそ相応しいからな」
「……そういう世界の超越者じゃ上手い事行かなかったから、今度は育ててみようとでも思ったのか?」
「育ちやすいように環境を整え、箱庭の形にしたのは事実だ。まさかあんなふうに星が滅びかけるとは思ってなかったが」
そんな少年の言葉に、涼二は小さく嘆息を零していた。
この存在は理解していないのだろう。あらゆる存在を消滅させない為に、その存在を護る為に己以外の超越者を求める。
それこそが、人を慈しみ、護ろうとする意志そのものに他ならないという事に。
しかしその考えは読み取られぬ内に、少年は再び声を上げる。
「さて、そういう訳で俺は俺の代わりを求めてる訳だが……お前の理も、この場所には適さないな」
「まあ……確かに」
自ら滅び去る事を望み、触れたものを侵食して破壊する《自壊》の理。
今でこそ自分自身の崩壊は望んでいないが、それでも大切なものを傷つけようとする存在を拒絶し、破壊しようとする性質は変わらない。
それは決して、世界を守護する存在には適さない性質であろう。
そして同時に涼二自身にも、あらゆる存在の上に立とうなどという意志は存在していない。
これまでの苦労が無駄に終わった事に対してか、少年は小さく嘆息し―――
「だが、この領域に辿り着いた事も事実。それなりに、特典はないと駄目だろう」
「特典?」
「ああ。まあ、その肉体がまず一つだが……それが無いと始まらないからな」
涼二は思わず首を傾げる。
一体、この存在は何をしようというのか。
そんな涼二の反応すらも楽しみながら、少年は楽しそうに声を上げる。
「叫んで見せろよ、お前の渇望を。俺はそういうのが大好きだ。どんな歪んだ願いも、外道の道筋も、それが根本の願いから発した渇望ならば全て美しいと思う。
だから、俺の一部を奪おうとしない者には手を差し伸べる事に決めてるのさ。
直接それを叶えてやる事は出来ない。願いを手に入れるのは、己の手で無ければ価値は無い。だが、その手助け程度ならしてやれる」
「願い、を……」
「さあ、叫んでくれよ。お前の根本を」
「俺の、願いは―――」
そんなモノは、たった一つしか無い。
氷室涼二が望み続けていたのは、例え形が変わろうとも、その行く末が変わろうとも、たった一つの切なる願い。
その意志こそが―――
「―――姉さんと、共に在りたい」
どんな形でもいい、そこに本物の静奈が在って欲しい。
行く末が滅びであろうと何であろうと、そこに姉の姿があるのならば飛び込んでゆく。
変わらない、変わる筈が無い。たった一つ、それこそが氷室涼二の根本。
友情を、仲間を求めたのは、人の世界で生きてゆくには渇望を曲げる他無かったから。
桜花と双雅が行ったのはそういう事で―――けれど結局、涼二は己の願いに背く事は出来なかった。
「どこでもいい、どんな場所だって、どんな結末だって構わない! 俺はただ、姉さんと共にいたいんだッ!」
「ああ―――美しい願いだ、本当に」
そして、心底楽しそうに少年は笑み―――そして、その膨大なる神威を発現させた。
「《魂魄》―――桜、また力を貸してくれ。その形を、再び」
異なる理が流れ出す。その理は涼二を包み―――そして、その内側にある何かに、力を与えていった。
涼二は理解できる。それが、一体何なのか。
かつて一度触れ合ったからこそ、己の一部となっているからこそ、それは疑う余地も無かった。
「お前の理の中の唯一の例外。同化させた魂の、たった一つだけを他の魂から分離させた。
魂が眠りについていることは事実だし、呼びかけに応えるとも限らない。けれど……もう半分に触れ合えば、多少なりとも影響を受けるだろう」
「それは……!」
「従神化。超越者が、異なる理を己の内に受け入れる事。お前なら出来るだろうさ」
笑いながら、少年は手のひらの上に一つの球体を呼び出す。
理と化した涼二だからこそ、それが一つの宇宙であると、容易に理解する事が出来た。
そしてそれこそが、今まで自分が生きてきた世界なのだということも。
「さあ行け。お前は、お前の意志で願いを追い求めてみろよ。お前はもう操り人形じゃない。その意志で、その身体で、その魂で……全部、取り戻して見せてくれ」
「ああ……分かった」
ありがとうとも、感謝するとも言わず。
ただ、己の信じた道を、本当に願っていたものを今度こそ見失わないようにしながら―――
「―――帰るよ、俺の居場所に」
―――涼二の意志は、あるべき場所へと環って行ったのだった。