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Frosty Rain  作者: Allen
第一話:ニヴルヘイムの住人達
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01-3:潜入する黒い影











『さてと……それじゃ、作戦開始だよ』



 スリスによって指定された経路を通り、一旦小さな路地の物陰に身を潜めていた涼二は、その言葉と共に立ち上がった。

時刻は午後十時四十四分。あと少しで、裏口の警備が交代する時間である。

彼の装着するバイザーの視界に映るのは、自分の現在位置と建物内の見取り図。

そして、オレンジ色のマップの中で動く赤い点は警備員の動きだ。



(相変わらず、いい仕事をする)



 完璧な調査内容に感嘆する。

尤も、口に出せば調子に乗るので、涼二は胸中でそう呟くのみに留めたが。

小さく息を吐き出し、彼は視界に映る赤い点が動き出すのを静かに待つ。

そして、四十五分―――



『OK、行って!』

「ああ」



 スリスの言葉と共に、涼二は強く地を蹴った。

スリスは既に静崎製薬の警備コンピュータにクラッキングを行い、監視映像のループや一部機能の停止などの準備をしている。

そして今現在行っているのは、警備員詰め所に置かれている時計の時間をずらす事だ。

それにより、交代の時間になっても新しい警備の人間が現れず、通信機も何故か上手く作動しない事を不審に思った警備員は、詰め所の方へと一旦戻る。



『よしよし、いいタイミング!』



 警備員が詰め所の方へと入っていった瞬間を狙い、涼二は建物内へと侵入する。

内部は白を基調とした病院のような内装となっている。

この装備では返って目立ってしまうか、と涼二は少々後悔を覚えていたが、最早そんな事を気にしている余裕は無い。

現在の警備員の位置関係を把握し、彼は静かにルーンを発動させた。



「―――イサ



 そして、その言葉と共にスライディング。

足元を凍結させた涼二は、文字通り滑るように廊下を進んで行った。

小回りには欠けるが、これは足音を立てず労力も使わず移動する方法として、氷を操るイサのルーン能力者からは愛用されている移動法である。


 このフロア内で動いている赤い点は、全て涼二のいる場所から離れた位置に存在している。

一回部分にはセンサーの類は存在しておらず、監視映像もスリスが処理している為、涼二はほぼ自由に活動する事ができた。

バイザー上のマップには進むべき進行ルートが緑の線で表示されており、進む方向に迷う事は無い。



『涼二、進めば分かると思うけど、その方向に貨物用エレベータがある』

「まさか、エレベータを使うなどと言わないだろうな?」

『出来なくはないけど、でもそれよりは、涼二が自力で上った方が安全だよ。涼二が着いたら扉を開けるから、エレベータの中からその上に登って』

「了解した」



 スリスの言葉に従い、白い廊下を滑りながら進んでゆく。

巡回する警備員とは必ず角を二つ以上離すようにしながら慎重に進んで行くが、その動きに一切の澱みは存在していない。

その迷いの無さは、スリスへの信頼の現われ―――故にスリスも、それに応えているのだ。



『涼二、ちょっとストップ』

「……」



 スリスの言葉に従い、涼二は一度足を止める。

マップに映る赤い点、近くの通路を動くそれは、人間とはどこか異なる動きで道を進んでいるようだ。

直接その姿を見ることは出来ないが、そこに何がいるのか、二人にはすぐにその正体を察知する事が出来た。



「警備ロボットか」

『嫌だねぇ、最新式だよ。ちょっと待ってて』



 それと共に、カタカタとキーボードを叩く音がスピーカーから聞こえてくる。

スリスは空間投影型のデバイスを好まず、アナログなキーボードを使う傾向にあるので、時折こういったものが聞こえてくるのだ。

無論の事、外部から警備ロボットのシステムに侵入するなど、常人には不可能な芸当である。

だが、スリスに限っては、その『常人』の枠から大きく外れた場所に存在していると言えるだろう。

何故なら、スリスはルーン能力を使って電子機器やそのシステムに干渉しているからだ。



ハガラズアンサズパースっと……』



 ハガラズは嵐を司るルーンであり、雷や風を操る、最も強力なルーン。

アンサズは自身の脳の処理能力、特に情報処理や情報収集に長けたルーンである。

また、秘密を表すパースのルーンは、隠された物事を探し当てる能力を使い手に与える。

故にスリスの前では、いかなる電子機器も鍵の開いた扉に等しいのだ。



『はいオッケ、ちょっと止まってもらったよ。今の内今の内』

「ああ、ありがとうな」



 数秒間だけ動きを止めた警備ロボットが角から出てくる前に、涼二は通路を駆け抜ける。

その先にあるのは、先ほどスリスが告げてきた貨物用エレベータだ。

再び地面に氷を作りながら滑りぬける涼二の視線の先で、エレベータは勝手にその扉を開けてゆく。

スリスの能力による干渉だろう。



「ナイスタイミング」

『勿論ですとも!』



 涼二が滑り込むと同時に扉は閉まるが、しかしエレベータが動き出す気配は無い。

誰かが操作した訳では無い為、今はただ待機している状態に過ぎない。

エレベータ内の監視カメラもしっかりとループしている為、涼二はそこまで来てようやく一息ついていた。

が―――生憎と、潜入はまだ始まったばかりなのだ。



「上に移動する」

『了解、気をつけて』



 エレベータ内にある手すりに足を乗せ、天井についている四角い蓋のような扉を開ける。

そこに両手を着いて体をエレベータの上へと持ち上げ、蓋を閉めつつ涼二は上を見上げた。

暗視、望遠機能のついたバイザーには、高層ビルの頂上部分までがしっかりと見えている。



『目的地は四十三階。マークをつけていると思うけど、見えるかな?』

「ああ」



 涼二の視界には、標的となる場所が四角くズームアップして表示されている。

その位置を確認し、涼二は左手を頭上―――このエレベータの続く最上階へと向けた。

コートの下で、左肩が光を放つ。



「―――ラグズ



 ラグズは水と霊感を司るルーンであり、水を発生させて自由自在に操る力を持っている。

涼二は発生した水を長くロープのように伸ばし、それを最上部にある鉄骨へと巻き付けた。

そして水を操り、その長さを制御すれば―――涼二の体は、勢いよく上空へと登ってゆく。



『戦闘向けの能力なのに、使いようだねぇ』

「お前だって、ハガラズは本来戦闘用だろう。お前みたいな奇特な使い方をしている方が珍しい」



 電気信号を操り、自らの身体を電子機器と接続するなどと言う誰も想定していないであろう能力の使い方は、細かな制御の可能なスリスだからこそ出来る芸当だ。

―――そこまで考え、涼二は思考を止める。

それ以上は、お互い不愉快な過去を思い出すことになるからだ。


 バイザー内に映し出されたズーム画面と、通常の視界が徐々に重なってゆく。

目的の四十三階が近付き、涼二は水を縮める速度を落とした。

緩やかな速度へと変えつつ近場にあった梯子を掴み、涼二は目的の階へと到着する。

バイザーに表示されたマップに、近くを巡回する警備員の姿は無い。



『……気を付けてよ、涼二。正直、この階層のセキュリティは一階とは比べ物にならないよ』

「ああ、分かっている」



 人の数は確かに少ないが、その分セキュリティは厚い。

けれど、それはスリスにとっての得意分野だ。人がいないのならば、涼二達の側としてはむしろ都合がいいとも言える。

それでも尚、スリスが気を付けるようにと言ったのは―――



(……進行スピードを落とさなけりゃならないほど、大量のセキュリティがあるって事か)



 製薬会社のセキュリティとしてはあまりにも重すぎるそれに、涼二は流石に不自然さを感じて黙り込んだ。

ここにいる人物、静崎雨音とは一体何者なのか。

そこまでの厳重な警備にするほど重要な人材なのか―――今回の依頼の不透明さを含め、涼二は小さく息を吐く。

どうにした所で、ここまで来た以上引き返すことは出来ない。

涼二は小さく息を吐きだしつつ左手をエレベータの重厚なドアへと当て、水を使ってそれを無理やりに押し開けた。

そして―――



「……」



 見えてきた光景に、涼二は思わず沈黙する。

古くから使われてきたものではあるものの、その効果性だけは確かな赤外線センサーの山。

厳重と言うにも限度があるだろう、と言うレベルのそれに、涼二は緊張を通り越して呆れの息を吐き出していた。



「……スリス」

『分かってるよー……ったく、コレ設計した奴は何考えてるんだ』



 ぶつぶつと文句が聞こえてくるスピーカーに苦笑しつつ、涼二はゆっくりと進んでゆく。

涼二が通るその一瞬のみ、センサーたちは機能を停止してゆく。

無論、あまり怪しまれないようにする為、極力避ける為に涼二は地面を凍らせて伏せるように滑りながら移動しているのだが、それでもそれなりの数をやらねばならないようだ。



『あーもう、こっちには監視カメラに熱源センサーって。これ、件のお嬢様はどうやって移動してるのさ。

いや、ボクは見取り図持ってるんだし、部屋の中だけで生活できるような設計してるのは知ってるけど』

「俺としては、この動かない警備の方が気になるんだがな」



 バイザーに示された進行ルート上、そのゴール地点の直前に立ったまま動かない警備員のマークに、涼二は小さく声を上げる。

それに対し、スリスはどこか疲れたような様子で返答した。



『監視カメラを乗っ取って確かめてみたけど、どうやらお嬢様の護衛みたいだね。二分間だけならこの階層を外部から切り離す事は出来るけど……やれるよね?』

「……了解した」



 二分、と涼二は胸中で反芻する。

厳しい部分が無いと言えば嘘になるが―――それでも、彼は小さく笑みを浮かべて頷いた。



「俺を誰だと思ってる、スリス」

『……にゅふふ。そりゃあもちろん、ボク等のリーダーである氷室涼二さ。期待してるよ、涼二』



 センサーだらけの通路を通り超え、立ち上がりながら涼二は頷く。

そしてそれと共に―――スリスのルーン能力が、この階層を支配した。

瞬間、涼二は駆ける。



「―――イサラグズ



 二つのルーンを起動し、前へ。

部屋の前に立つのは二人の護衛。若干広い空間となっているその場所で、涼二はそちらへと向けて一直線に駆ける。



「むッ!?」

「何……!?」



 警備の二人は涼二の姿に目を見開きながらも、しっかりと戦闘態勢を取っていた。

その姿に、涼二は思わず舌打ちを漏らす。

相手が素人ならばやり易かったのだが―――



「そう、簡単には行かないか」



 呟き、涼二は発した氷の杭を二人へと向けて放つ。

空を裂き、甲高い音を立てて迫る無数の弾丸―――それに対し、右側の警備の男がその手を上げた。



エイワズアルジズ!」



 エイワズはイチイの木を表す防御のルーンであり、アルジズは仲間を護る際に使い手に力を与えるルーンだ。

その力によって広がるのは緑色の障壁―――その力に弾かれ、涼二の放った弾丸は粉々に砕け散った。

そしてその隣をすり抜けるように、もう一人の男が駆け抜ける。



ラドダガズ



 ラドは乗り物を表す加速のルーン、ダガズは光を操り攻撃するルーンだ。

その二つのルーンの起動と共に、警備の男は両手に光の剣を発生させ、高速で涼二へと迫る―――それに対し、涼二は小さく笑みを浮かべた。



「悪くはない……が、相性が悪かったな」

「っ……!?」



 瞬間、加速していた男の身体が急激に停止した。

その衝撃に男は目を見開き―――そして、その体の周囲に螺旋を描くように一筋の水流が立ち昇る。

凍結と停止のイサ、水を操るラグズ。それが、涼二の力。

故に―――



「お前達の力は、俺にとってはやり易すぎる」



 涼二が左手を握り締めると共に、水流は一気に細められ、男の意識を締め落とした。

若干緩ませてから凍結させ、その身体を完全に拘束する。



(まず一人……)



 かつて部下に力の使い方を教えていた頃を思い出し、涼二は小さく苦笑する。

この二人の警備は、攻撃と守りを二人一組でこなす事を役割としていたのだろう。

攻撃側を落とされては、あの二つの防御ルーンには攻撃の手立ては存在しない。

無論、銃などの武器での攻撃は可能だが―――



「ふっ!」



 両手に水を集め、剣の形を作り出す。

その剣は、振るうと同時に刃を一直線に警備員の方へと伸ばした。

即座に反応した警備員は再び緑の障壁を発生させるが―――



「甘い」

「な、ぐぁ!?」



 水の流れは唐突に逸れて上昇し、天井から跳ね返るような軌道を取って、男の頭を強く打ち据えた。

それと同時に緑の障壁は消失し、涼二の手の中にあった水の剣は先ほどと同じように相手を気絶させ、拘束する。

倒れた二人の兵の姿に、涼二は小さく息を吐き出していた。



「一枚の面しか防御できないのでは、ラグズの攻撃を防ぐ事は難しい。その変幻自在さが売りなのだからな……まあ、もう聞こえてないだろうが」



 そう呟いて嘆息する。かつて、教官として部下に能力の使い方を教えていた頃の癖が未だに残っているのだ。

と―――それと同時、涼二の目の前にあった扉が唐突に開いた。

思わず身構えるが、何かが飛び出してくるような気配は無い。



「……スリス」

『あ、ゴメン。驚いた?』

「いや、いい。とりあえず、残り時間は?」

『あんまり無いね。これ以上は干渉がばれそうだから、制御を戻す。さっさと中に入って』

「ああ」



 スリスの言葉に従い、涼二は部屋の中へと進入する。

そしてそれと同時に扉が閉まり―――次の瞬間、この領域内からスリスの力の気配が消えた。

部屋中にまでセンサー系のセキュリティは存在しないはずと、とりあえず息を吐く。



「……どなた、ですか?」

「―――っ!」



 ―――そして、響き渡った鈴を鳴らすようなその声に、涼二は思わず息を飲んでいた。

ビルの中だというのに和風の様相に揃えられた部屋の中、わざわざ作られた座敷の上に正座して佇む一人の少女。

青みのかかった長い黒髪、蒼紫色の瞳。そして、藍色の着物。

その姿は、正しく―――



(……違う、そんな筈は無い。第一、年も違うだろう)



 己の頭に浮かんだ考えを消し、涼二は一度、大きく息を吐き出した。

彼女が、かつて死んだ姉の筈が無い。見た目は似ていても、背格好が合わないのだから。

だから違うのだと、そう己の言い聞かせ―――涼二はその少女、静崎雨音へと向かって声を上げた。



「静崎雨音、だな?」

「は、はい」



 ―――驚いてはいるものの、怯えた様子は無い。

そんな姿に涼二は思わず疑問を抱きつつも話を続けた。



「これから俺に付いて来て貰う。反論は認めない、分かったか?」

「あら。分かりました」

「……」

「……」



 あまりにもあっさりと頷かれた言葉に、思わず言葉を失う。

数秒間の沈黙の後、涼二はしばし虚空を見上げ、それから再び声を上げた。



「ええと、だな。意味、分かってるのか?」

「はい、貴方に付いて行けばよろしいのですよね?」

「いや、ええと……まあいいか」



 『誘拐です』などと堂々と説明するのも憚られ、涼二は小さく嘆息しながら、部屋の窓の方へと進んでいった。

首を傾げながらも素直に付いて来る雨音の姿にしばし葛藤しつつ、その指先に小さな氷の刃を作り出す。

高層階だからだろう。嵌め殺しになってる窓を円形に切り取り、涼二は雨音へと向けて手を差し伸べる。



「掴まれ」

「え……」

「早くしろ」

「で、でも、私―――」



 雨音の様子に、涼二は思わず眉根を寄せる。

その様子は、今更誘拐されそうになっている事実に気付いたとか、涼二が窓から飛び降りようとしている事に恐怖を感じたとか、そういう事ともまた違う。

どこか、その手に触れる事を躊躇っているような、そんな風情だった。

潔癖症を疑うような風情だが、彼女も涼二も手袋をしているため、肌が触れ合うような事は無い。

それでも視線を右往左往させて迷う彼女に嘆息し、涼二はその手を握って引き寄せた。



「あ……っ」

「冷たいかもしれないが、しっかり捕まっていろ」



 言いつつ、涼二はラグズのルーンを発動させた。

発生した水のロープが、抱き寄せた雨音の身体を縛り付けて固定する。

そしてもう一つの先端を、対岸にあるビルの屋上へと巻き付け―――涼二は、静崎製薬のビルより飛び出した。



『涼二! 到着地点は見えてるよね!?』

「ああ、大丈夫だ」



 対岸にあるビルはいまだ建設途中の建物だ。

昼間の内に侵入していた涼二は、そこの一室に衝撃吸収用のマットを敷いておいた。

無論、それだけで勢いを殺せる訳では無いが―――



「水よ―――」



 全身を水の球体で包み込んでしまえば、問題は無い。

あるとすれば、唐突に水に包まれたおかげで、雨音が溺れかけている事ぐらいだろう。

予め説明しておくべきだったかと肩を竦め―――涼二は、そのビルの一室へと突っ込んだ。

衝撃を殺すと同時に水が弾け、びしょ濡れの二人がその場に立つ。



「けほっ、けほっ……」

「……済まんな、大丈夫か?」

「ぁ、はい……心配して下さって、ありがとうございます」



 柔らかい笑顔を向けられ、涼二は再び沈黙した。

誘拐された事やら、唐突に溺れかけた事やら……色々と怒られる要素はあれど、感謝されるような要素は無い筈だと言うのに。

水に濡れた為か寒さに震えている様子の彼女に小さく嘆息し、涼二は左腕を掲げた。



「集え」

「え……わぁ」



 二人の身体を濡らしていた水が、まるで無重力空間で浮き上がったかのように染み出し、宙に浮遊する。

それらは周囲を漂うと、弧を描きながら涼二の左手の中へと収束し―――そして、消滅した。

身体を冷やす水分は無くなり、とりあえずの暖かさが身体を包む。

そしてそんな光景に感動したかのように、雨音は胸の前で手を組んで声を上げた。



「貴方様は、魔法使いなのですね」

「は……? いや、ただのルーン能力だろう」

「ルーン、ですか?」

「……まさか、知らないのか?」

「はい、存じておりませんが」



 今や小学生ですら知っている言葉を知らない、この少女。

からかっている様子も無く、ただただ純粋に目を輝かせながら聞いてくる彼女に、涼二は思わず頬を引き攣らせていた。



(―――箱入りってレベルじゃねーぞ!?)



 胸中の思いはこれである。

先ほどからの態度は、狙っていたのでも何でもなく、単なる天然の結果であると―――今に至って、涼二はようやく理解していた。

頭痛を感じて嘆息し、唐突に積もってきた疲労に辟易しつつも、この場から離れなければならない事を思い出す。



「……とりあえず、付いて来い。色々説明してやるから」

「まぁ」

「……今度は何だ?」



 ポッと顔を赤らめて頬に手を当てる雨音に、何か嫌な予感を感じて涼二は尋ねる。

それに対し、返って来たのは―――



「愛の逃避行、なのですね」

「……いや、もう何でもいいや」



 緊迫の潜入から一転、何処までも緊張感の無いお嬢様を連れ、涼二は着地地点となったビルから出てゆく。

―――逃走用のバイクは、ちょうどこの真下に置かれていた。





















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