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陛下の専属様  作者: 月詠 桔梗鑾
第4章
98/151

大地

今回の話は視点がちがいます

この話も必要でしたので....


では、どうぞ



≪ああ、世界が色を取り戻した≫



突如背後から聞こえた安堵の声

何事かと後ろを向く



そして驚く


その人は、彼女は静かに一点を見つめ綺麗な涙を流していた



――――――

―――



この離塔に軟禁状態のまま数日が過ぎ、ついには帝国の古き友人が現れた

その時も確か驚いていた気がする



この場所で俺は沢山の出会いを果たした

それは、生涯忘れることは無く、だが決して他言は出来ない出会い



まずは帝国に祝福を

過ちを犯した人間により消えた尊き存在が、今尚中央には健在だったことにだ



もう俺の国には魔女はいない

我々を助けてくれることはないだろう



ひと目見て、次元の違う存在だと思わされた

自身がこの国で頂点に立とうとも、その存在の前では皆平等で....



酷く冷たい印象を受けた

笑っているのに、笑っていない



笑っていると思ったのは、彼女と親しい...儚き存在を前にしたときだ。静かに抱擁を交わす二人を見て胸が締め付けられるほどの思いと過去の祖先への侮蔑を感じた



そして彼女が心を許しているであろう新緑の精霊

彼に見せる表情もまた、母性溢れる優しいものだった



では笑っていないとは何か

哀しいことだが、総じてそれは全て俺に対する笑みだった



人間に対する嫌悪のようなものを感じた

伊達に王族などと人の顔色を伺うばかりの幼少期は過ごしていない



そして我等が崇拝する北の魔女

彼女は消滅して300年、来るわざわいのために一欠けらの残滓を残して下さった



我々は愛されていた

肉体が滅び、御霊となった北の魔女に




歴史の文献にもある彼女の性格

それは俺が数日彼女と過ごしてみて、間違ってはいないものだった



常に先頭に立ち他者を従わせる長

揺るがない鉄の心

冷たく厳しい物言いだが流暢で美しい言葉づかい

慈愛溢れるその瞳



彼女がなぜ5人いた魔女の筆頭的存在だったのか分かる


だから...そんな彼女が見せた弱い一面に俺は驚くことしかできなかったのだ


――――――

――――



「ま....魔女様?」


慌てて彼女の涙を拭こうとするがそれを手で制される

いまだ一点を見つめている



≪なあ、若き王よ。一つ問いたい....この国でお前はどのような存在でありたい≫



漆黒の瞳が俺を捕える

涙で濡れたその瞳は、恐ろしい程に美しかった



問われた意味が解らなかった

だけど、次の瞬間万物の母たる北の魔女はその慈愛に満ちた目で微笑んだ



「あっ...」




言葉を、考え出した言葉を言う前に景色が一変する

目の前には数日前、絶望を感じたときに見た塔の壁



そう、俺は何故か外にいた

呆気にとられるまもなく、ザッザッと草をかき分けるような音がしてそのあと背中に衝撃と温かさを感じた




「長らく、長らくお待たせいたしました!――――ジル殿下」



細く今にも途切れそうな声で、背後からまわされた両腕に力を籠められる

俺が軟禁されてもずっと気がかりだった俺の右腕



事態に頭が着いていかない

必死に整理して出た言葉は、本当に他愛もないことだった




「そんなに待ってないさ。走ってきたようだね、息が少し乱れている....信じていたよ、アンナ」


両腕を解き

そして今度は俺が彼女を抱きしめる



強く、その存在を決して離さないように



「ご無事で!ご無事で何よりのことです!....もう、ご自身を犠牲にするような行為だけはやめて頂きたい、私の心臓に、悪いっ」




そう言って泣いた彼女を見たとき

漸く北の魔女が鳴いていた意味が分かった気がした



(ああ....確かに世界が色付いた)




賭けが居のない存在かそこにあるとき、今生きている意味を知る

更に強く彼女を抱きしめながらはるか上...一つだけポツリとついている窓を見て俺は伝える




「――――俺は、この地で根を張り生きる数多の者達の為にある大地でありたい」



伝わったでしょうか

これが俺に出来るこれからの目標です



≪真っ直ぐに、育ててやりなさい≫


その声は音としては成り立ちはしなかったけど

確かに俺の耳には届いていた



掛け替えのない存在を護るためにはあとどれぐらいの知識と力を有するだろう



いつか俺も、かつての旧友のように一国を纏め慕われるだけの王になれるだろうか




「アンナ、忙しくなるよ」


「既に殿下が不在の間、命一杯忙しかったのですよ...殿下には徹夜で執務に当てってもらいますからね」




かいなの中で笑う彼女

そう、これから一層忙しくなる



父上が崩御し、あいた空白の時間を取り戻し更なる発展を遂げなければならない




過去を変えることは出来ない

だから今後の生き方に、悩むことはしないことにしよう



それを教えてくれたのは、妖艶に微笑む北の魔女と



―――――――残酷なほど冷たく美しい時の魔女、だ




「さあ、仕事に戻ろうか」




色付く世界に、再び足を踏み入れる


と、云う事でジル殿下視点でした


どうでしょう

ここまでよんでくださってありがとうございました

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