収束
そろそろ北国は終盤を迎えます
え、あっさり過ぎる?まあ大目に見てやってください
では
どうぞ
静寂が私達を包む
何十分、こうしていただろうか
数分前からやけに足音が騒がしい
時折、何を言っているのかまでは聞き取れないが声を荒げて何かを言っている
私と未だに眠る陛下
そしてシド団長のいるこの部屋は、静かだ
突如
窓が開いていないのに風が吹いた
それは優しく、ほんのり暖かい...フゥ君の風だ
その風で起こされたようで陛下も目を開ける
ゆっくりとした動作で起き上り椅子に深くもたれかかった
動きの一つ一つに優雅さを感じられずにはいられない
「一瞬、風を感じたと思ったんだがな」
「――――風、ですか」
チラリと陛下は窓を見る
しかし閉まっている窓に不思議そうに首をかしげていた
あの風は私に結果を教えてくれた
風が温かいのなら良
風が冷たいのなら悪
陛下が先程力を使ってくれたおかげで無事干渉の呪いは解け、さらにフゥ君の風から推測するにその干渉の呪いに気づいていた臣下が複数名居たのだろう
「なんだ、随分騒がしいな」
少々音を荒げながらこちらの部屋に向かう足音が聞こえてきた
一人ではないようだ
扉の横でシド団長が緊張の面持ちで扉を睨む
直ぐにでも対応できるようにその利き手である右手が左腰にさしてある剣の鞘に置かれている
私も、椅子から立ち上がり陛下のすぐ左横に立った
誰が来たのか少し予想があったが、あくまで予想だ
今の陛下は魔女に近い力を使って疲労している
少し眠ったからとはいえまだ全快ではない
ドタドタと足音がすぐ傍まで近づいてきた
音からして2人くらいだろうか
その足音は扉の前でピタリと止まった
カチャ
シド団長が剣を軽く抜く
まだ完全に鞘からは抜けていないが数十センチ程鈍色に輝くものが見えている
コンコン
控えめとは言い難い、かなり粗ぶったノックをする誰か
「何用だ」
シド団長が低く唸るように声を発する
それを私は静かに見ていた
「―――私です、ロードです陛下」
(当たった。やっぱりロードさんだったか....となると、もう一人は)
ガチャリと扉が開く音がしてロードさんが入ってきた
その後ろから見知った顔が現れる
だが対角線上にあり陛下からはロードさんのせいで見えないようだ
「外の様子はどうだ?」
得意げな表情の陛下
まああなたがやったのだけれど、伝授したのは私だからね
するとロードさんは少し頬を赤くして目を吊り上げ、そうまるで怒りが爆発するまであと数秒というような表情で陛下を思いきり睨んでいた
「どうもこうもありません!いきなり王宮内にいた者達が慌ただしく動き始めました!今までの様子からは考えられない程、皆各々仕事をしています、いったい何をなさったのです!?そして、なぜ彼女は人間の姿に戻っているのでしょう」
勢いよく言葉が飛び出してくる
ロードさんの話に、陛下はご満悦のようだ
それを理解していないロードさんは更に感情を露にする
何をやらかしたのだ...とでも言いたげな表情で
(無事成功した様ね)
結果はいい方向に進んだのではないだろうか
慌ただしく動き始めた
大多数の人間が、自分に呪いがかかっていたことを知ってたようだ
流石は五国の中の一つ
王不在でも、王宮にはまだ優れた人材が残っていたようだ
「ランウェイ様、お気持ちはお察しいたしますが先に後ろの方を....」
私がそう言って横槍を入れる
このままでは話が進まない
今からロードさんにこうなるまでの経緯を説明するとして、できればその後ろにいる人にも聞いて欲しい
私の言葉に我に返ったのかロードさんは少し右にずれた
そして陛下に、見せるかのように後ろにいた人物を前に出した
静かに頭を下げ陛下に首を垂れる....アンナさん
「彼女はこの国の宰相に御座います陛下」
ロードさんがアンナさんを見つめ紹介をする
その様子を陛下はじっと静かに聞いていて、小さく顔を上げろと言った
ゆっくりその風貌が現れる
アンナさんの瞳が陛下の瞳を捕えた瞬間、陛下が驚きの表情を見せた
「――――お、お前は...!?」
珍しく驚いている陛下にシド団長が一層アンナさんを危険視した
急にどうしたのだろうか
陛下の様子にアンナさんも吃驚している
この二人に面識はないはずだ、アンナさんは陛下の様子に吃驚してるのであって陛下のような反応ではない
「あ、あの」
控えめな声で陛下を尋ねるアンナさん
だけれど陛下には届いていない様で、まるで過去の何かをアンナさんの容姿越しに見ているような目で彼は口を開いた
「メルダ...か?」
陛下の口から出たのは名前だろうか
ふと、思い出す
(随分と前に、私の前に現れた女も確かそんな名前だった気がする)
だれだったか
しかしながらアンナさんの名前はメルダではない
陛下はアンナさん越しに誰かと勘違いを居ている様子だった
「いいえ、お初に御目文字仕ります、中央帝都の国王アレン・アルファジュール様。私はこの北国の次期国王ジル・ヴィゾーネ・エンブレスの側近であり北国宰相の地位を侍しております、名をアンナ・レイブンハイル・バロックと申します」
アンナさんが丁寧にお辞儀をしている
陛下とは違い冷静な態度をとるアンナさんに、陛下も落ち着きを見せたようだ
「他人の空似...にしては、知り合いによく似ていてな。不快を持たせてしまったやもしれぬ。そうか...おぬしが北国の、噂はこちらにまで来ている。随分と賢い者だとな―――――いかにも、余は帝国の王。本来ならばこの場に居ること事態可笑しな話ではあるが、その賢い頭脳で理解をしてくれ」
先程とは打って変わって陛下の公の顔
自分勝手な物言いではない、誰かの上に立つ存在としての発言
一国の王がそう易々と謝ることはしない
それは自分に非があったとしても多少のことなら目を瞑り我々は流す、暗黙の了承だ
双方の挨拶が終わったところで説明を始める
これまでに至った経緯、陛下の力、北の魔女のことについては伏せておいた
あの存在は普通の人間には耐えられはしない
東のリーナ姉さんの御霊がある場所も、今回のアネッサ姉さまの御霊がある場所も...たぶんこの二人では耐えることができないだろう
知らない方が、説明する手間も省けるからね
一通り説明を終えれば、ロードさんは脱力した表情をし言った
「私達の努力はどこへ...」
「お前たちが居なければこんなにスムーズに事を運ぶことができなかっただろう。ここから先は余ではなくそちらの次期国王が収集を図らねばならぬだろう。これしき出来なくて国の柱にはなれぬ。北の宰相よ、貴女は今ここにいるべき人間ではない、早く行ってやれ。―――――大切な主の元へ」
そう言って優しく微笑んだ
弾かれたように深く一礼しそのまま走って扉から出ていったアンナさん
向かうはきっと離れの塔
多分アネッサ姉さまに追い出されてジル殿下も塔の外に居る頃だろう
「陛下がいらっしゃると、今まで私達が努力してきた内容を一瞬で処理してしまうから怖い」
恨めしそうな目でロードさんが陛下を見つめていた
と、思ったらいきなり私を捕えた
「貴女もずっと何をしていたのですか。―――――――私のハニーなのだというのに」
ゴッと鈍い音がした
シド団長が顔を真っ青にして近くの壁に寄りかかっている
ちょ...
更に後ろからは信じられないものを見るかのような目を陛下は私達に向けていた
ちょっ....
私の傍に来て一房髪を掴み口づけを落とす
ちょっと...
「いやいや、ちょっとそれは無いですって!」
ニヒルに笑うロードさんが可笑しそうに笑顔を見せた後「少しからかうつもりでしたが...精々シドに蔑まれなさい」と鬼畜な発言をした
「凄い鬼畜がいらっしゃる!」
私の嘆きは王宮の雑踏に紛れた
北国の可笑しな蘇り事件は収束に向かって秒針を進め始めた
腰がまだ痛い...腰に効く何かってあるんですかね
座るのもしんどいな(・_・;)
ロードさんとの絡みを久々に
ここまで読んでくださってありがとうございました