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陛下の専属様  作者: 月詠 桔梗鑾
第4章
92/151

動き出す‐SIDE陛下‐

あと数話で北国編終了

では、どうぞ


シドの報告を受け、至急準備を始める

馬鹿だ、あいつは政治の、せ、の字も理解していない



角で落ち込んでいるシドに構っている暇は無し

こんな状況のシドを見たらあの少女はどう反応するのだろうか



最初からシドがミアという分血の少女を毛嫌いしていたのは分かっていた

多分それは、あの少女から溢れる穏やかな空気に直結しているのだろう



シドはずっと戦場に身を置いてきた

そこへ現れた、自分を魔女だと言い張る少女



しかし、あの少女からは桁外れの魔力も殺気もほとんどなかった

あれは...いままで人を殺したことが無い雰囲気




俺を護るからにはそれ相応の力が必要だ

シドは血反吐が出るくらいの努力を積み重ね俺の傍にいる



それを、分血という肩書だけで俺の傍についていられることに苛立っている




自らの手は血で汚れているのに、少女は清いまま

そのどうやっても抗えない差に...憤りを感じているのだろう



シドと少女が顔を合わすたびに、シドが一方的に何かを言っていた

だがそれに対して少女は嫌な顔はするものの反論はしていなかった



あの少女は、シドの内面をもしかしたらわかっていたのかもしれない

分血とは魔女の血を少なからず引いている



魔女の本質を見抜く目

あの少女にも、少しは備わっていたのかもしれない


肯定できないのは、ロードとの舌戦だ

残念なことにロードとはウマが合わない少女


(見ているこちらは楽しかったが)


今まで強気の姿勢だったシドの、こんな姿を見たら少女はどんな行動を起こすのか

同じように無言を貫くのか

ロードとの会話のように貶すのか



時間が無いのに、そんなことを考えてしまう余裕がある自分に笑ってしまいそうになる



「シド、終わったことは仕方がない。準備をしてくれ」


「―――御意」



扉から出ていくシドの背に言いようのない悲壮感が漂っていたことは気づかないことにしよう


―――――――――

――――



入国の手続きを終え中へと入る

王都だというのに活気がまるでない


うちの国と比較まではしなくとも、前国王が息災だったころはもっと華やかだった



(事態は火急ということか)



このままでは俺が予想した最悪の結末へと一直線だ

出来ることならロードやあの少女と合流したいが...しょうがないこちらで解決するとしよう



あっちは魔女のことを重点的に調べていると期待して



「シド、念には念を入れ警戒は怠るな」


「いつでも対処できる体勢です」



目の前には以前来たときと変わらない白を基調とした城

城壁も白い



なんせ国境に置いてある扉まで白いからな

徹底していると言えば、それまでだが



案内を受け一室へと通され一泊の後謁見をするそうだった

こちらが無理を通したんだ、それくらいは仕方がない



そして、当日謁見をするのは昼を過ぎてからと伝えられた




(寛大なお心だな。使者も何事もなく戻ってきている...今は第二殿下の奴らしかいない王宮で、気の利いた対処をする、しかも咎めることなく許可するとは。何を考えているんだジル皇太子の弟)



それにしても退屈だ

今までは訪問後すぐに謁見し、会合を開き、有意義な話し合いの後帰国してきた



今回のように他国に一泊など無かった

部屋から出るなとは言われてはいないものの出ることはまずありえないだろう




他国の王が城を徘徊するなどマナー違反もいいところだ

だがこれでも国賓


何かあった時素早く対処できるよう壁際にはシドの他に、この部屋には召使が居る



随分と感情のない目をしている

ぐるりと見回し、静かな一室で昼を過ぎるまで何もすることのない俺はふと外を見た



特に変わりのない

そこら辺に居る臣下だ


しかし、なぜか...俺を見ている

俺を見て驚いたように目を見開いている



そこでふと違和感を感じた

目を閉じ、再び外にいる臣下を見た


「なっ!?」



次に驚いたのは自分だった

目の前にいるのはそこら辺にいるはずがない、自分の国の宰相だ



「どうなされました」


異変に気が付き近づいてくるシドを慌てて制する


「な、んでもない。気にするな」


外を見たが既にロードはいなくなっていた

もしかしたらあちらから来てくれるかもしれない



(...どうなってるんだ)



近くにあったソファに身を沈める

余計な勘繰りをされては困るので召使をすべて下げた



あの違和感は多分、骨格だ

顔は全く違うがどことなくその立ち姿がロードに似ていた


だからそんな違和感を感じたんだ

その違和感も、実際本物のロードだった今消えてしまったが



「王宮内にロードが居た」


「はい?」



シドは困惑の表情を露にする

無理もない、もしこの王宮にロードたちが迎え入れられているとしたら既に王宮側から説明を受けるはずだ


変装までして王宮にいるとは

あの少女もこの王宮内にいるのだろうか



全くもって無茶をする

意味があっての行動だろうが、あのロードが意外にも大胆な行動をするとは...



そこまで考えていると不意に誰かが扉をノックした

そしてこちらが答える前に扉を開けて入ってくる



咄嗟に俺を護ろうとシドが剣を抜くが次の瞬間には剣を鞘におさめていた


(あそこからここまで、早かったな)



バタンと扉が閉まる

何故コイツが、この扉を警護していたこの国の騎士を欺いたのか今は問うべきではない


鬼の様な険相のロード

シドはそっと立ち去り扉の横に行った



少しは助けろ薄情者



「どう云う事か、説明頂きたいものです陛下」



これは...

帰国後の説教ま免れないな

――――――――

――――




「と、いうことだ。早期解決の為、動いた...で、お前はなぜあんな恰好であそこにいた?」



無駄を省き完結に伝える

納得したような、していないようななんとも言えない顔をしていたが最終的に受け入れてくれたようだ



「どうにも魔女はいま第二殿下の傍にいるようでしたので。いっそ潜入でもすれば楽なのではないかと考え友人の手も借りて入り込みました。本来ならば陛下の無謀な行動を止める立場ですが....その理由と、今の現状からして正直助かりましたとしか申し上げることは出来ません」



「何か分かったか」



ロードの話によれば、第一皇太子殿下はここから数分の距離にいある離塔に幽閉されているようだ。そして第二殿下の独裁的な幼稚な行動によって既に何人ものの、王宮に仕えているものは殺されているらしい



更には魔女と名乗る女は王宮にいる人ほぼすべての人間に干渉という呪いをかけているらしい

今回この潜入を手伝ってくれているロードの友人とやらは未だその呪いにはかかっていないとのこと



一番驚いたのは


「クッ、ハハッ―――あの少女が、猫?」


思わず笑ってしまった

猫とはまた思い切った



「なかなかに可愛らしいものでしたよ」


「そうか、貴重な分血だ。あまり無理はさせるなよ」




日が完全に昇っている

そろそろ謁見の時間か、そう思っていたら丁度部屋を初老の男が訪れた



咄嗟に近くにあった本棚の陰に身を顰めた

ロードが居るんだ、会談にはあいつに行ってもらえばいい



俺の行動に驚くも、理解したのかため息を一つ零してロードはその初老の男と共に行った


(正直馬鹿と話している時間は惜しいからな)


先程のロードとの会話で第一皇太子殿下がどこにいるか大まかな予測は出来た

これでも何度かこの国に足を運んでいる



最初の出だしであれほど失礼な要件を言ったんだ

ついでに国王も当日宰相をよこしました、そう言っても既に同じだろう



しかも正しい連絡は回っていないようだ

あの初老の男、俺ではなくロードが居ることになんら疑問は無かった様子



俺をこの城に招き入れた時点で、既に何人かは俺を見ているはず

特にここまで俺を案内した奴が居る



呆れを通り越して笑える

国としての機能がもう全くもって存在していないではないか



誰もいなくなった部屋

シドはロードと共に既に部屋を出ている



国王になって、他国の城をうろつくとは考えもしなかった

そう思いながら窓を開け外へと飛び出した

―――――――

――――



向かった先はロードやナギから話を聞いていた離塔

衛兵に気づかれないよう素早く中へ入る


ひと目でこの塔には何か自然の摂理からは切り離された力が働いているとわかった

簡単には侵入できないだろう、そう思っていたが一瞬その力が反応しただけですんなり俺を迎え入れててくれた




(誘っているのか...?)



なんにせよ、今のところ危険な気配はない

無駄に多い階段を上り扉が見えてきた



奥からは人の気配がする

そしてその気配は多分第一皇太子殿下だろう



だから気が付かなかった

≪何ぞ....妙に懐かしい気配を感じ取ったと思ったが、我の勘が鈍っただけか≫



背後から女の声がした

若いだろうに、それにしては艶やかで年を感じさせるトーン



(振り向けない)


≪よくよく見れば嫌な気配もする...いっそこの場で殺してしまおうか≫


気圧される、とはこのことを言うのだと実感した

今俺を包んでいるこの空気はあの時、東の魔女が眠る御霊のある場所で出会った時の魔女と対等したときとよく似ている



「北の...魔女か」



あり得ないが、そんなことを口走っていた

俺の勘がそう伝えていたからだ



≪ふははは、異質な気配ぞ小僧。汝に問おう、この先に居る者にお前は危害を加える輩か?≫


背後から嘲笑うような声が聞こえたかと思えば次の瞬間には恐ろしく冷たい殺気が刺さった


この先にいる者

つまり第一皇太子殿下のことだろう



(第一皇太子殿下のことを護っているのか?)


「いいや、それはない。俺はあいつの友人だ」


死んでも別にさして情が湧くわけでもない...脆い友人関係だがな



≪――――あのハゲの子孫か。変な質問をしてしまったな、それに友人か。随分と上っ面な友人関係じゃないのか

?まあいい、これも何かの縁入るがいい≫



急に興醒めな声色

見えないが後ろにいる女性は、つまらないといった表情をしているのだと思う



なんにせよ入れるならなんでもいいか

ガチャリと少し錆びた音がして、中に入れば数年前より少し痩せた第一皇太子殿下が居た




「は...?」


俺の登場に、驚く第一皇太子殿下

逆の立場なら俺だってそんな反応しかしなかっただろうな



≪すまないな、気配違いで入れてしまった。危害を加えることもないだろうと思う...今後の繁栄のために少しはこの男に取り入って媚を売っていた方がいいと思うぞ≫



そこまで大っぴらに言われたのははじめただ

流石に慣れた



背後にいる魔女を見ようと振り返る

だが、驚くことに背後には誰もいなかった


いや、目を凝らせば薄ら女性の様な人間が立っているのは分かった



≪私が見えるのか?....いや、薄らとしか見えていないだろうが。異質な存在だな、お前も≫



やはり北の魔女だった

以前、前国王の執務室で父上が話し合っていた時、その執務室で見かけた肖像画と同じ容姿と色彩を持っている女性が目の前にいるのだから




(惜しいな)

もう少しはっきりとみることができれば、その美しさを感じることができただろう



≪我の存在は、既に魔女に非ず。役目を終えれば理に従い消えるまで....云わば残滓、残留思念となった我を見ることができるのは同族の魔女と、我が国の気高き血筋を引く王族のみ。例外で、お前という存在が現れたがな≫



そう言って笑う北の魔女

例外、だがはっきり見える訳じゃない



だが異質には変わりないのかもしれないな

残滓...か


一瞬、時の魔女以外にも生き残りが居たのではと期待をしてしまった

なんせ300年も前の出来事


残されたほんの僅かな魔女に関する書籍

そして語り継がれてきた話意外確証は得られなかったから、おとぎ話のような存在だったのだ




「久しぶりだな、ジル皇太子」


多少の砕けたお喋りを今咎める者は誰もいない

それをわかってか、驚いてはいたもののすぐに目の前の彼は笑顔で対応してくれた



「こんな場所から、申し訳ないな」


純粋そうな笑顔

だが俺は知っている



優しい風貌だ、そして争いを好むことはない、他人を思いやる優しさ、労わる優しさを持っていても王族としての血筋からか....時には残酷なほど冷たい男になれる人間だ



「北の魔女殿も、俺に媚を売れと言っている。今の状態だ、取り入っておくが最善の策だと思うがな」


「本人がそんなことを言うなよ。そして楽しんでるだろうどうせ」



他愛もない話

俺の投げやりな態度にどんどんジル皇太子が疲れていってるのが分かった


そしてそんな俺達の会話を口を挟まず聞いている北の魔女

若干呆れ顔なのは何も言うまい



(北の魔女、300年も前の存在を目の前にしているはずなのに案外驚かなかったな)


冷静な自分に驚く

さて、この後どうすべきか....悩んでいるところでカリカリと削れるような音がした



それは扉の向こう

知った気配だ



やはり分血

あの結界のような膜をこの魔女の許可なく入ってくるか



立ち上がり、その扉を開ける

北の魔女が何のアクッションも起こさないということはここに迎え入れてもいいということだ



扉を少し開けた時点でするりと身をしならせ一匹の猫が入ってきた

真っ白な毛並の、子猫だ


(―――てっきり髪の色と同じで蜂蜜色の毛色だと思っていたが、白か)



俺の存在に驚いている猫こと、少女

あえて猫の存在が少女でることを気づいていない様に接した



魔女の前、どんな行動を起こすのか気になったからだ

だがそんな俺の思惑を知ってか知らずか北の魔女は俺達を残し隣の部屋へと移ってしまう



残念なことに声は聞こえてこなかった



「本当はジル皇太子の猫ではないだろう」


「俺の!...いや、嘘はばれてしまうだろうな。あの猫は俺が協力を要請した、ある意味においてとても希少な存在だ」



勢いは最後まで続くことは無くあっさりと真実を口にした

そうか、こちらの件はあの少女が解決するつもりか



「それ以上深く追及はしない。どうやら俺はお邪魔になりそうだからな、行くとしよう。北の魔女がジル皇太子側に居る以上大丈夫だろうしな、次はジル皇太子が晴れて国王となった時会いたいものだ」




それに、分血とはいえ時の魔女もこちらについているようだし...

あの少女の能力は分からないが、きっと使えるだろう


(今のところ、俺に役立ったことは無いが)



「ありがとう」


扉を出る際、背後から小さく声が聞こえた

これが彼の口から出る最後の弱弱しい程の礼だった



ジル皇太子の救出は少女を期待するとしよう

俺を護れと言ったが、ジル皇太子一人護れなかったら流石に分血とはいえど側近からは外すつもりだ



適当に侍女となって今後も王宮内で魔女にかかわりのある者を調べてもらおう

気に入ってはいたが、使えなければ意味は無い

―――――――

――――



細心の注意を払い、与えられた一室へと戻った

戻る際...茂みから黒い猫がこちらを見ていたような気がしたが、たぶん気のせいだろう



部屋には既にロードたちが会談を終え戻っていた

その表情からは疲れ意外なにも感じ取れない



「最悪です、馬鹿にもほどがある」


「やはり早急に事をおわらせる必要があるな」



具体的な、有意義な会談は一切なかったそうだ

誰もかれもが自分本位の考えをロードに押し付けてきたらしい



「どうにかして、内側から壊していくしかないな」


その声にロードとシドは深く頷いた

ロードは再び変装し、窓から外へ出ていった



俺は、帰ることにしよう

ロードが宰相として会談に臨んだ以上俺の存在はこの国にはない



俺の骨格に近い騎士と、シドの骨格に近い騎士を適当に見繕い色彩の魔法を掛けやり過ごそう



その間に俺達はひっそりこの国を後にすべきだ

最初からいなかったものとすればいい



そう考え、夜の帳が降りるのを待った

こちらをじっと見据える、黒猫の視線に気づくことなく...

長くなってしまいました

さっぱりしなかった方、申し訳ないです


ここまで読んでくださってありがとうございました

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