崩れる音その5
急きょ入れた陛下...やっばい、話が進まない。陛下が邪魔だ←
それでは、どうぞ
≪双方つもる話もあるだろう...我はその猫と暫し席を外すとしよう≫
気を利かせてくれたアネッサ姉さま
機転の良さに、関心した
ジル殿下もアネッサ姉さまの、そこ言葉の意図する意味がわかったのか頷いて隣の部屋へ行くことを進めてくれた
中々説明できなかったけど、この最上階だって1室なわけじゃない。ほかに2部屋用意されている
残滓となったアネッサ姉さまは私を抱き上げることは出来ない。それは私が生きている実体だから...
この場での再会を果たしたときは魔女の姿だったから抱擁を交わせた。魔女とは本当に異質
≪本当に、猫の姿で来るとは...それはあの男の願いを聞き届けると、そう解釈していいのかい≫
扉の奥
ジル殿下と陛下のいる部屋の隣に入った瞬間、アネッサ姉さまは私に投げかける
「そうする。今回は少しばかり気になる点が多すぎる...特にあの猫」
そこまで言って、ふと気が付く
目の前で猫の正体について唸っているアネッサ姉さま
「そういえば、なぜ陛下をここへ入れたのです?アレは貴女方を絶望の淵に追いやった者の子孫だ」
忘れたわけではないだろう
300年前の、悲劇
私は今でも鮮明に覚えているというのに...しかし、次の言葉に耳を疑う
≪何を言っている?我等を、少なくとも我を絶望へと追いやったのは
―――――――あのハゲではない≫
(な...にを言っているの?)
「良く、聞こえなかった。もう一度...アネッサ姉さまやリーナ姉さん達を殺したのが、誰だって?」
私の質問に今度はアネッサ姉さまが驚いたような顔をしていた
どう云う事だろうか
話が全くかみ合わない
表面上は薄皮のようなものでぎりぎり保っていた
しかしどうだ
よくよく見れば既に穴が開いているではないか
≪あのハゲの、妻...王妃ぞ≫
「お...うひ?」
ここでまさか王妃が出てくるとは思わなかった
と、いうかそれは考えにくい
王妃はアネッサ姉さまたちが消え去る1年も前に、死んでいるわ
帝国歴1624年
悲劇が起こる1年前
私はアネッサ姉さま他3名の魔女と話し合い、気の狂ったハゲを監視する役割を担った
その選択は、後に誤ったものだったと彼女達がこの世界から肉体を消滅させたとき漸く気づいた
尤もその後私も心をどこか遠くへ飛ばす必要があったから考える暇なんてなかったんだけど
過去の記憶を引っ張りだして整理する
だけど、なかなかそう簡単に一本の糸になりそうには無かった
≪更に...話は戻るが。単に気配が、懐かしい気配がしたからね。どうやらそのことについては全くの勘違いだったのだけれど≫
(ややこしくなりそうだから、今その話はしなくてよかったのに)
手がかりどころか何の役にも立たない
今知りたいのは、王妃のことなのに
私に、魔女達が消え去ったのだと教えてくれたのは精霊王だった
あれが...今思えば初めての出会い
魔女と精霊王は切っても切れない縁がある
そのせいか、初めて会っても初対面とは思えないのだ
(そうだ、あの時も普通にあいさつから始めてたっけ)
慈悲深く人間に歩み寄る精神を崩さない精霊王
誰からも慕われる、良き創造主
トントン
思考を阻むリズムのいいノック音
誰かが私達のいる部屋のドアを叩いているようだ
私とアネッサ姉さまは何も言わず目で会話をした
内容なんてしっかり伝わる訳は無い
ただ、考えていることが一緒かどうかを確かめたまで
―――――300年前の悲劇が、可笑しい
すれ違う真相
どちらも確認する術は無い
どうにかして話をつなげて、おかしな点を見つけなければいけないようだ
王妃の事といい、今回のフィアナ嬢の事といい
少し似ている部分がある...何かの関係性があるとしか思えないわ
―――精霊王が、関与している可能性がる
ふとジル殿下が言った可能性の言葉を思い出した
(いいや...たぶん精霊王ではないだろう。利益が無さ過ぎる)
だが、と同時にどこかでその答えを打ち消す言葉が頭の奥深くに小さくいる
同族を疑うことはよくない
頭を振り集中する
アンナさんがくれた時間だって無駄にできない
(早々に決着つけてやる)
―――――――――
――――
≪あの坊は、どこへ行った?≫
部屋に戻ると既に陛下はいなくなっていた
気配の跡も何もない
まるで最初からいなかったかのようだ
嫌な男、アネッサ姉さまにも気づかせないだなんて...ある意味天才ね
「そろそろ戻らないと、あそこに置いてきた信用に足りる部下に怒られる。そう言って帰ってしまわれました」
疲れた表情のジル殿下
信用に足りる部下...まさかロードさん?
でも彼、今変装中よね
入って早々ばれた...なんてことは無いわよ、ね
鼻がよく聞くロードさんには、今ここでアネッサ姉さまたちとコンタクトを取っていることをあまり知られたくはない
スッとジル殿下を見つめる
視線に気づいたジル殿下も、立ち姿勢から私の目線に合わせてしゃがみ込んでくれた
「この前の件、その願いはきっちり叶えさせてもらう」
私の言葉に酷く喜んだジル殿下
嗚呼、きっと自分ではどうにもできない不安に押しつぶされそうだったのかもしれない
そう思った
なんで陛下がここに簡単に入ってこれたのか等々は次の話辺りで入れたいと思います。明らかに可笑しい矛盾点などありましたら気軽にご報告いただければありがたいです。
ここまで読んでくださってありがとうございました