崩れる音その2
ノーアとはフィアナ嬢の猫姿の名前です。
では、どうぞ
アンナさんの自室は、もの凄く豪華でした
あの後素早くこの部屋に来たのだけれど....まあ金使ってますね
ちらっと軽蔑の眼差しを送れば、アンナさんは慌てて首を振っていた
伝わったのだろうか
「この部屋は私の趣味ではありませんよ!だから城下に家を建てたんです、今朝貴女方が来た家にいつも私は住んでいます。特別なことが無い限りこの部屋には泊まりません」
治安が悪い街の人たちの血税だ
口では終わらせたいだの言っているけど、実はこの暮らしに満足してるのではと思うほど部屋の装飾が豪華だったから一瞬軽蔑してしまったよ
まあでもいい方に裏切ってくれたからよかった
よく見れば、きちんと掃除がされていないのかところどころ埃が被っていた
これも多分、余計な仕事を増やさないよう配慮してのことだと思う
「あっちの部屋にはもう何もない。既に民の血税だけではこの城は支えられないんですよ。これ以上の重税を掛けないように数少ない第一皇太子殿下派の我々が私物を売ってどうにか支えているようなものです。第二殿下派の人々は我々の苦労も知らず好き勝手やって...本当に腐ってますよ」
これは、想像以上です
アネッサ姉さまが助けを求める訳だ...
それにしてもどうやってジル殿下たちと接触しようか
ジル殿下の言っていた心配している臣下とはきっと彼女の事だろう
彼女は今第二殿下の宰相...迂闊にジル殿下のいる塔へは近づけないはず
となると、早々に私はこの人から一度離れなければならない
こっちにはフゥ君がいるからいつでも行ける
唯一不安なのは、この姿でも魔女の呪いが解けるかだ
一番はアネッサ姉さまが気づいてくれることだけど
「どうしました?」
急に動きを止めた私を不審に思ったのかアンナさんがこちらを見ていた
何でもないよ、そんな意味合いを込めて一鳴き
案外便利だな猫
言い訳を追求されることも考える必要もない
「では、少し今後の行動について話し合いましょう」
話し合うって言ったって私頷くか首を横に振るかしかできないんだけどね
――――――――――――
――――
「まず、貴女方に謝りたい。」
急に神妙な面持ちで私にそんなことを言ってきた
なんだなんだ
私をテーブルの上に降ろし、こちらをじっと見つめる韓紅色の瞳
≪にーにー≫
貴女は何に対して謝りたいの?
首をこてんと横に倒してみた、するとアンナさんの口元が若干上がった
これ、人間バージョンでやったら目潰しものだけど今は猫の姿
可愛いだろうな...と自惚れてみる
ああ折角真剣なムードだったのに壊してしまった
続けて、と顎でくいっと催促した
「別に隠していたつもりはなかったんだ。つい、忘れていたというか...」
歯切れの悪い口調でもじもじ言い出す
さっきの丁寧な口調ではなく今朝聞いた荒っぽいものになっていた
「その、実は君たちの王が今この城に滞在していることを...すっかり言い忘れていた」
...なんだって?
今、さらっと聞こえた内容
(叫ばなかった自分に、拍手!!)
猫であることに、後悔中
さっきは猫最高とか言ってごめんなさい
これじゃ聞きたいことも聞けない
突っ込みたくても突っ込めない
そもそも、忘れるって...
国賓だよ相手は。あんた宰相でしょう、忘れるなよ!
しかも滞在中とな
いつから滞在してたんだよ
それ以前に...
自分で視察に行けと命令しているにも関わらず仕事放りだしてなんで来る!?
≪フッシャー≫
なんともいえぬ状況に思わず毛を逆立ててしまった
猫、もう猫に身も心もなり始めている気がしてならない
「す、すまなかった!!貴方達が来るつい数日前帝国から使者が来ていて...まさか貴方達が来ているとは知らず...帝国の視察を許可してしまったんだ。この現状を打破してくれるのは、もはや賢帝と謳われる帝国の国王しかいないと」
貴女の度胸も凄いわ
自国がどうにもできなくなったから他国に介入を許すなんて
最悪はこの国が帝国に呑まれてもいいと思っているのね
(確かに、賢い行動だわ。このまま第二殿下支配の国になればすぐにこの国は地に落ちる。それならばいっそ経済力も軍事力も豊な国の傘下に入った方がここに住む国民にとってみればマシ...私のところの陛下は一体何考えてるかわからないけど...)
――――こっちも、ジル殿下とアネッサ姉さまの為にやらなきゃいけないことがあるから陛下が動く前に事を終わらせないといけないな
「あ、あの」
それにしても今朝の態度とまるっきり違うのね
あんなに私を見下していたのに、随分と丸くなったなぁ
≪にゃー≫
とりあえずその話は終わりでもいいよとの意味を込めて一鳴き
でも、ただ鳴いただけじゃ流石に伝わらないから頭をアンナさんの腕にすりすりした
「多分ロードはそのうち気が付くだろうと思う。自分の支える王の気配をロードならすぐ感じ取るはずだ」
(私は彼の魔女ですが、なんら感じませんでしたよ)
まあその話は置いておくとしよう
再び真剣な眼差しで、アンナさんを見る
「そうだ...そうでした。では、話を続けます。私はこれから第二殿下と共にアルファジュール帝国の現国王と対談しなければなりません。実際は私が居なくとも重臣たちが始めているのでしょうけど...ですが私も一応宰相ですから。遅れるとしても出席しなければなりません、相手は粗相が許されない国賓ですから」
うん、国賓相手に遅刻って
それ普通の状況だったらまず失礼に値するけどね
ただ今回は私達の件で遅くなったりもしただろうからしょうがない
後日陛下がごねったら私とロードさんできちんと説明しよう
「その場に貴女を連れていくことは出来ません。が、この部屋に居ても情報は来てくれないでしょう。幸い警備は今対談が行われている謁見の間に集中しています。多少猫のあなたがうろうろしていても誰も咎めることは無いでしょう。その間、貴女にしかできない仕事があります」
陛下が来ていることで予想外の動きができるってわけか
しかも私は猫の姿
警戒は全くと言っていいほどされない
と、なると....
「貴女には、幽閉されている第一殿下の元へ行ってほしいのです」
やはりそう来たか
なんて良いタイミング、ついてるわ
「以前、第一殿下が離塔にいるとお話ししましたよね。その場所に私は近づくことができません、私が安易に近づけば第一殿下の身に危害が加えられてしまうかもしれないから、と。ですが貴女なら怪しまれることなくあの離塔に近づけるでしょう。何故、第二殿下があの塔を選んだかは分かりませんが生きているのであれば彼の状況が気になります」
それは、アネッサ姉さまの魔法です
この人の魔法で数分の間彼らは洗脳のようなものを受けていたんです
「場所は、ここから数分の場所にあります。窓の近くまで太い木の枝が伸びているでしょう...そこから下へ降りて下さい。本来ならばこの部屋に来る前に外から行けばいいのですが、外から行くとこの木の手前で見張っている騎士たちに止められてしまうんですよ。ここから行くのが一番障害が無いんです。」
≪にー≫
離塔の周辺にも衛兵が沢山いたよな
あの時は上から行ったからわからなかったけど実は手前にも見張りが居たんだね
徹底してるな
「そして、降りたら木を背後にして左側へ向かってください。貴女が魔女の分血であるのならば...きっとあの場所にもたどり着けるはず。後は、許しがあれば入れるはずです」
何の許しなのか、私は聞かなかった
アンナさんはあの離塔にアネッサ姉さまの御霊があることを知っているんだ
≪にゃーん≫
分かったと、頷いた
全てを知っている私にとって今の説明は無くてもよかったけれど...
説明を受けないままあの離塔に行ったことがばれれば少なからず怪しまれる
トントン
不意にこの部屋の扉を叩く音が聞こえた
その音に二人で驚く
(びっくりしたー、不意打ち!)
「宰相殿、宰相殿!おりますでしょうか」
ちらっとアンナさんを見ればふっと表情を凍らせてしまった
おおう、怖い
私を一撫でして、窓を指差した
行けということなんだろう
「宰相殿、聞こえておりますか?」
煽る扉の向こうの人物
私は足早に窓の枠に上り、アンナさんに開けてもらって樹の枝に飛び移ろうと...あ?
「さあ、早く」
早くって貴女、枝遠いんですけど!?
流石にこの高さで猫の姿なら普通死ぬ
魔女だから死なないけど
最悪、フゥ君に手伝ってもらえれば一番楽なんだけどな
「時間が無いので、すいません!」
いきなり謝ったかと思った次の瞬間
むんず、と体を掴まれそのまま.......フライアウェイ!
≪んにー!!≫
ガサガサッと木の葉が生い茂る木の中心に投げ込まれた
いや、腐っても魔女なんですけど
上でフゥ君が爆笑しているのが聞こえた
キッと原因のアンナさんを睨む...が既に窓は閉められていた
(なかなかに、鬼畜だわ)
「い、痛い」
≪ぎゃはははは!魔女が投げられたよ、しかもババアが!≫
「笑ってる暇があるなら早く風でアネッサ姉さまのところに向かってよフゥ君」
八つ当たり気味にフゥ君に凄む
未だヒーヒー言いながらも私を木の葉だらけの枝から優しく救いだし抱き上げてくれた
≪葉っぱが毛に絡まってる≫
いいながら優しく葉っぱを取ってくれた
腹は立つけど、いい子
「じゃ、理由もあるし堂々といきましょう」
≪はいよ≫
――――――今更だけど、そういや私人語操れるんだったじゃん
すっかりあの喧嘩?で忘れてた...陛下のことについてもう少し聞けたじゃーん
そんなことを思いながらフゥ君に抱えられ離塔へと向かった
烏滸がましくも、評価や感想お待ちしております←
アドバイス等御座いましても、仰って下さいね。
なんて調子こきましたごめんなさい
ここまで読んでくださってありがとうございました