崩れる音その1
今気づいたんですけど...私付箋って言ってましたよね。正しくは伏線です。毎回、ふ、で予測変換してたら付箋になってました←
ではどうぞ
レイムことアンナさんに抱きかかえてもらっているので歩く必要のない私は彼女の若草色の揺れる髪を見ながら狙いを定めている
分かるだろうか
分かんないだろうなぁ
猫の本能
揺れるもの、逃げるものを攻撃追跡したくなるということ
暇な私の目の前に現れたアンナさんの揺れる髪
これをさっきから狙っています
一応頑張って手を出さないようにしているんです
だって見てくれは猫だけど中身魔女ですから....断じて猫じゃないですから
アンナさんが歩くたび振動で髪が揺れる
その揺れに私も一々反応する
時折手がにゅっと伸びることがあるけれど我慢我慢
...うおー、うずうずするわ
そんなことを思っていたら、上から刺すような視線
私の不審な行動の意味が分かったのだろう
無言の圧力をかけてくる
怖い、怖いよー
――――――――――
―――――
本能と圧力に耐えること数分
漸くお城に着いたらしい
本来王都ってもっと活気があるはずなのに、すごく静かだった
帝国とは比べ物にならないくらいの差がある
目の前にいる門番も、心なしか表情が乏しい
「そちらの猫は...」
「門番風情が気安くこの猫に触れるな。この猫は殿下がお召しになった猫です、それ以上の詮索は必要ありません」
左に立っていた強面の男がアンナさんに話しかけると、それはもう私が吃驚するほどの台詞がアンナさんの口から飛び出した
強面の男は真っ青になりながら土汚れた地面に頭を付けた
「も、申し訳ございません。出過ぎたことを言いました。どうか、どうかお許しを!!」
右側に立つ門番はそんな彼を見ることなくただ立っている
同僚とか、仲間という間柄なのではないのだろううか?
それにしても....
随分身分差が王宮内でもあるんだね
これは酷い
許しを請う男が痛々しく見えて仕方がない
居た堪れなくなって私はアンナさんを見た
私の視線に気づいたのか、一瞬目を細めた後視線を逸らされた
「それ以上喚けば暇を出しますよ。邪魔です、二度は無いと思いなさい」
暇を出す...つまり首にすると云う事
アンナさんの判断に一筋の涙を流しながら立ち上がり再び左側に立った強面の男
私たちはそれを尻目に中へと入って行った
中に入った瞬間
なんとも言えない、あえて言うなら気持ちの悪い空気が私達を包んだ
なんだ、このドロドロとした空気
忌々しい記憶が私の脳裏を霞めた
「わかるでしょう、この濁り淀んだ空気。私はこの空気は死者の怨念だと思っています。毎日この王宮内で人が死んでいます。どんどん血で...穢れている証拠です」
アンナさんの悲痛な叫びが聞こえた気がした
きっとさっきの門番とのやり取りも演技なのだろう
彼女が、ここで生きていくために身につけた技なんだ
城の中に入り堂々と歩くアンナさん
時折すれ違う侍女や侍従、騎士、文官達はそんなアンナさんの為に道を開けている
これは帝国でもよく見かける光景だ
でも、かれらは一様に怯えているのが分かった
通り過ぎた後、後ろではほっとしたような安堵の表情が見えた
動き始める彼ら
私は今猫だからだろう、彼らの声が鮮明に聞こえてきた
――――昨日、庭師が一人殺されたらしいのよ
――――知っていますそれ。なんでも殿下の愛猫様のことを見てしまったとかで...
――――怖いわっ。
――――しっ!誰に聞かれているかわからないんですよ、生き延びたいなら滅多な事言わないで手を動かしましょう
――――俺、アイツの友人だったんです
――――ああ稽古中殿下の剣の相手をした奴か...不憫だよな、奴は素手で殿下は真剣だろう?騎士と云えど生身と剣じゃ勝ち目ないもんな。死に際まで恐怖を味わったんだろうな
アンナさんの肩に顎を置いて話を聞いていた
なんて、下種なんだろうか
彼らの声は、確かに憤りと恐怖しかなかった
そこに幸せなんて一つもなかった
(よくもまあ、そんだけのことをされて逃げ出さない)
思わず手に力を入れてしまった
猫の姿だと忘れてしまって、私の鋭い爪がアンナさんの胸辺りを刺してしまった
といってもちゃんと服を着ているので肌に傷をつけることは無かった
だけどそんな私の感情を理解しているかのように、アンナさんはそっと私の引っかかった爪を外し前で抱きかかえなおした
目の前が暗くなる
多分、顔がアンナさんの胸元にくっついているせいだろう
「失念していました。今のあなたは人間の何倍もの聴力があるのでしたね....きっと後ろの声が聞こえていたのでしょう。幸い私は人間ですので聞こえませんが、申し訳ありません。嫌なことを耳にしたことでしょう」
そう言って私を優しく撫でる
嗚呼、この人はわかっているんだ
自分の国がどこまで落ちているか
どの程度まで崩れているか
「早く...終わらせたいものですね」
アンナさんの叫び
私は答える様に小さく鳴いた
蘇る記憶
この場所は、あの時と似すぎていて気分が悪い
早く、早く終わらせよう
――――――――
―――
何も見えないまま抱きかかえられているとアンナさんが止まった
なんだろう、そう思って顔を上げる
(っ...!?)
上質な絨毯の上を歩いていたことから多分重要な場所へ来たのだろう
でも、今はそれどころではない
そんな上質な絨毯に立ってこちらを見てるものが居た
(まるで気配がなかった)
目の前には、一匹の猫がいた
音もなく静かにこちらを見ている猫
私の体が小刻みに揺れている
アンナさんの震えが私にも伝わってくるのだ
恐ろしいだろう
確かに普通の人間ならば、恐ろしい
無に近い存在を目の前にして動揺しないのはいないはず
少なからず私も驚いている
でも...
私はいまだ動かない彼女の、その揺れる手に爪を立てた
私の鋭利な爪は彼女の白い肌に赤い色を加えた
「いっ」
小さく反応したアンナさん
申し訳ないと思いつつ、でも私はアンナさんに視線を向けた
正気に戻ったのか、アンナさんは私をしっかりと抱き目の前にいる猫に腰を折った
「ご機嫌麗しゅうノーア様。不躾に御尊顔を拝謁し申し訳ございません。罰は後程お受けいたしましょう、今は急いでいる身、どうかご容赦を...」
そう言えば目の前の猫は私達を通り過ぎていった
あの猫は、ノーアというのか
そして多分あの猫がフィアナの仮の姿だろう
第二殿下の元婚約者
ジル殿下がその剣で斬った大罪人
「...助かりました」
アンナさんの声が若干震えていた
やはり、あのノーアという猫は異質だ
「この場所を通ることが無かったので、気を緩めていました。貴女が居なければ多分私もあの猫の呪いを受けていたでしょう...干渉という呪いを」
≪にー≫
干渉...か
ああやって他人に干渉するのか
多分、あれは魔女である私には効かないな
「流石は、分血といったところでしょうか。早いところ私の自室へ行きましょう...この場にとどまるのはあまりよくないでしょうから」
≪なぁう≫
この時、私は見落としていた
重要なことに触れているのに、気が付かなかった
もし気づいていれば早々に事態は収束に向かっていたのかも...しれない
今月中に4章終わらせたいなぁ。
じれじれ過ぎる、話が進まない....
前半に比べてミアンの性格が冷たくなっていく、まあこれについてはタグにもある通り冷徹ってことで(言い訳)
そろそろこの流れに飽きてきている読者様方も多いかと思います(私も若干飽きてきました進展なさ過ぎて)だから次の章辺りから頑張りますよー多分!
とりあえず早く終われ北の国編!!←
ここまで読んでくださってありがとうございました