嘘と真
真と誠どちらにしようか迷った末の真です。
どうぞ...
くしゃりと苦しそうに笑うレイムさんは落ち着いたのか私の前の椅子に座った
静かな時間が流れる
はて、とそこで考えた
(なんてシュールな...)
猫と人間しかいない空間
猫の目の前には綺麗で中性的な容姿をした人が項垂れている
我ながらこの空気、恐ろしいわ
「なあ、魔女というのはどんなものだ?」
レイムさんは顔を上げず静かに私に問う
その問いはあまりに純粋だった
「どう、とは?」
「今では希少な魔女の血をその身に宿している、恐ろしくは無いか己が」
そうか...
この人は、自分の力を恐れているのか
レイムさんの問いは私に向けているにもかかわらず何故か自分に対しても疑問を抱いているような内容だった
「誇りに、思っていますよ」
私の答えにレイムさんは顔を上げた
その表情は、先程とは打って変わって憤怒を露にしている
「それは己の力を驕った物の言う台詞だ!貴女は馬鹿ではない、本当は怖いのだろう!?」
私は不思議だった
何故そんなにも自身に恐怖を抱くのかを
それは、レイムさんのその問いは、まるで...
「レイムさんは、怖いのですか己が」
まるで怖いと言ってほしいというふうに聞こえて仕方がないの。
私に怖いと言って、そう思っているのが自分だけではないと確認したいとしか聞こえないわ
「俺が、怖いだと?」
「そう...恐ろしいですか?自分の力が。怖いですか、そんな力を手にしている己が」
自分の能力を過信しないことは、いいことだと思う
だけどがちがちに固めてしまったら伸びる能力も伸びなくなってしまう
――――自分の限界を、自分で決めつけてはいけないよ
ふと、そんな声が聞こえた気がした
そうだ...あれは誰が言ったんだっけか
暫くして、レイムさんが私を睨み殺さんばかりの目つきでこちらを見てきた
わあ、綺麗な人が怒ると怖い
場に合わない私の考え
伊達に300年生きてないわよ
そんな睨んだって、経験豊富な私には痛くもない
「貴女に何が分かるというんだ」
何もわかるわけがない
会って数分の他人の考えることなんて分かるわけがない
むしろ知ったところで私に得になることなんて何一つないでしょ
そんな相手の悩みを聞いたところで時間の無駄
「わかって欲しいのですか?まるでそう言っている様にしか聞こえません。さっきもそう、怖いと恐ろしいんだと言って欲しいとしか聞こえませんでした。貴女は私というこの世界では異端とも取れる存在に必死になって理解してほしいと乞うている小さな存在にしか思えません」
次の瞬間
レイムさんが立ち上がり私を掴もうとした
それをしなやかに受け流し近場にあった高い場所へ飛び移る
今が猫の姿でよかった
人間のように大きな姿だったらこんなに俊敏に動けない
高いところに飛び移ったことによって私はレイムさんを見下す形となった
私を見つめていたレイムさんの表情が、一連の動作のおかげで冷静さを取り戻したらしく元の冷ややかなものに戻っていた
「もう一度だけ、聞かせて欲しい。貴女はその魔女の血を身に流し己が恐ろしいとは思わないか」
「いいえ―――誇りに思います」
そう言えば、レイムさんは落胆し私に背を向け隣の部屋へ行った
先程とは違ってがたがたという音がしていることからきっとレイムさんも準備を始めたのだろう
高い場所から飛び降り地面に足を付ける
―――誇りに思う
それは確かに嘘だった
一度として誇りに思ったことなんてない
むしろこの血を何度恨んだことか
私が本来の力を取り戻したとき、この世界はある程度思い通りに動かせる
正直なところ
私は他のどの魔女より異能の力を宿していると思っている
時の魔女
すなわち万物の時を支配する
それは、死した者さえ時を戻しなかったことにすることも...可能ということ
流石に世界の時間を戻すことは出来ない
規模が大きすぎる。一人二人といった少人数であれば時を戻すことなど造作もない
だけど、世界となれば別
世界の時間を戻すにはその世界に住むあらゆる生物物質をも戻さなければならない
戻す前に魔力が尽きてしまう
いくら創造主とはいえ、理を犯すことは出来ないようになっている
死者を生き返らせることは、理に反するか
きっと反しているわ。だから生き返ったとしても何らかのハンデを背負うことになる
更にいうなら死者を蘇らせると言っても死んだ者が生き返りたいと思ったまま死なない限り....つまり未練がこの世にとどまっていない限り生き返らせることは出来ない
幸せな最期を迎えた人間をこちらがかってに起こすことはあまりに惨い仕打ち
私達の存在は、あくまでこの世界に居る住民の為にある
彼らを助けるために人より多く魔力があり、長い命がある
彼らを護るために自然は私達に無償の愛を向けてくれる
そのことを4人の魔女は誇りに思っていただろう
私を除いては...
スッと目を細めてレイムさんが入って行った扉を見つめる
私は彼女の疑問を否定しない
まあ、驕っていることについては否定するけれど。
だって4人の魔女は全てを理解したうえで誇りに思っているのだから...
そりゃたかが数十年生きた人間にしてみれば馬鹿な考えかもしれない
でも、相手は魔女
私より200も300も年上の彼女達が誇りを語るのよ
なにも可笑しくなんかない
ただ...私はそうは思えない
それは若さゆえか、過去の産物のおかげかはわからないけれど
そこまで考えてガチャリと扉を開く音が聞こえた
慌ててその扉から視線を逸らせる
「待たせた。行くぞ」
そう言ってレイムさんは私を優しく抱き上げた
いくら男装をしていようとも、私を抱き上げる手はロードさんとはまるで違う
女性特有の柔らかい手だった
(よくばれなかったわよね、周りの人たち...に?)
見上げてみればあら吃驚
「なんだ、じろじろ見るな」
見上げたすぐそばには、絶世の美女がおりました
若草色の髪を左で纏め薄ら化粧を施した顔は、韓紅色の瞳を際立たせていた
え、なんでこの人ロードさんの前で男装なんてしてるわけ
いや男装でも美しかったけど、別にこんだけ美女なら隠す必要なくないか
つまりあれか
ロードさんにのみ隠しているのか
「その姿で大丈夫なんですか?ランウェイ様にばれません?」
「ああ、それなら問題ない。ロードには女装していると伝えているからな」
(徹底しているな)
「周囲の人は?」
「俺が普段男装しているとは誰一人として知らない。」
つまり根本的な部分で騙されているのはロードさんただ一人ということですね。哀れなり、信頼されている人間が実は一番信頼されていないんじゃないのこれ
「そうですか」
「では、暫くの間ですが互いの利益の為ことを円滑に運べるよう頑張りましょう。」
いっ!?貴女誰ですか
急に流暢な敬語を使い始めたレイムさん
≪にっ、にゃー≫
どもる私にお構いなしにレイムさんは続ける
それはもう、ロードさんと同じような嫌な微笑を浮かべながら
「そうでした。今後私は王宮内でレイムとは呼ばれません。私の名前は―――アンナ、となっていますので忘れないでくださいね」
≪にゃあ≫
男装した荒っぽい口調のレイムさんはなんともなかったけど...女性になったアンナさんは、隙が無くて怖いわ
アンナさん、ちょー綺麗です
付箋貼り過ぎました。ほとんど説明文じゃん。でも、必ず回収しますから←
魔女達の年齢ですが...
現時点でミアンは317歳ですので、300年前は17歳でした。他の魔女はその時点で300をゆうに超えていたので現時点では600~700歳だと思ってください。
オルダンテ視点の時系列は、ロードたちが来る朝の前々日だと思ってください。
ここまで読んでくださってありがとうございました