潜入開始
はい、ということでミアンが漸く侵入する手筈を整えたようです
それにしても恋愛が...陛下との絡みが遠いっ
それでは
どうぞ
「そういえば気になることがひとつあるんですが」
話もまとまったようなので私の意見も出す
二人の視線が私に向く
「なんです?」
「この場合、潜入するのは私ですよね。その間ランウェイ様やレイム様は何をするおつもりで?」
この人に敬称を付けることは癪だが
ロードさんの知り合い、しかも並みならぬ付き合いがあるように見える以上一端の護衛騎士は首を垂れるのが礼儀というものでしょう?
なんて、騎士道まっしぐらなことを考えてるなんて
魔女としてどうなのかと、そう思って暫し悲しくなった
「ああ、心配しないでください。流石に貴女を一人潜入させるわけではありません。私も、無論レイムも一緒に王宮に入りますよ」
「ちょ...ロード。いつどの瞬間に俺がソレを承諾した!?そもそも俺はそんな話を一切聞いてないが!」
「私の頼みを断ることはしないのでしょう?それに今話したので聞いてないはもう通用しません」
さらりと言ってのけるロードさん
この男、きっちり言質を取ったっ
間を入れず捲し立てるように抗議するレイムさんの話を適当にあしらい優雅に茶を飲む姿にとある懐かしい面影を映したのは気のせいだと思いたい
「....そ、そうだとも?お前の頼みは快く引き受ける。だが!俺にも心の準備というものがあるんだ、もう少しソフトに扱ってくれないのか!?」
ソフトってなんだソフトって
散々私をハードに扱ってくれたレイムさんが言う台詞か!?
ならば私だって言いたい
女性としての価値を、尊厳を、むしろ人権を切に訴えたいね!
「私達の潜入方法ですが」
「あ、スルーですか。流すんだな俺の意見を!」
だんだんレイムさんが可哀想に見えてきたのは間違いではない
項垂れるレイムさんをほっとけ、とでも言うような目で見て話を始める
「私は第二皇太子殿下の臣下に変装します。既に変装対象は葬り去りましたし、容姿も性格も完璧にコピーしていますからこちらの点についてはご心配なく。レイムはいつも通りに過ごしていただきます」
(腐っても宰相、対象を眠らせるではなく葬り去るだなんて。鉢合わせや予想外の事故をも決して入るすきを与えない、更にはこの短時間でその対象をコピーするのも凄いわ。抜かりない)
ロードさんの隙のない計画にただただ驚く私
薄笑いするロードさんに、少し気味悪さを覚えた
それにしても....レイムさんはいつも通りって
「レイム様は何を?」
未だに背を丸くしているレイムさんに貴方は何ものですかなんて聞いても意味はないだろうから、正面に座るロードさんに疑問を投げかけた
「彼は―――――」
そこで区切って笑う
焦らされているとわかって次の答えを目で急かす
ちらりとロードさんがレイムさんを見て
衝撃的な言葉を零す
「彼は、次期国王となるジル殿下の側近で次期宰相となる者です」
――――運命は既に決まっていたということ
いつの間にか回復したのか、レイムさんはこちらをただ見つめていた
その表情に先程までの子供の様な悔しさの色は無い
次期国王
つまりはジル殿下の側近ということ
既にジル殿下とは話しているからわかる
レイムさんもきっと、有能なのだろうと
素晴らしい見解をしてくれたジル殿下
アネッサ姉さまもそんな聡明なジル殿下を気に入っている様子だったし
そんなジル殿下が選んだ人材ならば、きっと役にたつ
しかもロードさんのお墨付きだ
「一応、そんなポストにはいる。といっても、現在は第二殿下の臣下だが」
「....なぜ?」
しれっと言うレイムさん
いやいや、あなたジル殿下裏切ってませんか?
「こちらも下手に動けない状況なんだ。ジル様が離塔にいる以上俺もあの何考えているかわからない第二殿下の云う事を聞いておかないとジル殿下の身に危害を加えられるかもしれないんだ。裏切りなどという行為ではないことを先に言って置くぞ」
私の心の声が届いたのかしら
睨むように見られては、そう思わざるを得ないでしょ
「そんなこと、思ってもいないですよ」
ふふっと笑って少し冷めたお茶を飲む
「とりあえず我々はどうにかなりますが貴女の場合は人外の為かなり特殊です。潜入の手筈を説明する前に先に猫になっていただきましょうかね」
カップを置いて立ち上がるロードさん
私も立ち上がった
テーブルを囲むように私とロードさんとレイムさんが立つ
先程までの空気が一気に緊迫した空気へと変わる
それもそうだ
人外に変装する、変装する対象はこれまた貴重な時の魔女の分血ときた
(ま、彼らは壮大な勘違いをしているけどいい勘違いだから放置ね)
間違いは許されない
「では、始めますよ」
ロードさんの一言で
レイムさんが私に向かってその手を翳してきた
「メレーニャ・バルデェス」
「インフォート・ウィル・デ・マレイア」
二つの声が重なるのが分かった
眩い光に目が眩むなか、どこからかピチャンと雫が滴るような音がした
高度な色彩の魔法と
中級ではあるが持続性が困難な魔法が私に掛けられた
≪――――――んにゃ≫
無事、猫になれたようです
漸く、猫になりました
補足ですが、ジル視点で書いた彼が心配している臣下とはレイムさんのことでした
ここまで読んでくださっていありがとうございました