迷宮の渦‐SIDEロード‐
ここでロードさん視点挟みまぁす←
内容は前回のロードさんの回想を含みつつ、入国その1~世界の均衡までの17話分です。
間々にはジル殿下視点や、第三者視点(?)や、陛下視点がありますがそれは省いてあります
時系列はミアンと同じです
では、どうぞ
この娘は、面白い
そう思ったのは随分前からだったのかもしれない
やはり俺の眼は正しかったのだ
あの時、偶然とはいえ"銀"を見た
決して裕福とはいえないだろう姿をした少女
下町にはよく馴染んでいた
ただし、少女の持つカバンから明らかに質の異なる魔力を感じ取ったのだ
あの驚きは忘れまい
最初は魔女ではないと否定し、後に己が魔女だと言い張った
心境の変化はなんだったのだろう
それは多分、陛下にしかわからないだろうが....
この国の人間は誰もが魔女を崇拝する
無論俺もその一人
だから、最初は己の眼を本気で疑った
魔女は高貴な存在だ
それは血を分けた混血である者も同じだと思っていた
おそらく、ミアという少女は混血だろう
一瞬ではあったが他には見ない銀をその瞳に覗かせたのだ
時の魔女の混血か...
やはり生きていたんだ
期待に胸が膨らんだ
最初は丁寧に丁重に扱うつもりだった
もしかしたら純潔の魔女を知っているかもしれないと思ったからだ
しかしどうだ
俺を目の前に少女は礼儀というものを知らなんだ
あまつさえ、俺の放った昏睡魔法にいとも簡単にかかる
陛下が仰るんだ
それに従うしかなかったが、内心納得はしなかった
だから何度も何度も大人げないとわかりつつ、少女に対して軽蔑的な眼差しを送ったのだ
なのに少女はさして気にする様子もなく逆に突っかかってさえきた
その姿に、いつかの精霊を見た
正直、宰相という己の地位が対人関係を悪くさせていたのは分かっていたが心のどこかで在り来たりな優しさが欲しかったのかもしれない
陛下の宰相となるべく、日々箱の中で活字と睨み合っていた幼少期
遊びたいなど我儘は言えなかった
それが当たり前だった
朝、昼、夕と食事をするのが当たり前
感覚的には同じだった
だからそんな時起こった偶然を俺は今でも鮮明に覚えている
毎日が同じことの繰り返しであった幼少期
その日も部屋で専属の教師と広い一室でただひたすらに知識を詰め込んでいた
静かな一室
聞こえるのは息遣いと筆を走らせる音
ふと、気配を感じ何気なしに窓の外を見た
本来ならば広々とした庭が見えるはずだった
「――――!?」
思わず持っていた筆を落とす
目線は窓の外
不審に思った教師が何の感情もない目で俺を見ていたことに気が付きはしたが、正直それどころではなかった
(あれは....精霊?)
今思えば、あの精霊は精霊ではなかったのかもしれない
だって俺が見たのだから
精霊は15を迎えて初めて見えるようになるのだという
下手に契約をしないためだ
知識が無いまま契約を交わし使役することを禁じたのは300年前、魔女が眠りについたあの時精霊王が人間にかけた呪いだという
だから人間には15になるまで精霊が見えない
その当時俺はまだ12
世間一般からみれば餓鬼同然だ
そしてこの精霊と出会うことによって俺の運命が全く違うものとなる
その後の己の運命に何度も嘆いた
どうして俺なのだと
自分の立場を忘れ周囲に当たり散らしたこともあった
俺の変化に最初は誰もが心配してくれた
しかし、収まらない変化に周囲はどんどん恐怖の眼差しを俺に向ける
(やめろ、そんな目で俺を見るな!)
悪循環
負が負を呼ぶ負の連鎖
遂に両親からも畏怖の念を向けられ
北国を自らの足で出た
その時、俺の旅に付き合ったのが皮肉にも俺の運命を変えた精霊らしき者だった
最初は会話なんてなかった
口を開けばきっと隣にいる精霊を罵声しただろうから
しかし精霊は最後まで変な奴だった
俺を馬鹿にし、時に叱り、時に優しかった
外の世界を十二分に教えてくれた精霊
今では感謝すべきか...
彼の御蔭で俺は帝国で宰相の地位を得ているのだから
そんな彼とミアという少女が少し重なって見えた
偶然だろう、けれども心がほんの微か言葉に言い表せないものが広がった
陛下に命ぜられ北国に行くと言ったとき
正直少女を連れては行きたくなかった
治安が良くない今、自分がこの少女を守れるのか不安だったからだ
憎まれ口を叩こうとまだ若い
突き放すのも一種の優しさだと思っていた
だが陛下は必ず連れて行けと仰った
その意味がわからなかった
森で精霊に襲われそうになったとき
反撃をしなかった俺を心配するでもなく、彼女はただ目の前に広がる映像を見ているかのように客観的だったのを覚えている
眼を覚まし、竜の背にいたとき
その時もどこか他人事のような口調だった
だからだろうか
時折見せる少女とは思えぬ顔つきにどこか恐怖を覚えたのだ
不安...なのかもしれない
自分が見つけてきたのだ
最後まで面倒を見るつもりではいた
幼いままの馬鹿な少女ならよかったのだ
聡明な表情に、放っては置けない何かを感じた
北国に着いたとき
我ながら馬鹿な物言いをしたものだと自嘲した
まさか"夫婦"などと口にするとは俺自身驚きだ
放心状態の彼女の手を勢いよく引き己の胸元に抱く
その羽の様な軽さと細さに
思わず驚いたのは言うまでもない
不満そうな彼女を見て
昔娯楽で飼っていた猫を思い出した
段々面白くなりダーリンなどと言う
勿論彼女をからかうためだ
案の定抵抗された
分かってはいたが...
彼女も俺が冗談半分面白半分で行っていると気づいたのだろう
最初は嫌々ながらも最終的に大人しくなった
彼女は気づいただろうか
俺が、迷うことなく歩み続けていることを
俺が北国の人間だったことは、陛下を含め古くからいる臣下のみ
それにしても....時折辺りを見渡すかのような仕草をするこの少女
街が気になるかと思えばそうではないらしい
(感がいいな....いつから気づいていた?)
俺よりずっと下に頭がある小さい彼女を睨むように見つめる
それもそのはず
さっきから誰かにつけられている
多分、この少女の辺りを見渡す仕草は俺達をつけている誰かを警戒していたからに違いない
しょうがない
そう思いながら少々予定を変更し、見渡りの良い草地へ足を運ぶ
周囲に人はいない
一度彼女をはなし、恥ずかしい言葉を発しながら手を伸ばす
「おいで、ハニー」
我ながら傑作だ
さて、彼女はどいういった反応を見せるのか
それは俺の予想通りだった
(全く、いい思考能力をもつ人間だよ)
俺の手を取り
抵抗をみせず、従順に寄り添ってきた
やはりつけられていたことに気付いたんだな
数分そうしていれば
いつの間にか気配が消えた
漸く立ち去ったのだろう
何の目的かは知らないが警戒は怠らない方がいいな
宿につき
余計な言葉を2、3かけられ部屋へと向かう
彼女の部屋の前
あまりの淑女っぷりに思わずまた憎まれ口を叩いてしまった
まあ、元通りだったが...
あんなに従順ならば可愛らしいと思っていたが、こういった反抗的で猫のような彼女も面白いと思ったのは扉を強く閉められたとき
(苛立ちもあるがな!)
思わず近くにあった木箱を蹴ってしまった
すると下から"あららーお盛んね"なんて言われてしまった、なんて迷惑な思考なんだ
部屋へ入り
数歩歩き立ち止まる
「さて....次の仕事ですね」
隣の部屋にいる彼女に気が付かれない様一度転移魔法で外に出る
室内でしてしまうと少し大きな音を立ててしまう
俺なりの配慮だ
疲れているだろう彼女の耳に、騒音を出したくはなかった
彼女に対する心境の変化に内心驚く
ふと、彼女のいる部屋を見上げた
一瞬魔力を感じた気がしたが....気のせいだったのかもしれない
彼女が傍にいて変に気を張り詰めていたからだろう
意識を集中させ
目的地へと移動する
――――そういや、さっきまで風なんて吹いていなかったのに....
そんなことを思いつつ
俺はまだ知る由もなかった
朝一番で彼女にあんなことを言われるなんて...
この時(幼少期)の陛下とは、現在のアレン陛下ではなく北国の次期国王の宰相という意味です。つまりはジル殿下の宰相になる予定だったということですね←
長くなりました
いままでのロードさんの心境と少しのおい立ちです
ここまで読んでくださってありがとうございました