真実の眼
眼は(め)ではなく(まなこ)と読みます
それではどうぞ
「そう、ジル殿下の判断は正しいわ。弟君の感情を除けば...ね」
前国王であるヴィンセント王も賢明な判断
長年培ってきた精神と、環境が前国王を聡明な王にしたのだ
これは評価すべき対象
また、ジル殿下も己の立ち位置をよく理解している
(ただし――――疑問が残る)
思ったのは私だけではなかった
フゥ君もアネッサ姉さまも何か考える素振りをしている
ジル殿下でさえ、同じようだった
何故彼女は婚約というものを捨ててまで精霊王を呼ぼうとしたのか
何故口を割らなかったのか
―――――一番の疑問は
「何故、精霊王は己を呼ぼうとした人間に自ら罰を与えなかったのか」
私の一言に3人が振り向く
引っかかっていたのはこれだ
精霊王を呼び出せるだけの魔力があったことも要点に加えなければいけないけれど、それよりもいくら未遂とはいえ呼ばれそうになったのだ
死よりも恐ろしい恐怖を与えるのならまだしも、何もせず動かなかった精霊王の考えが読めない
≪理解に苦しむ展開になってきたな....死んだはずの人間を生き返らせることも実に奇妙≫
段々空が色づき始めてきている
もうそろそろ帰らなければいけない
「―――――貴女方を愚弄するつもりは毛頭御座いませんが、私の見解を聞いては頂けないでしょうか」
ジル殿下がなにか核心に近いことを考えている
私達の視点では見えない何かを彼は見ている....
「お聞かせください」
フゥ君が自ら声を上げた
基本的に本能で生きる彼ら精霊にとって魔女や精霊王は等しく尊い
自然と先程のように傅いたりもする
だから普段は許可なく自分から声を出すことは無い
私といるときは例外だけれど
それはあくまで冗談を言っているときだけ
真剣な場面で簡単に口は開かない
私が許可するか、それ相応の場面でない限り
しかし、今回の件
フゥ君本人も無意識に気になっているということだ
自分達の王について何か思い当たる節があるのかもしれない
「失礼ながら...精霊王様が、関与している可能性があると私は考えました」
「――――へぇ」
月明かりに照らされて赤褐色の髪が燃える様に映える
表情も、王さながら
(陛下を前にしているみたいだわ)
緊張感が伝わってくる
ビリビリとした痛い空気
立ち上がろうとしたフゥ君の腕を掴む
絶対にやらかすと想像できたからだ
掴まれた腕をフゥ君はそれまで見たことのない暗い冷えた目で見つめている
これが本能
無意識に王を愚弄されたと思い体が条件反射のように動く
しかし、ジル殿下の考えも一理ある
決して的外れな見解ではない
だからアネッサ姉さまは動かなかった
「大人しくしていられないのであれば立ち去れフレイン」
フゥ君のその腕を強い力で握る
ジル殿下の言動ひとつで暴れそうになる馬鹿の手綱を握ったまま話を聞くほど私だって器用じゃない
フゥ君を真名で縛るかのように言葉の圧力をかける
世間一般で言う"言霊"の類だ
しかしフゥ君は顔を顰めたままで立ち上がったまま
その様子に最後の喝を入れる
「不満か?我にそのような態度――――――――――消すぞ」
静かに手を離し睨みつける
これは脅しだが警告だ
いくらフゥ君を甘やかしていようと立場は違う
対等などと、決して思わせてはいけない
親密な関係であろうとも
創造主の地位と力は絶対だから
「あ、あの」
そこでまさかのジル殿下が口を挟んできた
この空気をものともせず挟むことに褒め称えてあげたいけれど....
「今、この状況で発言を許した覚えはないエンブレスの次期王。聡明な判断だとは思えんな」
突き放すように静かに彼に告げた
途端に青ざめるジル殿下
堅苦しいのは嫌いだと言った
対等に話し合おうとも言った
が、それはその空気でも良いからであって
この咋に変わった態度をみて瞬時に判断し行動しなければいけない空気だ
「立場を弁えぬ軽率な行動でした、貴女様の御言葉を頂戴した事誠にお詫び申し上げる次第に御座います」
フゥ君が深く頭を下げた
彼の様な強い精霊は傅くのは最初だけであとは大抵この最敬礼だ
「お前も――――許される範囲を覚えろ、次期王」
私の言葉に青ざめ深く頭を下げた
言葉も出ない、そんなところだ
≪....で、精霊王が関与とは。なぜそうなった?≫
唯一何もないアネッサ姉さまが口を開く
しかし見解を述べたジル殿下は私の気で口を開くことはおろか顔を上げることも儘ならない様子
(やり過ぎたか?)
なんて今更だ
現に原因となったフゥ君は平然と私の隣にまた腰を落ち着かせた
しょうがない
私の責任でもあるわけだから、説明するか
「その女性が自分の考えだけで召喚したとは思えにくい。そして今回の件に精霊王が一番怒る筈だけど...何もなかった。それはつまり精霊王も何かしらの考えがあっての行動だとジル殿下は読んだ。正しい判断とはいえ真相も知らぬまま自分も微笑ましく思っていた弟の婚約者を殺したとあれば罪と疑問がせめぎ合う。真実を知るためにもジル殿下は甘んじてこの塔に抵抗なく幽閉されたのよ」
表向きの理由は国の為だのなんだの偽善だけれど
深層心理ではきちんと謎を解くべく彼なりに動いていたということ
(これはこれは、素晴らしい)
私の説明に二人が驚く
特にアネッサ姉さまはキラキラと輝いていた
自分の国にまだしっかりと芯のある人間が居たことを素直に嬉しいと感じているからだろう
「そんな感じよね?ジル殿下」
パッと振り向きジル殿下を見る
視界が交差し驚くジル殿下
「違かったかしら」
「い、いえ。全くもってその通りです」
震えるような彼を見て
やっぱり少しやり過ぎたかと、後悔に気付いた時にはもう遅かったようだ
(あらら、さっきまでの眼光は何処へ...)
次回あたりでジル君の視点を挟み
流れを変えていこうと思います
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ここまで読んでくださってありがとうございました
11月21日より更新を停止致します
突然のご報告、読者様方に多大なご迷惑誠に申し訳ございません
詳しくは活動報告にて記してあります
今後も陛下の専属様並びに月詠共々よろしくお願いたします