孤独の塔
とりあえず名前は伏せますが
お察しのいい読者の皆様ならだれ視点かきっとおわかりでしょうか...(苦笑)
それでは、どうぞ
「貴方を保護せよと、オルダンテ殿下からの勅命を受け失礼ながら貴方の御前に参じました」
どれだけ言葉を美しく飾ろうが内容は変わらないだろ
遠まわしに言ってくれたものだ
(要するに、お前を拘束するということだろう?)
目の前にいるあいつの臣下
その恭しい態度に思わず笑ってしまう
「随分と...賭けに出たんだな」
「抵抗は...なされない方がよろしいかと」
優しい臣下だな
わざわざ心配までしてくれるか
いや、最もこの場合
面倒事を起こさないでほしい、抵抗すら許されない状況である
お前の仲間などもうここにはいないのだから誰も助けてくれない....と言いたいのだろう
皮肉なものだ
前王が息災だったころはこの国もある一定の水準は保っていたし活気あふれていた
前王が崩御しても最初はまだ大丈夫だった
次期王は既に前王が指名し、即位間近だったのだから
次の王が新たな国を支えるのだと...それは、あいつだってわかっていたことなのに
「ここから先は、貴方様御一人でお進みください。心配は御座いません、我らが一日を通して貴方様をお守り致します故」
昔の、まだ幸せだったころを思い出し悲壮感に浸っていたら着いた様だ
目の前に聳え立つ
一見洞窟のような塔
(お守り、か。私を侮辱するとは―――監視の間違いだろうに)
背を押され無言でそのまま進む
抵抗はしない
する必要がない
どこまでも続く道
暗く、とても深い
外の光が差し込まなくなったと思うと急に灯がともった
素晴らしい技術だ、とこんな状況で感心してしまう
人の気脈でも感じ取って炎の精霊が火をともすのだろうか...
「階段だ」
普段は決して入ることのないこの塔
ここまで奥深くに入ったのは初めてだ
いつもならあの入口で弾かれる
それがどういうわけか今はすんなり入ることができた
(あいつはなにをしたんだか)
見えないことをいいことに苦笑
一段一段確かめるようにその階段を上っていく
と、突如もの凄い魔力の波動を感じ取った
思わず2歩下がる
「なんなんだ」
不気味だ
これほどの魔力、あまりに危険だと本能が察知した
≪ほう...本能が身の危険を察知したか。なかなか良い魔力を秘めている≫
(今度はなんだ)
どこからともなく声が聞こえてきた
言いようのない恐怖が全身を巡る
しかし、今まで鍛え上げられてきた精神力だって伊達じゃない
内心動揺するも決して悟られないよう平然を保った
だがそんな俺の心情を分かっているかのようにその声は嘲笑うような声を響かせた
≪そう怯えんでもよい。ほれ、ここまで上がってくるがよい。若造の悩みを我が聞いてやろう≫
「おい!」
咄嗟に叫ぶ
しかし、その声は言いたいことだけを言って返事を返してはくれなかった
上ってこいって、つまりは進めってことだろ?
遣り切れない思いと不安、緊張、少しの好奇心...そして後には引けないという思いから俺の足はその階段をまた上りはじめた
―――――――――――
―――――
「これ....は」
炎の精霊が灯してくれたおかげで踏み外すことなく最上階までたどり着くことができた
目の前には大きな扉がある
この扉の奥から並みならぬ魔力の気配を感じ取った
この奥に何かあるのは間違いない
一つ深呼吸して、その重そうな扉を押した
(見た目より全然重くはなかったな――――――!?)
その光景に目を疑った
開いた口が塞がらぬとはこの事を指すのだろう
25年生きてきてここまで驚いたのは初めてだ
≪よう来た、若造≫
目の前には前王、父上が職務をなされていた執務室にある肖像画と同じ
――――――純血の魔女、バルブレロ・アネッサが居た
何故、と問うことは間違っている
神に最も近い存在に審議を問うことは許されない
不躾にも、あまりの驚きに数秒状況を把握できず放心状態のままだった
≪おい、大丈夫か≫
その魔女の言葉に慌てて傅く
なんてことだ、純血の魔女のお顔をこの目で拝見してしまった
「あ――――っ」
情けない話だ
だが、事実....驚異的な存在を前に声すら発することができない
≪顔を上げよ。我は既に眠りについた身、そのように敬うべき存在ではない≫
むしろ...とそのまま続けて魔女は言う
≪300年経った今でもそのように傅くことができるお前を我は褒めようぞ≫
そういって豪快に笑った
顔を上げよ、ともう一度言われたのでゆっくりと頭を上げる
見間違いではなく、やはり300年前に眠りについた大地の魔女が居た
≪不思議だろう?我は意志、最後の魔法によって意志のみをどうにかこの現世に残すことができた、言わば残像だ≫
そう言われてみれば確かに魔女は透けていた
肉体がない、と言われれば納得できた
質問したい
しかし、伝説と言われ存在すらも見えぬまま眠りについた絶対的存在にそのようなことは許されない
(駄目だ、あまりにも急な展開に汗が)
いつの間にか握りしめていた掌には汗を掻いていた
≪我は純血の魔女などという存在ではない。気軽に話してみよ≫
魔女は万物の母というのは本当のようだ
慈愛に満ちた瞳で見られると、どこか心が穏やかになる
「....なぜ、意志がこの場に?」
なんとなくわかっていた
この魔女は俺を待っていたわけではない、と
ならば何を待っていたのか
そして俺に何をさせたいのか
≪察しのいい人間は嫌いではない≫
ニヒルに笑う口元に、ゾッとする
さっきと同じ言いようのない恐怖が全身を巡った
そこでわかる
(これが...絶対不可侵の圧力、威厳と厳格と富を兼ね備えた王たる資格のある者がもつ―――覇気)
俺たち人間が到底かなう相手ではない
この国を本質的な意味で支え、創造する力を持つ魔女
≪お前、この国の王族だろう。血筋が示している≫
「仰る通りに御座います」
そうだ
こんな扱いをされているが俺も王族
更に言うなら...
≪しかも次期国王の座を既に得ておる...か≫
エンブレス・アロッソ国
第一皇太子、ジル・ヴィゾーネ・エンブレス
前王である父上から王位継承権の元、正式に次期国王となった
思わず嫌なことを思い出し顔を歪ませる
そんな俺を察してか、魔女は言った
≪知っておる。お前が本来なら国をどうにかしたいということも、それを阻む者によって今お前がここにいることも....全て知っておる。だからこそお前をどうにかしてここに導きたかったのだ≫
長くなるから座れ、と室内にあった長椅子に座らせられた
自分は意志だから座る必要が無いと浮いていたが...
静かに座り、思いつめた魔女の話を受ける
――――魔女は一人気がかりな人物がいる、そしてそれを呼び寄せたいが意志だからここから動けることもなく声を届けるすべもない。そんな時、俺という存在を知った。弟と魔女と名乗るものが手を組んで俺を王座から引きずりおろそうとしていること、派閥ができて今にも紛争が起こると危惧した俺が甘んじてこの塔に大人しく身を投じた皇太子が居ることを....
だから残りほんのわずかな魔力を使い果たし、弟の臣下に暗示をかけさせここに連れ込むように進言させたと言う
(そこまでして魔女が気に掛ける存在。時空的に見て精霊の類だろうが...)
目の前にいる魔女は、以前大地を割り眠りについたとは思えないほど優しく憂を帯びた表情をしていた
≪お前の声は特殊だ、その声に我は掛けた。その者がこの場に現れた場合、この国の一抹の不安を拭い去ってやることを約束しよう≫
一抹の不安
それは、残してきた俺の幼少期からの臣下....そして仲間である精霊の存在だ
「何をすればよろしいのでしょうか」
その約束を俺は飲もう
既に、非現実的な存在と対等しているのだ
今更不安をどうやって拭い去ってくれるのかとかどうでもいい
≪その約束、違えるでないぞ≫
魔女の声は不思議とよく響いた
是、と頷く
魔女は笑って姿を消した
≪ただ願い続けろ。いつかそいつがきっとやってくる。しかし、その念が弱ければだめだ。強い念を抱け...そして願い続けろ≫
そう、一言残し....
その言葉を信じ、俺は毎日ただひたすら
≪お願いだ≫と言い続ける
不振に思われるといけないので、朝から夕方までは下で何をするわけでもなく無造作に置いてある書籍を手に取り、夜になってから上へと行き願い続けた
(これで何日目だ)
自分の見た夢というものによって現実と虚像の世界を見誤ったかとさえ思い始めたその日の夜だった
「――――随分、念じるのね」
俺は、月夜に浮かぶ銀を見た
と、いうことで幽閉された殿下視点でした。
前回ロードさんの付箋をーとか言っていたのに全然書けませんでした。すいません
でもこれを書かないと忘れてしまいそうだったので(言い訳)
しかも今回結構長かったですね、読みにくかったら仰って下さい。
ここまで読んでくださってありがとうございました