月夜の散歩
「見に行きましょうか、その声の主を」
唐突に告げた内容にさして驚くわけでもなく、むしろわかっていたかのようにフゥ君は笑った
ゆっくりと私から離れ窓の扉を開ける
窓を開けた途端に冷たい風が頬を打った
夜風に靡く私の髪は
月夜に照らされより鮮明な銀の色を放つ
「やっぱり俺は、この色が好きだ」
ひと房私の髪を手に取る
その動作はそこら辺にいる貴族より様になる
「はいはい、ありがとう。それより確かに五月蠅いわ...この念」
フゥ君の手をさらりと払う
この姿に戻ったせいか、フゥ君の言った通り
≪お願いだ≫
と何度も何度も脳を通して聞こえてくる
憎しみなのか、恐怖なのか....幸福の念ではないことはこのフレーズだけでも伝わってきた
「だろ?こんなんずっと聞いてたらこっちが参る」
整った眉が困ったように八の字になっている
「素直にこの声の主のところへ行けばよかったじゃない」
そもそも私のところに来なくても自分でできたはず
四六時中五月蠅いのだからその原因を突き止めて願いをかなえるなり面倒なら見捨てるなりすればよかったのよ
と、言うとフゥ君は両手を上にあげてお手上げポーズをとった
「俺も行ったさ、けどなんでか弾かれんの」
(弾かれる....?)
フゥ君は言動、行動は一見幼稚に見えても上級の精霊に値する風の精霊。しかも、私である魔女の魔力を色濃く受け継ぐそれこそ特一級の精霊よ
それを弾くなんて出来るのは、私達純潔の魔女と精霊王
―――規格外で我が国の国王アレン陛下ぐらいよ
「それほどの手練れがこの国にはいるというのか」
私の疑問は声によって紡がれた
思わぬうちに思考が独り言としてでてしまったようだ
「いんや、それはない」
「何故そう言い切れる」
私の考えを否定するフゥ君
思わず口調が荒くなってしまった
「そう怒るなミアン。その声がしたところには多分大地の魔女、アネッサ嬢の御霊がある」
私を宥めるとき、フゥ君は私のことをババアと普段の呼び方では言わずミアンと呼ぶ
いつもそう呼べと言っているのにこんな時だけそう呼ばれるのはずるい
(それに...まさかここでアネッサ姉さまが出てくるとは)
確かにアネッサ姉さまの、魔女の御霊が存在する場所に精霊は入ることができない
だが問題はそこじゃない
「なぜ、そんな神聖な場所に人間が長時間居続けられるの...か」
魔女の存在は不可侵
それは世界を創造する上で成り立った理
東の魔女の御霊が帝国の庭で見つかったけど、その場所だって厳重に罠の呪文が掛けられていたし魔法が使えない様彼女の愛した花が咲き誇っていた
(やはり普通の人間ではないということか。私達を呼ぶことのできる強い念、そして神聖なる魔女の御霊が存在する場所で長居できるほどの者)
「何となく予想がついたとだろ。俺だけでは対処できないし、きっとほかの上級の精霊も困っている....貴方にしか頼めない」
五月蠅いのが精神的にも響いているのだろうか
切羽詰まった表情で私に請うフゥ君
珍しく丁寧な言葉を使ったもんだ、本当に
「興味があるわ、我が赴く価値もある」
フゥ君が私に手を差し伸べてくる
その手を私も掴んだ
「では、参りましょうか」
その言葉と共に私達は風に乗り姿を消した
≪お願いだ...≫
この声だけが私たちの頭を巡りながら...
と、いうことで隣の部屋にロードさんが居るにもかかわらず魔力全開で出ていきましたよミアンちゃんとフレイン君
なんでロードさんが気づかないのか、それは次の投稿でちゃんと付箋貼っときます
ここまで読んでくださってありがとうございました