夫婦その1
何度か事件のような騒動に巻き込まれつつも二人仲良く歩いているわけですが...
「夫婦とは楽しいですね」
と、未だに意味をはき違えたまま私の腰に手を当て歩くロードさん
本人談曰く
―――夫婦とは互いを支え合い信頼し無償の愛を共にする関係、だそうだ。
(確かにそうだけど、斜め右上を進んでいるんだよね)
時折
「このお花買って行かないかい?奥さんにぴったりの花もあるよ!」
なんて、治安が悪い中にも普通の優しそうなおばさん方が居たりもした
ちょっと"奥さん"は余計かもしれないけどね
笑いながらその場を流す
そんなやり取りが何回かあった
「さて、ここら辺でいいですかね」
(まるでこの街を知っているかのような歩き方)
さっきから気にはなっていたけど、明らかにロードさんはこの国のことを知っている
あの門からそうだ
一見、門番という見張りもない門の前に無防備に立つなんて頭のいい宰相が安易にとる行動ではないはず
そしてそれを難なく開けたロードさん
多分推測だけど、あの門は叩いたり触れたりすれば何か起こる仕組みになっているのだと思う
聞いたことのない呪文のようなものを唱えていたところをみると魔法の類でもない
(300年で人は進化するのね)
さらにここに来てからというもの、迷う素振りを一切見せること無く順調に街を見回っていた
視察、を完璧にこなしている
流石にまだ裏路地には入ってはいないがこの国の中心的な街はぐるっと見た気がする
まだこの地にも沢山の精霊が居た
彼らによればここが中心なんだそうだ
周囲に店を構えている各々の人たちは皆若干、服のデザインや形が異なっている
商人として中心に集まってきている状況なのだとも考えられるしね
チラリと
今から何かしそうなロードさんに目を向けた
(夫婦設定で馬鹿みたいにいちゃこいているふりをするなんて...理由がなければしないでしょう?)
なんとも疑り深い魔女だ
自分ではわかっているけどこれがこの300年生きてきた中で身に着けた武器なのだからしょうがない
「何をなさるおつもりですか?」
街から少し歩いて登ったところでロードさんが足を止めた
「おいで、ハニー」
手を差し伸べられて反射的に私もその手を取った
「つけられているようですねぇ」
ボソッと抱き寄せる瞬間
私の耳元でロードさんは呟くように言った
いつからだろうか
確かに微量ではあるが背後から一定の距離で同じ質の魔力が存在していたのは私もわかっていた
甘える様に私もロードさんにくっつく...ふりをしながら気づいていると肯定の頷きを返した
「どうするのですか」
「あちら方が動かない以上こちらも変に事を荒立てる必要はありません。様子をみましょう」
傍から見れば抱き合う馬鹿な恋人同士、または夫婦
何の偶然か夕日が沈みかける寸前の紅い空
包み込むような優しい風と、その風に乗って香る緑の草木
(険しい表情なことは...この場では誰一人として知るまい)
監視のようなものがある以上
迂闊な言動、行動は出来ない
相手方が何の目的化もまだ察せない以上、嫌でもこの馬鹿夫婦は続けなければいけないようね
「さて、今夜の宿へ行くとしますかハニー」
私をそっと離す
視線がぶつかり微笑みかけられる
「ええそうしましょうか....ダーリン」
こんな温かくて静かな生活も悪くない
こんな心がほわんてする生き方も悪くない
――――こんなドキドキと胸が高鳴るスリルある人生も、悪くない
「やっと、抵抗なく私のことをそう呼んでくれましたね。嬉しいですよ、ハニー」
私の手を握り歩き出す
(いいえ、抵抗はありますとも!数秒の空白の意味を察してください!)
とりあえず、ここまで
時間ぎりぎりですね
ここまで読んでくださってありがとうございます
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それでは