入国その1
大変お待たせいたしました。
どうぞ
「―――夫婦です」
私は激しく後悔した...
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北の国境沿いに降り立った私達はアンネ夫人にお礼を言ってそのまま入国した
「私が送れるのはここまでです。旅先どうぞお気をつけて」
竜に乗っていたせいかまだ体がふわふわする
乗り慣れないから酔うか心配だったけど大丈夫なよう...
「感謝しますアンネ夫人」
そうロードさんは静かに告げた
アンネ夫人はロードさんの言葉にゆっくりと頭を下げ2頭の竜を引き連れて元来た道を戻って行った
「アンネ夫人はもしや騎竜士ですか?」
まだ街までは少し遠い
歩きながら質問すれば是、と頷いた
「その通りですよ。彼女は今はあの店で女主人として仕事をこなしていますが本来は竜を調教する技術を持つ希少な人間の一人です。彼女の夫は帝国屈指の騎竜士です。王宮務めですがね」
国境沿いの為か道はまだ整備されていない
歩きにくいがこれでも森育ち
数歩先を歩くロードさんにしっかりついて行っていますよ!
「ならば最初からアンネ夫人のいる店になど立ち寄らず王宮の騎竜士にここまで乗せてくれるよう頼めばよかったのではないのですか?」
我ながら質問ばかりだ...と思いつつ
口は開いてしまう
「―――今、北はあまり治安がよろしくないのですよ。先日即位していた王が崩御し、譲位争いが起こっています。本来ならば第一王太子殿下が王の跡を継ぐ予定でしたが...」
そこで苦い表情を浮かばせるロードさん
流石宰相、他国の内政事情をよく知っている
「魔女が第一王太子殿下の弟である第二殿下を推していると巷で噂になっているようで。魔女の存在はどの国でも等しく尊き者。優先すべきは魔女の言葉だと言い張る人間と、王言いつけどおり第一王太子殿下を王にすべきだと言い張る人間の2つの派閥にわかれてしまったのですよ」
だからあの情報屋の店でボルドーさんは面白いと言ったのかな
(確かになかなか面白い状況じゃないの)
表だって陛下が動けない今
私達がこの地に赴くのも頷けるわ
「そんな内乱間近の国に希少で有能な王宮の竜は使えない....ということですか」
それにきっと目立つ
野生の竜ならまだしも、王宮の竜はきっと格が違うだろうしね
「その通りです」
ってことは今回の旅
ロードさんは宰相として動くのではなくあくまで一般人ということで動くのだろうか
と、物思いに耽っていると何処からともなく声が聞こえてきた
複数の声
お気楽な雰囲気じゃないのは声音で判断できた
心なしかロードさんも構え腰
どんどん音は大きくなっていく
時折金属がぶつかるような音もしていた
「さて...あちらに見える門から街に入りますが。覚悟はおありで?」
急に立ち止まり門を見つめたまま私に声をかけてきたロードさん
(覚悟?)
「大丈夫です」
不思議には思ったものの、先程から質問攻めだからまた聞く気にもならない
とりあえず承諾するとロードさんは衝撃的な一言を口にした
「では、あの門をくぐった瞬間から私たちは
――――夫婦、という設定になりますからあまり馬鹿な行動はなさらないでくださいね」
ふふふ....と明らかに含み笑いな声を上げるロードさん
いつの間にか歩き出していたようで、既に正面には白亜の門が建っていた
何故か門番はいない
どうやって開けるのかな、と思っていればロードさんは掌を翳し何か言葉を発した
するとすうっと門が透けた
(へえ、開くんじゃなくて透明化するんだ)
「さあ、行きましょうか」
そう言って私に手を差し伸べてくる
出された手に私も重ねようとして.....
「――――――私達はこの門をくぐると、どんな設定になると仰いましたか」
その手を止めてロードさんに問うた
しかし....
ロードさんが言うのが早かったか
それとも私の手を掴んで門の中へ引き込むのが早かったか...
「うわっ!!」
グイッと手を引っ張られて私は既に門の中にいるロードさんに勢いよく倒れこむ形となった
「――――夫婦、です」
抱きしめられながら上からそんな声が降ってくる
すうっと再び門が聳え立つように戻った
(そんな設定はいらないと思うのですが!?)
私の思いは言葉にならず
今更ながらあの覚悟の意味を聞いておくべきだったと私は激しく後悔した
文才が欲しい
と、いうことで入国を果たしました。
このペースで更新を続ければ100話までなりそうなので、そのうち(~その5)とかの話をひとまとめにしようと思います←
ここまで読んでくださってありがとうございました