空中散歩その3
あちらの更新と
こちらの更新...
二つの作品を書くのは大概大変なものです(-_-;)
ロードさんの傷を気配りながらそっと樹の前に置く
アンネ夫人は樹に向かって何やら唱えている
私の知らないところを考えると、呪文の類ではない
まあ魔力のないアンネ夫人が呪文を唱えたところでなんともならないんだけどね
傍で眠っているロードさんを見る
起きる気配はないものの回復はしてきている
それもそうだ
私が直々に治癒の魔法を施したのだから
と、次の瞬間
凄まじい魔力を感じた
(肌がビリビリするわ)
久々の強い魔力
三大要素の揃った位の高い魔力だ
感じ取った方向を見ればそこは先程から何やら唱えていたアンネ夫人が居た
この魔力はアンネ夫人のものではなく
その奥にある樹から発せられているもののよう...
(とんでもないものがよくこんな場所にあったものだ)
高ぶる感情を押さえつけ
ゆっくりと私は立ち上がってアンネ夫人の元まで歩く
これは魔力持ちの人間なら危険ね
アンネ夫人だからできたことなのかもしれない
魔力が中流であれば終わりだ
この樹から発せられる魔力に呑まれる
下流のアンネ夫人のような存在ならば元々魔力が無いに等しいから呑まれることもない
むしろこの魔力に当てられていっそ清々しいはず
上流ならばこの魔力を跳ね返すことは出来なくても
うまく利用する術を知っているはず
(高貴な存在がこんな場所によく居たものだわ)
「御嬢さん。危ないから下がっていて...気位が高い連中なんだ」
私が近づくのをそっと阻む
連中...ねぇ
アンネ夫人の一言にさりげなく笑う
正体を知らないまま今までやってきたのかこの女性は
そう感心さえした
「さあ、お願いするよ...リュヴァ―」
アンネ夫人の一言と共に
その樹の奥から何かが飛び出してきた
勢いよく出てきたものだから
その風圧に私達は飛ばされそうになる
ドスンと大地を響かせてそこに足を付けた何か
リュヴァ―と呼ばれたソレは私達より何倍も大きかった
≪キキキキュ-!!≫
ばさりと翼を広げ鳴くリュヴァ―
その声と翼によって出された風が森を揺らす
白い胴体
長い尾
鋭い歯が淫らに口からこぼれ出ている
研ぎ澄まされた刃のような爪
そしてどこまでも広い翼
「森を抜けたいんだ。手伝ってくれるね」
そっとアンネ夫人が手を1頭のリュヴァ―に向かって差し出した
この場にいるのは2頭
≪キュ≫
アンネ夫人に反応して鳴いたリュヴァ―の眼は赤
そしてもう一方が緑色をしていた
「さあ、北までひとっ飛びだよ!!」
私のほうを見て笑うアンネ夫人は凄く生き生きとしていた
もしかして...と推測を立てた
これは多分十中八九あたりだと思う
でも、今ここで聞くのも野暮ってものだろう
長い首を差し出してきた緑色の眼をしたリュヴァ―
乗りやすいように配慮してくれたんだろう
(このリュヴァ―、野生にしては大人しいわね)
ロードさんを乗せた後私もリュヴァ―の背に乗った
首筋を一撫でしてありがとうと念じれば、伝わったのか嬉しそうに鳴いてくれた
「飛べ!!」
アンネ夫人の掛け声とともに飛び立つ
一瞬体がぐらりと揺れたがリュヴァ―も気を使って体勢を斜めにしてくれたので落ちることは無かった
一気に上昇する
数分ほどで森が小さくなった
もぞもぞと私の後ろが動き出す
起きた様ね...
「っと...」
現状を把握するのに時間がかかったようでフラリと私の肩をロードさんが掴んだ
まあ起きた瞬間雲の上なんて驚くよね普通
そう思いながら笑った
「お目覚めのようで...」
「ミアさん?」
私以外の誰だというのだ
と思ったけど口にはしないで後ろを向いた
別に手綱があるわけじゃないから私が操作しなくても大丈夫
この子はアンネ夫人をしっかり追っている
「リュヴァ―に乗せられて今雲の上ですよ」
「こんなに早く目が覚めるとは....」
自分の手を2,3回握りしめている
死にかけてたもんねロードさん
グッと握りしめて私を見つめる
言いたいことは大体わかる
だから私は笑った
笑えばロードさんはさっきより眉間に皺を寄せて私を睨んだ
「あれを見ていましたか」
是、と言葉無く私はもう一度笑った
ここの会話はアンネ夫人には聞こえない
「説明してください」
視線を外すことは許さない、とでも言いたげな目
強い強い目
(こういう目をする人間は嫌いじゃない)
「魔女が貴方を助けました」
矛盾していると自分でも思った
私が魔女です、なんて言って置きながら今ロードさんに言ったことは客観的に見た言葉だ
私の言葉に嬉しそうな
だけど酷く歪んだ顔をしていた
「そうですか」
一言、ポツリと零す様に言った
いろいろな思いがあるのでしょうけど
(――私が飽きるまで正体を曝すつもりはないわ)
もっとも、既に何回も私が魔女だとは言っているのだけれどね
再び前を向く
私の肩を掴むロードさんの手は暖かかった
人間らしい感情よ
気づかれないように笑いながら視線の先にある街を見る
もうすぐ森を抜ける
数分空の散歩を楽しむと
前にいたアンネ夫人の乗ったリュヴァ―が急降下を始めた
それに伴い私たちの乗っているリュヴァ―も下落し始める
(さあ、魔女様に会いに行こうか)
北に存在する魔女に会うのも時間の問題
これから起こるであろう一つの波乱に私は胸を躍らせた
陛下から勅命を受け1週間と少し
私達は無事現地入りを果たした
これで3章は終了です。
4章からは北の国編
ちなみに...
1週間ちょっとって話ですが
実は森に入って数日たっていたんですよね。
あの森、少し時空がずれていて時間の経過が遅いんです。
なーんて補足しておきますね
ここまで読んでくださってありがとうございました