女店主その2
月が照らす庭園に不意に影が二つできた
そう思った瞬間一陣の強い風が美しく咲く花を巻き添えにしながら舞い上がった
「とーちゃく」
フゥ君の手をそっと離してあたりを見回す
特に変わった様子もなければ不穏な空気も感じられない
「なんでここなんだよ」
「なんでって...なんとなく?」
私はフゥ君にある場所に行くよう願った
それは王宮の内部、リーナ姉さんの御霊がある場所
もうすぐ北に行く
もしかしたらアネッサ姉さんの御霊があるかもしれない
(そういや、なんで中央にリーナ姉さんの御霊があるのかしら)
不思議とそう思った
いくら昔は同じ一つの大陸だったとはいえ東と名のつく国の魔女だった
なのに私が存在するこの場所に魂がある意味があるのかしら
私がここにいる限り少なからず自然は均衡を保ったまま普通の生活が送れるはず
リーナ姉さんの水だって各地に存在する水の精霊にお願いすればどうにだってなる
ここに彼女の魂は必要ないわ...
そんなことを一人考えているとフゥ君が私の腕を掴んだ
フゥ君は甘えるような素直な子じゃないから驚いてフゥ君を見上げる
「なぁ...誰か来るぞ」
鋭く
研ぎ澄まされた刃のような目をしてどこかを見つめるフゥ君
精霊は基本的に親しみやすい
でも、警戒心が高く一度でも変な動きをすれば二度と、話すどころか近づくことさえできなくなる
「怖い?」
試すように見上げながら言えばフゥ君は少し笑った
「まさか、これでも伊達に生きてないさ」
私を掴んでいた手が今度は私を守る様に包み込んできた
「私から見ればまだ子供よフゥ君も」
「うるさいババア」
近づく気配に警戒しつつも
どこかフゥ君なら安心だと気を緩める
(ババアって言うなって何度も言ってるのに)
フゥ君の背に守られながらそんなことを思う
次第に足音が聞こえるようになってきた
複数ではなく一つ
「これは凄い」
フゥ君が目を輝かせながらそんなことを言った
何が凄いのか
それはその足音から放たれる魔力の純度、質、量共に無尽蔵に魔力を持つ精霊をも圧倒する力だから....
フゥ君はこんな馬鹿みたいな子だけど
実際は戦闘でも本当に役に立つ精霊
まー、私が直接見たわけじゃなくて彼を呼び出した人間が言っていた話を盗み聞きしただけなんだけどね...
「誰だ」
在り来たりな台詞だな
遂に足音が止まる
素晴らしい魔力の持ち主は足を止め私たちに剣を向けた
凛々しいですこと
―――帝王アレン・アルファジュール様
幸い私はフゥ君の背に隠れていて顔がばれることは無い
まして寒いからという理由で着てきた大きなローブの御蔭で体系がばれることもないだろうし...
あちらさんは惜しみなくその美しい顔を月夜に翳しているけれど
「お前は...精霊か」
スッと剣を降ろす陛下
精霊には刃を向けない...いい心がけだわ
魔女にとって精霊は自分の子供のようなもの
もしフゥ君に彼が切りかかろうものなら全力でそれを私が排除しようと思っていた
まぁ、陛下もそこまで愚かな人間ではないと信用はしていたけどね
「なぜここに精霊がいる」
「主がソレを望んだからだ」
そう言ってフゥ君は私をチラリと見た
おいおいふざけているのかこの餓鬼は...
この状況からして陛下、私には気づいていなかっただろうに
何故私を紹介する
案の定陛下は少し驚いたようにしてフゥ君の背に隠れていた私を見ようとしている
(...性質の悪い復讐をするもんだこの餓鬼は)
フゥ君はニタリと笑っていた
きっといつかの仕返しが来るとは思っていたけど
このタイミングはないわ...
あの時無断で精霊とのかかわりをシャットアウトして危険な目にあって凄いフゥ君に怒られた
でもこれは厳しいんじゃないかしら?
私は無言でフゥ君を睨む
一瞬怯むも俺は悪くないと言いたげな表情で再び前を向いた
「後ろにいるのは...人間ではないな。精霊か?」
(ほう、人か人でないかを見分けるなんて凄いね)
本当にこの人、人間なのかしら
そう疑ってしまいたくなるような彼の存在
「精霊が精霊に仕えるのは精霊王のみ...主は云わば精霊王より尊き方ぞ」
あらフゥ君口調が変わっていってるわよ
精霊王、私も一度しか会ったことないわ
いつだったか...
あぁ、300年前魔女が眠った時だ
「余計にわからんな。出てきてはくれぬか」
思考を遮るように陛下が問うた
陛下の問いにフゥ君は答えない
私にどうしろと....
「先に物騒なものを仕舞うのならば...な」
私は何もしてくれないフゥ君の代わりにフゥ君の背後で声を出す
陛下はそんな私の声に反応してその立派な剣を収めてくれた
中途半端に終わります←




