宰相と魔女その3‐SIDEロード‐
ロード・ランウェイさん視点どうぞ
「魔女を探せ」
目の前にいるこの国の頂点に立つ彼は至って真面目な表情で私に命令を下した
(何を言い出すかと思えば)
「陛下に御伽噺を信じるような純粋な心の持ち主だったとは思いませんでしたよ」
「一国の君子に対してなんだその口調は」
なんだもくそもあるか
お前にそんな配慮が今更必要だとでも思っているのか
嫌味の一つ
この状況でお前の話に相槌を打っただけでもありがたく思え
そんなことさえ考えてしまう程、内容は衝撃的だった
人生でもトップ3に入るのではないだろうか
先日の会議から陛下の様子が変だとは思っていたがまさか本当に魔女の存在が気になっていたなんて...
(表で陛下がそのようなことを考えていると民に思われては示しがつかない)
「...はぁ」
堪え切れず口から出たのは大きなため息
そんな私を尻目に陛下は黙々と書類を片づける
有能な陛下なことは私も認めよう
陛下には才能がある
故に陛下は頭が固い
だからこそこの話、冗談ではないことなど百も承知だ
「どうして魔女なのです」
普段の陛下なら御伽噺に過ぎないものなど聞き流すのに、なぜ魔女に反応するのか
(我々より300年も前にこの世界から姿を消したのだぞ。今や魔女の御霊はこの城の各所に秘密裡に保管されている。...中央の魔女ですら生きているのかも分らない。血を分けた混血の魔女ですらこの世界を探しても我々だけでは探しきれないほど少ないというのに)
まして自分は年若いとはいえこの国の宰相だ
それを陛下は分かっているのかと問い詰めたくなった
「一度でいいから見てみたいのだ」
....私利私欲の為に私という存在がいるわけではないんですよ陛下
もっと正当化した理由があると思えばなんと、見たいだとは
頭が切れる賢帝ではあるが
まだまだ冒険する子供心を持った青年には変わりないということか...
(これで頷けば当分は私の仕事を部下にまかせっきりになるのか)
陛下の言葉は絶対だ
これで首を横に振れば陛下から仕事をいつもの倍押し付けられるのは目に見えてわかる
もう一度ため息をついて陛下を見据える
陛下の海より深い青の瞳が私の瞳を捕える
陛下とは似ても似つかぬ漆黒の瞳
何度憧れただろうか
この地味で仕方がない髪と眼
陛下の持つ濁ることのない金髪と深い蒼の瞳はまさに自分が欲している色だった
「で、私は具体的に何をすればいいのです」
そう言えば陛下は驚いたように私を見てその後嬉しそうに笑うのだ
この笑顔を見てしまえば何も言えなくなる
想像もできないくらいそれは可愛らしく笑うのだから
本人には絶対に言えないが...
「お前のその何にも染まらぬ黒で視ろ。真実も嘘も見抜ける素晴らしい眼を存分に生かせ。お前が一度でも一瞬でも反応したならば信憑性に欠けていてもいい、ここに連れてこい」
―――なんてことだろう
これだからこの帝国の陛下に仕えたいと心から思うのだ
(私の瞳を素晴らしいと言うこの人の存在があるからこそ私の今があるのだ)
大げさと言うかもしれない
ただ、自国よりこの国の方が生きやすいのは確かなんだ
「ロード・ランウェイ。魔女と思わしき者を見つけ次第、俺のところへ連れてこい」
私はその命令に傅き
「御意に」
一言、すべて受け入れたかのように一瞥した
そのまま部屋を出て部下に仕事を押し付け城を囲う大きな門を数人の僕を連れて進みだす
(だがこれでは目立つな)
考えた私は乗ってきた馬車を裏に隠すように止めて自分の足で探すことにする
最初は案外早く見つかるものだと思った
何人かに見たことは無いかと尋ねると各々がどこかに走り出し女を連れてくる
こんなにたくさんいたのか
そう思いつつ陛下のところへ連れて行くもすべて偽物
「身なりがいい兄さんだったからね、つい」
なにがついだ
要は皆金や地位を目的としグループになって私をだましていたということではないか
国の宰相がこんなに騙されていいのか?
いいに決まっている、一々嘘を見抜く労力があるなら仕事に回せ
これが私の考えだ
ただ騙されて私に不利な、利益のない最後があるとしたらそれを気づかれぬよう消すのみ
(だだ、馬車だけでなく身だしなみか.....)
私の恰好も一理あるだろうと着替え再び聞き込みを始める
今度は誰からも相手をされなくなってしまった
そりゃそうだ
魔女を見たことがあるか、なんて頭のおかしいやつが言う言葉以外にはない
子供が言ったならまだしもだが
「過酷だ」
呟きうろうろさまよう
陛下から命令を下されてまともな魔女候補を連れていけなくて早半年
気力を失いかけながら歩いていると濃厚な魔力を感じ取った
ふと、目をやればそこには可愛らしい娘が似つかぬポシェットを下げてこれまた似つかぬ店へと入って行った
(いや、娘というより娘の持っていたポシェットがおかしい)
確かに濃密濃厚な魔力を感じた
店を見ればそこは魔石専門店
そうか、そこで魔石を売るのか
あのポシェットに入っていたのはきっと魔石だろう
そう考えて娘が出てくるのを待つ
暫くして出てきたがなにやら来た道には人だかりができていて通れない状況のようだ
(ならば道は一つでしょうね)
私は先回りして倒れたふりをする
案の定娘は私の思惑通り私の倒れている場所を通ろうとした
説得し、娘と目が合った瞬間
私の陛下から素晴らしいと言われた目が娘の中にある銀をほんの一瞬捕えた
もう一度視ようとしても変わらない
だが確かに見たのだ
「陛下からは魔女と思わしき人は全て連れてくるようにと賜っております。貴方にも来ていただきましょうか」
横暴だとわかっている
だが、ここにきて私の眼が反応したのだ
娘を連れていきまた魔女探しに明け暮れる
すると数日後、陛下がその魔女を騎士にしたと報告が入った
(漸く一人ですか)
先が思いやられる
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「ランウェイ様だけ特別ですよ」
私の眼はやはり使えないらしい
再びあった娘からは魔力のも然程感じられずまして銀などどこにもない
さらに私に対しても礼儀など無いに等しい
だが...
陛下が認めたのだからそれ相当の人間であるには違いないだろう
無理矢理この場に連れてきたことについて非を詫びるつもりはないがその分サポートくらいはしてやろう
「斬新な笑顔ですね」
だから貴女には憎まれ口を叩くんです
これも一応お詫びのつもりで....
「ロード・ランウェイの護衛としてミアが行け。北の魔女が本当に居るのか確かめてこい」
ただ、この言葉だけは頂けないですよ陛下
私達は決して仲がいいわけではないので...
ふざけるな陛下
と、言えない代わりに旅の間はこの娘を弄ろうか
執務室に入る光を浴びながら旅の楽しみをそうやって探すのだった
ロード視点終了