古狸その2
勤務2日目にしてこれとは...
初日から命がけだもんね、波瀾万丈じゃないかしら
そう思いながら再び視線をオルド卿と呼ばれた男へ向けた
すると目があった
濁った欲のある瞳
(下種な人間が)
いつか見た男にそっくりじゃない
ふと、昔のことを思い出せずにはいられなかった
「陛下、その者が新しき騎士ですかな?」
それ以外になにがある
と、口を開く手前言うのをやめる
私はこのごたごたした世界に足を踏み入れる気はないからね
「そうですよ」
陛下がオルド卿に対して言う
その声音があまりにもどうでもいいかのようなものだからオルド卿はすっかり顔を赤く染め怒りに震えている様子だった
「へ、陛下は何事にも率先して全てをこなして下さるから我々も安心ですな」
引き攣ってるよ、顔
要は出しゃばり過ぎだと遠まわしに言っているようなものじゃないの
「ならばよかったではないか。シド、お連れしろ」
「御意」
話すことは無い
そう思った陛下はシドさんにオルド卿を退室させるように命じた
その言葉に従うようにシドさんはオルド卿と陛下の間に立ちはだかる
私はそれを陛下の横でただ見ている
オルド卿はさらに強い魔力を石に込めている
(見えないとでも思っているのかしら)
実際には視界では捉えることは出来ない
透視なんて技、残念ながら私にはないしね
でも魔力を見分けることならできる
色、質、量
より純度が高ければ色は濃く透き通る
同じように純度が高ければ質はより鋭く重い
量....は遺伝、環境によって異なってしまうけど
これは命のエネルギーの多さとも言える
魔力は体に流れる血と同じ
キャパシティオーバーをしてしまえば死んでしまう
魔女の場合は魔力が戻るまで使えなくなってしまうけどね
まぁそんな状況、無いに等しいのだけれど
このオルド卿、流石というべきなのか
純度が高い
色も質も人間レベルにしてみれば申し分ない
ただ、量が少ない
きっとあの魔石でその分を補っているのね
「陛下は執務の最中に御座います、申し訳ありませんがお引き取りを」
「黙れ。騎士の分際で我に触れるな!」
シドさんが退室を促すようオルド卿の腕を掴んだ瞬間
オルド卿はその手をまるで汚いものに触られたかのように払った
その様子に動じることもなくシドさんはその払われた手を降ろし再度退室を促す
「なぜ効かぬのだ!?」
後ろにいた僕に怒気を含ませた顔で迫る
急に責められるものだから二人はおろおろと焦るのみ
「我々には...」
「しかし効果は絶大だったはずです!」
(ま、効果は絶大でしょうけど)
なんせ私が取ってきた魔石ですから
なんて、言わないけど軽く優越感
「何かなさっていたのですか?物騒ですね」
陛下が書類から目を離しオルド卿を睨む
その目にオルド卿は一瞬怯んだ
自分より年上の
しかもプライドがある人を怯ませるなんて大した若造だ
これもまた血統がそうさせているのか....
増幅する魔力に対応すべく私は更にポケットに入っているものを撫でる
(吸って大きくなりなさい)
そんな意味合いを込める
ポケットに入っているのは精霊の命
まだ形にはならないけど
踏んでしまった花から生まれるはずだった命
直ぐに再生すると思ったのに
また誰かに踏まれたのか衰弱しきっていた
在り来たりなところから生まれてくる精霊
生まれてからはほぼ半永久的に生きるけど、生まれるまでが過酷
生を宿す前に消える精霊
人間の作り出す環境に耐え切れず消える精霊
精霊はデリケートな存在ってわけ
「本日はお暇しよう。失礼した」
進展のない不利的状況化であきらめたオルド卿の判断は正しい
さっきまでの怒気を含んだ表情はどこへ行ったのか
清々しい顔をして出て行った
荒々しく靴音は鳴らしていたから
不完全燃焼ってところだったのだと思うけど....
ちらりとシドさんを見れば
何事もなかったかのような表情だった
「なかなか役に立つなお前も」
隣にいた陛下が少し笑いながら私を見てそう言った
(気づいていたの...?)
陛下の視線が一瞬私のポケットへと向けられすぐに書類へと移った
この反応は気づいていた
どこまで規格外なのかしらこの男
シドさんはよくわからないのか
不思議そうに陛下を見ていた
「シド、お前の結界では防ぎ切れてはいなかった。オルド卿は魔石を利用していた...それを防いだのはこの娘だ。無下にするなよシド」
何かにサインをしながらの言葉
どのように防いだかまでは言っていないけどシドさんも驚いた後納得したように頷く
「そのポケットに入っているのはチノか」
チノ...精霊を生み出す花の総称
私のポケットをみてシドさんが断言的に言った
(魔力に敏感なのねこの人たちは)
「はい、偶然見つけたので」
「チノが飛び立つまでしっかり見ておけよ」
命令....なのだろうか?
陛下は私にそう言った
ま、言われなくても見てますけどー
「御意」
陛下の言葉に私は了承したと一言
(この台詞いつ言ってもかっこいい!)
下心ありありな内心だけど
そこは悪しからず....ね