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陛下の専属様  作者: 月詠 桔梗鑾
第3章
28/151

憂ある瞳‐SIDEリリー‐

初リリー視点

お楽しみください

「今日からお前は魔女の女官になれ」


普段は女官長様しか入らないその部屋に私は呼ばれ

内心ドキドキしながら目の前にいる一介の女官には到底お目にかかれない陛下が私にそう告げた



「魔女....ですか?」



王宮内でも魔女が見つかった、それらしき娘が宰相様に連れられてこの城に入った....そんな情報がつい先程恐ろしく早い伝達力で回っていたのは知っていた



また妙な噂だと、その時は大して気にも留めずにいつものように仕事をこなしていたけれど



(まさか本当だったなんて)




失礼と分かりながらも陛下を凝視せざるを得なかった



当の陛下は書類に目を通しながら普通に話している

陛下が魔女という存在に目を付けていらしたのは薄々気が付いていた




重臣の皆様と会議をなされる時たまたま女官長様が外回りに行っていたため私が代役で扉横に待機をしていた時のことだ



いつでも彼らの要望に応えられるように

直立不動で立っていた




未だに古株の狸が何匹か紛れ込んでいるも他は皆陛下至上主義の者達ばかりだと女官長様は仰っていたし私自身も身をもって感じていた




会議は着々と進み、たまにお茶を出すなどといった仕事以外することもなくただ私は彼らを見ていた



内容は他国との関係について

正直私には訳の分からないことばかりで早く終わらないかとさえ思っていた




「東の王など今は病弱で寝たきりの為俗世には全くと言っていいほど出てこないようですぞ陛下」




古株の狸

先代の帝王時代から財務関係に席を置く男が厭らしく笑う



(貴族階級でも筆頭に立つオルド卿はいつになっても死なないのね)



既に齢90にはなるでしょうに未だに健在のオルド・ルーレンス卿



なにかと陛下の意見に口をはさむ五月蠅い方だと女官長様が苦々しい顔つきで仰っていたのを覚えている



まるで今は東が手薄だから攻めろと遠まわしに言っているようなものではないか



私はその言葉に誰にも気づかれない様眉をひそめた



陛下は依然冷静に書類に目を通している

私より幾分若い陛下



なのになぜか頭が自然と傅くのは陛下のその溢れる魔力と幼いころからの教養なのだろう



「どうにも北は魔女を探しているだとか....」



誰かがその言葉と共に陛下の隣に座る宰相様を見据えていった


「私に意見を求められても困りますヴェルデ卿」



宰相様は北出身の貴族

どんな理由なのかは知らないけれど今は帝国の宰相をしている



宰相なんて大変な仕事につかなくても

北で貴族として暮らしていれば楽だったのに...



ヴェルデ卿に対して困ったように言い放つ宰相様もお若いのに貫禄があるわ



ヴェルデ卿は外交に関与する貴族階級の一人

古株で蛇のようにしつこいと噂がある初老の男




「魔女だと?」




不意になかなか口を開かなかった陛下が喋った


(魔女、のキーワードになぜ反応するのかしら)




しかしその陛下の言葉にヴェルデ卿は笑い

小馬鹿にしたように陛下を見て言った



「陛下も興味がおありですかな?所詮は御伽噺にございますよ」



「ヴェルデ卿、口が過ぎま「いいロード。確かに御伽噺だな...だが本題は其処ではない、暇ではないのだ。戯言はここまでにして本題に入れ」....出過ぎた真似をしました」




宰相様がヴェルデ卿に言う前にかぶせる様に陛下は話がずれていく話題を本題に引き戻した



挑発されても冷静でいられるからこそ陛下に相応しい



(でも確かに宰相様のお気持ちもわかるわ)



そんなことを一人心の中で思っていた


それから間もなくして

私は陛下直々に執務室へ呼ばれた



まさか御伽噺だと言っていた陛下が魔女を見つけるとは思いもせず....



____

__



「そうだ、今は眠っているが時機に目を覚ますだろう。あの娘の全ての世話をお前ひとりに任せる.....できるか」




静かな執務室で

陛下の声が重く私の体に圧し掛かってきた



私ごときが魔女という今では神聖化した者の世話などしても本当にいいのだろうか


それ以前に御伽噺としか聞かなかった存在を認めろとこの人は仰るのか




(いや、陛下は冗談で言っているのではない)



目が本気だった

それに陛下はこんなくだらない嘘は言わないでしょうし....




私の答えなど一つしかない

陛下の目の前でゆっくりと傅く



右手を左胸に添え深々と礼をしながら言う


「御意に陛下」



なぜ陛下が私より強い女官長様を選ばなかったのか定かではないけれど少なくとも私は陛下に信用されていると取って間違いはないはず



フワリと風が私の髪を撫でる

気分が高揚し熱くなっている体には丁度いい風だった



「だが、くれぐれもその娘が魔女だと云う事を周囲の者に悟れぬようにせよ」


その言葉に私は言葉を出さず

ただ頷いた




「では行け」



一言

陛下は私に告げ、私もそれに従うように静かに執務室を後にした



そのまま私は長い廊下を歩き

陛下が仰っていた部屋の前にたどり着いた



(この中に魔女がいる)



ドキドキとやけに早い心音

それを抑える様に軽く3回扉をノックした



しかし反応はない

「まじ....」



魔女様、そう言いかけて口を噤む

ここは廊下だ



誰がいつ何時なんどき聞いているかわからないこの場所で軽率な言動は慎むべきだと悟ったからだ



これから主となる人の部屋に許可なく入ることは許されないとわかっていても

今回はしょうがないと思い開き静かに扉を開いた




パタン

優しくそっと扉を閉めて中に入る



そしてゆっくりと人影のあるベッドまで近づいた



(これが...魔女?)



目の前で眠る魔女と言われる者は想像を遥かに超えたまだあどけなさの残る年若い女性だった



少女、と言っても通じる

ただ女性の私から見ても二度見てしまいたくなるような風貌



目は....どんな色をしているのかしら



父母に御伽噺として語られてきたその存在が目の前にいる



嬉しさと興奮のあまり私はその少女を起こそうと思った



主の眠りを妨げるなど許されない行為で、それも今回で2度目


分かってはいるもののどうせ起きる時間だからと理由をつけてその少女を起こした



少女はどこにでもいるようなはちみつ色の髪に茶色の瞳だった



(魔女だから銀の目をしていると思ったのに案外普通なのね...凄く綺麗な顔立ちだけど)



この少女のどこが魔女なのかわからないけど

きっと陛下が何かしらの理由があったから連れてきたんでしょう



私はこの少女のために出来得る限りのことをしなければならない



そう固く思った



寝ぼけているのかその少女は私の声に反応せず

目を閉じて再び眠ってしまった


それを見て私は静かに部屋を後にした

明日でもいいわよね、きっと疲れているのでしょうし....


____

__



(眠れているかしら)



ふと、夜になり寝ようと思ったときそんなことが頭を過った



きっとこの城に慣れていないだろうと

夜中にもかかわらず私は服をもう一度着て自家製の葉で作ったお茶を持って部屋を後にした



魔女様のいる部屋までは少し距離があって

薄暗い廊下は気味が悪かった



まして今日は新月

光が空から射さない分余計に暗く感じた



(でも、魔女様も心細いはずよね)



そんなことを思いながら私は進む




―――――ま....う



不意にどこからともなく小さな声が聞こえた

自ずと足が止まる



こんな時間に誰?

恐怖を感じるも気になる私は声のする方向へ再び足を進めた



(まさか魔女様?)



どんどん魔女様の部屋に近づく

それに伴って声も次第にはっきり聞こえてきた



――――南の魔女は言う

攻めは無くして何をするかと


中央の魔女は何も言わず

ただただそれその者々を見つめ静かに佇み世の流れを見定める



寄らば大樹の陰の如く

人は柳に雪折れなし



生きた歴史が話すは過去

これはただの戯曲に過ぎず


魔女は詠い歴史を残さん




澄んだ歌声だった

部屋の手前、角で足を止めて聞き入ってしまった



(この詩は...厳重に保管された城の倉庫にあった本の一説だわ)


昔一度だけ読んだことがあった

その本は昔魔女を知っている人が書いた本だとか



ガラスから魔女様の姿が見えた

あの部屋を抜け出したのだろうか



この国でも指折りの魔法使いが結界を張り続けているのに気づかれもせず簡単に抜け出すなんて....



この角からは魔女様にとって丁死角となるから私の姿に気が付いていない



カタカタと手に持つカップが揺れお茶が波打っている

既にぬるくなってしまったと思いつつ、少しだけ...その少女が怖くなった



(とても....とても冷たい銀の瞳。新月で光が射さないこの暗闇でも鈍く光る銀)



彼女は紛れもなく純潔の魔女だった

こんなこと、私の様な人間が知っていい事実ではなかった



いっそはちみつ色の髪で茶色の瞳だったほうが馴染み易かったのにとさえ思った



それにあまりにもぞっとする冷徹な瞳だった



私は一刻も早くこの場から離れなければと来た道を走るように歩いた



バタン


部屋に入って鍵を閉める


「はぁはぁ」



荒い息を整えながら近くにあったテーブルに渡そうと思っていたお茶のカップとそれを乗せるお盆を置いた



そこで気が付く



お盆にはお茶がこぼれ、カップにはお茶がほとんど入っていなかった



「冷静になれ冷静になれ」


唱える様に静かに浅く息をする


暫くすると次第に息も収まりふぅと一息




片づけは明日でいいとそのままベッドに横になった




柔らかなベッドが頬を撫でる

うずめる様にしながら私は一つの答えを導き出した



(今日見たことは誰にも話せないわね。陛下にもこの件は黙っていましょう....魔女様の意思を私は何より尊重しなければならないわ。)



そう固く決意し、静かに目を閉じた

美しいこの世で一人しか存在しない純潔の魔女様



高貴な貴女様に仕える私は貴方様には決して近づけるような人間ではないけれどこの身滅びるまで貴方様に忠誠を誓いましょう



そんなことを思いながら私の意識は落ちていった



次の日、何事もなかったように振る舞いながら私は初めて会ったかのように挨拶をする




そして同時に感謝する

(おはよう、ありがとう、など勿体なきお言葉に御座います)



私の迫る声に驚いているのが分かる

きっと魔女様は人間などに興味などないのでしょうね



あの瞳を見て私は妙に確信していた

でも、今は偽りとあれ優しい表情で笑いかけて下さる



それを感謝しなければいけない

私の様な人間が知っていい事実ではないと分かっているからこそ彼女の意思を尊重してこのことは彼女が言うまで私は喋らない



貴女がこの場で何不自由ない生活を送れるために精一杯私は努めましょう



隠す理由は分からないけど

我等が神に等しい存在に絶対の忠誠を...



言わない代わりに私は優しく微笑んだ






実はリリーは分かっていたってゆー(・_・;)



一人ぐらいわかってないとって感じでした

長くなってすいません




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