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陛下の専属様  作者: 月詠 桔梗鑾
最終章
145/151

蠢く‐SIDE――‐

大きな伏線回収

(嗚呼、ここは暗い)


『――――我が君、我が君。お目覚めですか。』


(うるさい声だ。私はまだ疲れているというのに。―――はて、何故疲れているのだろうか。それにしてもここは随分と窮屈だな)


『おお、我が君!既に準備は整っております。後は貴女様がほんの少し力を出すだけでよいのです。さあ、さあ!』


(嗚呼うるさいうるさい。暗い狭い疲れた…それになんだか痛い。痛い痛い、そう急かすな鬱陶しい。)


疲弊した体を少し動かし、力を放出する。大きな音と共に視界を遮る砂煙。次に感じたのは肌寒さ。そしてこの香りは…


『漸くのお目覚め、ご尊顔拝謁する喜びを抑えることができませぬ。300と数年、シシールは待ちわびておりました。―――様、いえ、今はアマンダ様とお呼びすべきでしょうか』


(そう言って首を垂れるお前は…そして私の周りに大量に飛び散る赤は、そうだそうだ私は知っている)


砂煙がはれ、月が煌々と輝く夜の森。動物の声一つないその森の、最奥の場所で私は眠っていたのだ。いや、正確には眠らされていた。更に言うなれば封印されていた。


私はこの暗い土の下で、微睡の中で駒を増やした。私が世に戻り成すべきことを遂げるために。そして最良の駒を手にし少しの休息をとっていたのだ。


(もう少し、力を蓄えるつもりだったが…まあいいか)


ボロボロのドレスを翻し、傅くソレに視線を移す。


「―――見て、なんて小汚い恰好かしら。これではハロルドゲイル様に笑われてしまうわ。そうは思わなくて?あらいやだ、こんなところにいては心配してしまうわね。お城はどちらだったかしらシシール」


指を一振り、身だしなみを整えて微笑む。私の話に、視線を彷徨わせるシシール。どう返せばよいのか考えているその姿がとても愉快だ。


「ふふ、冗談よ。―――でも彼の気配がするのは本当よ?それに混じって私の気配もするわ。我が子はその血を絶やすことなくこの300年紡いでいるようね。」


冷たい風が不恰好に切りそろえられた髪をさらう。みっともない髪にしたのは誰だったか、南の魔女か。馬鹿な女だ、そういえば呪いをかけた駒も、南の縁がある者だった。



シシールが安堵の息をこぼす。そして僅かに笑い視線が交わった。


『貴女様に似て、美しい黄金の髪を纏っておられます。目は伴侶であられた、かの人間と同じ蒼にございます。遠く東方の地で言われております先祖返りという言葉が妥当かと…お力も強く、精霊への慈愛に満ちています』



「そうかそうか!ならば早く行かねばなりませんね。どちらかしら?あっち?それともあっち?楽しみねぇ、ハロルドゲイル様の瞳、私好きだったわ。もう一度会えるだなんて夢みたい。」


ハロルドゲイル様、我が生涯の伴侶。契約によりもたらされたものなれど、私はあの忌々しい魔女とは違い死にはしない。本来ならば同じ時を過ごすはずだった、私の魔力でハロルドゲイル様の命とつなげようとしていたのに…



「リアン・レティシェフォード…私と彼の間を分かつ者。私が封印されてから、ハロルドゲイル様はどうなったの?」


彼に永遠の愛と呼べる呪いを施したすぐ後に私は彼女らに封印されてしまった。でも私が死なない限り呪いは消えることはない。忌々しい魔女は私に殺されると同時に私から力を奪っていった。そして私をあそこに埋めた隣国の王。仕返しに短命の呪いをかけてやったが、どうやらまだしぶとく血は受け継がれているらしい。




(ハロルドゲイル様がよく笑顔で話をしていた、私との逢瀬を少なからず邪魔した東国の王、お前の子孫も殺さねば)


『――――あの後、かの人間はその命を絶ったと耳にしております』


シシールの言葉に、身体中の魔力が反応し静かなる音と共に周辺が更地となる。小さく砂塵を散らせ視界を遮るも、一瞬のうちに生い茂っていた木々がなくなった。



『ア、アマンダ様!?』


(どうしよう、どうしよう。興奮するわ、思わず力を無駄に使ってしまった。でもどうにも止められない。だって、だって―――)


「こんなに嬉しいことは、なくってよシシールッ」


『―――え?』


「だってそうでしょう!?命を絶った、それは悲しいことだわ。でもね、それだけ私を愛していらっしゃったのよきっと!私と会えなくなって寂しくって、そして私の後を追ってくださったのでしょう?もう、早とちりさんなのね彼は。私は死なないのに!でもいいわ!やっぱり最終的には私を愛してくださっていたのだもの!」


止まらない、興奮が、喜びが!火照る身体を冷たい風が冷やすけれどもそれだけでは全く意味がないかのように私の身体は歓喜する。



「ならば私もその愛をしっかりと返さねばいけないわよね?今からでも遅くはないはずよ、ハロルドゲイル様の魂はめぐっているわ!彼の子孫に早く会いたいわ!きっと私たちまた恋をするの、今度は誰の邪魔も、隔たりもない!行きましょう、愛を育んだあのお城へ!」



待っている、きっと私を待ちわびている。そこで、ふと気が付く。そういえば私の駒がまだ彼の傍にいるではないか。いくら操っているとはいえあの娘に流れる血は穢れた血。これは忌々しき事態だと冷静になる。



(どうやって始末しようか。折角手に入れた極上の駒、でも彼の傍にいると穢れが移ってしまう。――――そうだ、いいことを思いついた)



口角がゆっくりと上がる。目覚めたばかりだというのに本当に私は賢いと自分をほめる。シシールを見て、命令する。



「魔女狩り、しましょう?ここ最近、魔物が多いわよね?きっと彼女たちの血が流れているせいよ、シシール…お願い」


『―――御意』



私の言葉と共に、シシールの身体から影が伸びる。そしてグニョグニョしたりグチュグチュした音を出し始めた。シシールの全身から緑色の液体が流れ出し、次の瞬間パンッと影が飛び散った。


≪ギギギッ≫


陰から生まれたその奇怪な何かが私の足に付着した。なんと悍ましい姿か。優しく手に取り悪臭を放つ口のようなところにキスをする。そして――――


グチャッ


「あら嫌だ、魔物だわ。滅しなくては」


私の手から緑色の液体を垂れ流し原型を失った魔物は、少し魔力を込めればすべてなくなった。


(あの娘もまた分血、ならば処罰の対象になるわ。私が向かうまで彼の傍にいて私の目となり、そして死ねばいい。なんて妙案かしら)



シシールが、大量の魔物を生み出したからか、疲弊している。ゼイゼイと肩で息をしている。随分と頑張ったようだけれども魔力が枯渇しかけている。陰の精霊シシール、でももう使えそうにないわねぇ。



「シシール、ご苦労様。あらあら大丈夫?随分と疲れているじゃないの。少し休みなさい」


『あ、ありがたきお言葉で―――』


ザシュッ


シシールの言葉は最後まで聞き取ることはできずに首と胴が離れる。ゴトッっと鈍い音がして血飛沫と共にあの香りが漂う。


「私の力が完全に戻ったらまた作ってあげるわ、だからおやすみなさい?シシール。―――さて、早いところこの森を出て会いに行かなくては。」



そう言って、その転がっている頭を踏みつけた瞬間。全身が震えるほどの悪寒を感じた。私の防衛反応がその足元の頭を散りにした。


「こ…れ、は」



なんだ、この寒気。尋常ではない殺気。これを私は知っている、知っているぞ。


東の方から清い水の音が聞こえる

北の方から命の息吹を感じる

南の方から荒々しい熱を感じる

西の方から吹雪と共に力強い音が聞こえる


(――――そして、よく知った諸悪の根源。時の魔女!お前のいっそ恐ろしいまでの魔力を感じる!!)



「そうか、やはり生きておったかリアンの娘。分血などどうでもよい、本体が出てきたのであれば関係ない。お前がわたしが殺した魔女を蘇らせたか。だがその代償は重い、何を支払った?―――急がねば、奴らより先に力を。取り戻さねば」



背後から、左右から、正面から、上下から感じる気配を無視しながら森を後にするために足を進める。


私が封印から解かれたすぐ後にお前たちまで、とはなんと運命とは恐ろしいものよ。これが世界の均衡というやつか。


どこまでも邪魔をしてくれる。忌々しい魔女達め…



「まずは、私を待ちわびているに違いない彼の元へ―――」



ゆっくりと息を吐き

心を鎮め

精霊と心と目を通わせる


『集え、永き眠りは終わった』


言葉と共に更地となったその更に周りが炎が灯る



大粒の雨が降り注ぎ



更地の場所から命が芽吹く



闇夜の空に走る雷 


それらはすべて、私の子


何も知らぬ、可愛い我が子


唯一知りえた陰なるあの子は今はいない




≪≪≪≪おお、我らが王よ。お呼びでしょうか≫≫≫≫



従順なる我が子達。私のために頑張っておくれ?


私の名前?そうね、アマンダ・ルゼットと呼ばれていたわ。昔?そうね、五つの力とも呼ばれていたわ。


嗚呼、それとこんな呼ばれ方もしていたわね



――――精霊王。


この世界の柱であり、源であり、理。ありとあらゆる精霊を生み出し、世界を豊かにする存在。でも世界は豊かになりすぎた、だから減らそうと思った。この世界にさして益を齎さないであろう屑のような人間だけを。それを邪魔して、私の考えを阻んだのが魔女。


世界の秩序を護るために、私は考えたのに。彼女たちはそれを否定した。数を減らす前に与えすぎた恵みを少しだけ抑えようと言ってきた。それでは私が悪者みたいじゃない?私が豊かにし過ぎたから悪いんだと言っているようにしか聞こえなかった。


でも、ハロルドゲイル様も一緒に考えようと言ってくれた。だから契約したわ。勿論彼は有益な人間よ?なのにどんどん魔女と同じようなことを言い始めてそれで…


まあいいわ。あまり嫌な記憶は思い出すものじゃないわね?そうそう、それで私でしょう?だから精霊王よ、精霊の王様。女王様ではないかって?それもそうだけれど性別は特にないから、男とか女とかの概念が私にはないの。


ただほかの力を持つものがみんな女だったから、女なだけよ?



え?私の好きな人?決まってるじゃない、ハロルドゲイル様だけ。


じゃあ嫌いな人はですって?勿論、魔女達よ。邪魔だもの…でもそうね、更に切り刻んでも消える事の無い憎悪する人っていうなれば。



―――――時の魔女、かな。

ここまで読んでくださってありがとうございました

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