表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陛下の専属様  作者: 月詠 桔梗鑾
最終章
144/151

魔女と東王その3


あの後、東王は私たちに部屋を一室与えてくれた。迎賓館という、王宮の隣にある国賓を招いた時になど使われる建物だ。その建物に案内をしてくれた人、この国の宰相だという男性に私は思わず驚きの声を上げる。


「―――そうだったの。貴方の思慮深さは相当ね東王。流石はあの天変地異を驚異的速さで解決しただけはあるわね」


「今思えばあれは貴女様の反撃だったのか。それにしてもトロタノワを知っていたとは一体どういった接点が?」



悔しそうに表情を歪ませる東王。そして先程から定まらない口調。どうにも私が純血の魔女だということに敬意をはらいたいが、どこかで心に矛盾を抱えているらしく時折乱れている。



(別に軽んじられるのは嫌だけれど、敬ってほしいわけでもないから咎めたりはしないけれど)



「私も驚きましたよ、陛下。まさか生きた歴史と呼ばれる高貴なお方に会えたのですから。初めてお目にかかった時僅かに瞳の奥に銀をみましてね。分血とばかり思っておりましたし、曰くつきかと考えましてその時は恩を売るのもいいだろうと情報をただで売りましたが、純血とは…」



そう言って笑う宰相、いや―――情報屋のボルドーその人だった。



「私に免じて、というのはうちの宰相が女性を同伴させたからではなく私の色彩の魔法の奥を見て…ということだったのね。それにしても、何故東王の宰相が今では友好国とはいえ関係のない他国の宰相にそんな正確な情報を与えたりしていたの?」



彼、ボルドーは情報屋としてその情報を買いにくる客に対しよいことも悪いことも吹き込んだのだろう。東王の分身だけでは追いつかないところをうまくカバーしていたのだ。まさか帝国がそれに気が付かなかったなんて驚きだけれど、私を一瞬でも見破れたのならあり得ない話ではない。



(――――一瞬でも、見破れた?)


この現象には覚えがある。と、ボルドーに視線を向けた。そうだ、そういうことなら辻褄が合うではないか。私の考えを確信に変える、ボルドーは微笑みながら事の詳細を話始めた。



「アッシュ・ランウェイという偉大な先祖が私の家系にはおります。以前の名はアッシュ・ペトリュス・ボルドーという名だったそうです。さる高貴な御方から新たな名を与えられランウェイと改名されましたが彼には子供が二人おりました」




アッシュは、元は北国出身の貴族だったそうだ。アネッサ姉さまがそんな彼の才能を見出し私の護り人としてつかせた。その時その証として魔女が自ら加護の意味も含めて名を改名する。改名する前に既に子供が一人いたそうだ。そして改名した後にもう一人、計二人の子供がいた。



つまり、先に生まれた方の子供はその後ボルドーの名を継ぎ、後に生まれた方の子供はランウェイの名を継いだということになる。その後何代にもわたり血を絶やすことなく今まで脈々と続いてきた。




アッシュの子孫だから、私の中の銀をみた。でも魔女の加護は備わったランウェイの子孫ではないからあの能力を使うことはできず私も気が付かなかった。そして、名は違えどその血を受け継ぐ者が自分を知らずに頼ってきたのだとしても自国の不利益にならない程度で支えたのだろう。



「そう、貴方アッシュの子孫だったのね。私たち魔女の加護はランウェイにのみ作用されるから貴方には気が付かなかった。それでも、生きていたことに私は感謝するわ。生きていてくれてありがとう」


笑って声をかければボルドーはくしゃりと笑って頭を下げた。言われてみればそんな笑った顔がどことなく似ているかもしれないと思ったのは冷静になって部屋で休んでいる時だった。彼は、可愛らしい貴女様に言われるとなんだかむずかゆいと言っていたがこれでも彼よりは長く生きているので甘く見ないでほしいと少し思ったものだ。



「トロタノワ、どうやら身内には甘いようだが魔女云々の件はこちらまで回ってきていないようだぞ?少し話し合う必要があるな?」



「陛下、流石に一瞬銀をみて分血だろうと推測したとはいえ相手は魔女です。勿論陛下に仕える身、忠誠心はございますが世界とは魔女に重きを置くものです。更に言えば分家とはいえ我が家系も護り人のそれに連なるもの、でございますよ」



やや拗ねた表情の東王に対し、苦笑しながら対応する宰相。ある種の上下関係など捨て置いたまるで親子の様なその光景に私も口をはさむことなく苦笑するしかなかった。



「ですから、それも踏まえて早く事が解決されればと願ってやみません。私の数少ない友人の忌まわしい汚名を取り除くためにも貴女様の魔法の力は必要ですから」



ボルドーの瞳に復讐の色が見え隠れする。その様子を今度は東王が静かに見守っている。友人の汚名、それを晴らす為に彼は情報屋として情報を売り買いしていたのだとそう言った。



「今はその友人の娘が北で頑張っていると耳にしていますからね。どうやらあの時流した情報は間違いではなかったと安堵しましたよ。きっと貴女様も手を貸してくださったに違いない。感謝いたします」



「さて、私が直接かかわった人なんて数少ないのだけれど…娘?もしかして」



「はい。現在は北王の右腕としてその頭角を現しているアンナという女性です。以前の名は確か…」



「レイム・アルバート」


アンナさんの仮の名はそれだ。言えば、ボルドーがそうですそうですと力強くうなずいた。――――世間は狭い、それも随分と。



「あの子は随分苦労をしました。あの子の父は元は貴族でしたが濡れ衣を着せられてその地位はどん底、下された判決は死罪。それでもあの子が今幸せなのは、あの子の姉のおかげでしょう。人知れず妹を護っていたことを私は知っていました。知っていて、彼の友人であったはずなのに手を差し伸べてあげることはできませんでした」




彼の懺悔にも似た、悲痛な真相を私はずっと静かに聞き続けていた。だがどうしても私は今聞きたいことがある。喉の奥で魚の骨のように引っかかり頭を悩ませていたその原因が今、目の前にあるかもしれない。



ギュッと握りしめた手を、隣にいたフレインがそっと握った。視線をボルドーからフレインに向ければ、黄褐色のその瞳が冷静になれと訴えている。


「その、友人の名を教えて」


震える声を抑え、感情を隠しボルドーを見る。不審そうにしながらも、彼は口を開きそして言った。



「――――エヴァン・ティクスと、言います」


「エヴァン…西の言葉で雹を表す名ね。その友人の伴侶、夫人の名は?」


「フローラと名乗っておりましたよ。西でも位の高い地位にいた貴族の家系とは聞いていました。名高い西の護り人の家系と…。しかしこちらに嫁いで夫と対の名のネーヴェを入れておりましたが。」



ボルドーのその一言に、私は完全に頭が真っ白になった。その名を一度聞いたことがあった。あれは何年前だったか…久方ぶりに同胞を見た時彼女はそう、名乗ったではないか。



久しぶりの同胞だったのにすぐにどこかへ居なくなるというから寂しい思いをしたものだ。彼女は確か最後に私に問いかけたな。そのあとは随分と顔色を悪くさせていたっけ。…あれはなんだった?



―――――――五つの力とは、なんでしょう



五つの力とは、隠語だ。私たち魔女についている仮の名。真名を明かせぬがゆえに呼びやすいようにといつからか民衆がつけた名だ。



最初から、気づいていたではないか。もしかしたら、と。最悪の結末を予想しだが違うと思い続けてきた。証拠はあっても、理由が伴わないからだ。



それは今でも同じだ。だが、そいつであるという確証が得られた今理由など必要だろうか?300年だ、そして今なおこの世界を引っ掻き回しているそいつ。



「―――――悠長に構えている暇はなくなった。このままでは300年前の災いが再びこの世界に降りかかる。」




がらりと変わった私の雰囲気に、ボルドーや東王をはじめ精霊でさえも息をのむ。だが、それを心配してやる余裕が今の私にはなかった。



「多少手荒な真似をしてもいい、力を」


全ては繋がっていた。見えない一本の細い糸で。本来ならばどこかで切れていただろうその糸は、しかしあらがえぬ運命によって繋がっていた。



「――――許さんぞ、アマンダ・ルゼット」



(いや違うな…お前の名はそれではないか)



ボルドー、はい。

詳しくは活動報告にて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ