城の庭その2
エルダンと名乗ったその男は誠実そうでとても自然を愛する男だった
彼が庭を弄っている姿を後ろで見ながらそう思った
「ミアさんはいつからこの王宮の騎士になられたのですか?」
エルダンさんがパキっと花を切りながらそう言った
ここの花全部エルダンさんが手入れしているのかしら...
「本当は明日からなんです私。今日はとりあえずここに慣れるために城を散策していました」
そう少し恥ずかしそうに言えばエルダンさんも小さく笑った
その笑顔に裏がなくてこの人は綺麗なんだなーって思った
「それはそれは、では明日から大変ですね」
「えぇ、怒られないか心配です」
会話をしていて思ったことは
この国では女騎士もそれ程珍しくはないみたい
女も騎士だなんて勇ましいわね
「きっとミアさんなら大丈夫ですよ。」
チラリと横目で見られた
少し顔が近かったせいで私が顔をそらせばエルダンさんはまた笑った
からかったのかしら
「すいません、実は私も先日庭師になったばかりの未熟者ですので...これはお恥ずかしい。偉そうに貴女に言う割には私もまだまだなんですよね」
....え?
「え、あっと....そんなに変わらないのですね私達」
急に言われるから言葉がどもってしまった
そのくらいびっくりしたんだもの
だって口調からしてもう何年も働いているかのよだったから
「そうなんですよね、大して変わりません。改めてよろしくお願いしますミアさん」
花を切り終わったのか籠には沢山の花が詰められていた
色とりどりの花は本当に綺麗
「もう、してやられましたわ...よろしくお願いしますエルダンさん」
笑顔でそう返した
その詰められている花の中に....一輪だけ混ざりこんでいる猛毒の花
(笑顔で優しそうでも怖いわねー人間って)
綺麗な花に埋もれて一輪ひっそりと目立たない小さな花
でもその花は有名な猛毒を花弁に潜ませる毒花
触れば触れた先から腐り
近くで匂いを堪能すれば意識が飛ぶ
お茶なんかに飾りで入れれば即死ぬような....ね
「本当にお綺麗な花ですわね」
私はわざと籠を見てうっとりと眺めた
するとエルダンさんはさりげなく私からその籠を遠ざけた
私は匂いを堪能するような恰好になったからだ
この反応は間違いない
「そんなに近づかなくともほら....」
そう言って一輪適当に綺麗な花を私に差し出してきた
これも十分綺麗
でも...興味があるのはそれではないのよエルダンさん
「ふふ、失礼しました。でも、私その小さな白いお花がとても気に入って....よろしければ私にも一本下さいませんか?」
ニコリとエルダンさんをみて笑えばエルダンさんの顔から
優しい表情が消えた
「この花をご存じなのですかミアさんは」
エルダンさんの目線がふいにその白い花に向けられた
「...いいえ?どんな花なんですか?」
あくまでしらばっくれる私
エルダンさんは私をみて小さく笑った
「この花はとあるお方に献上するとても大切な花なのです、ミアさんにも差し上げたいところなのですがそのお方にお渡ししなければいけないので....申し訳ありません」
とあるお方...
誰でもいいけどね
深入りするなと言っている目で私を見るものだから
私もそれ以上聞くことはしなかった
「あら..日が暮れてまいりましたわ、そろそろ私も失礼しますわねエルダンさん。今度お会いしたときにでもまたお話できれば嬉しいです」
私から別れを切り出せばエルダンさんも
多少残念そうな顔はするもののどこかほっとしたよう表情をした
「こちらこそ、今度はミアさんに似合う花を切って渡しますからね。そでれは失礼します」
(私に似合う花?それは嬉しい)
私が笑えば意味が伝わったのか
エルダンさんは小さく頷いた
そうして私はエルダンさんを残して庭を後にした....
あの花は誰に送るものなのか
本来あの花はこの帝国でしか栽培されていない
各国には指定された花が存在する
この国の指定された花がその白い小さな花
一見引き立て役にしかならないような花だけれど
人を殺すのには花弁一枚で殺せるほどの猛毒だ
危険だから栽培されているのは王宮の地下....だった気がする
多分だけどね
そんな花を数日前に働き始めた庭師が手に入れられるような品ではない
誰かに渡す...?誰かに頼まれたのだろうか
まぁ私は誰が死のうとどうでもいいんだけどー
さっきの庭師は確かに気になるけど
さらりと躊躇いもなく嘘を言う彼も面白いからそっとしておこう
そのあと私はぶらぶらと散策して
再び陛下の執務室の所へと行くのでした
この花も後々重要..かも?
ミアンちゃん案外残忍なんです
ぶりっこにしたいんだけどね!