合流
「―――で、この状況は」
「見てわかるでしょう、私もあちらへ向かうのですよ」
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あの後、いつの間にか寝てしまった私は太陽がすっかり昇ったころに目を覚ました。慌てて支度をして隣の部屋へ行ってみれば、またしてもロードさんの手料理をいただいてしまった。
一通り食事を済ませると、ロードさんが行きますよと声をかけてきた。リュヴァーの元へと案内してくれるのか、そう思いつつロードさんの服装に若干の疑問が残っていた。
(普段の動きにくそうな豪華な服装じゃ・・・ない)
以前私と北国へ向かう際に着ていた様な軽装だった。これはあまり深く突っ込まない方がいいと判断して、もしかしたら今日は仕事はお休みなのかもしれないという無理やりな理由を頭で考えていた。
が、現実は甘くないらしい。リュヴァーが待機している場所に向かうと、そこには二体のリュヴァーが。なぜ二体必要なのか、そして私の隣でニコニコしているロードさん、その服装と手荷物が一つの結論へと導いた。
素直に認めたくないので、一応確認してみたりした。その結果が、冒頭のやりとりである・・・チッ。
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「昨日の笑顔の真相はこれだったか・・・」
「何か言いましたか」
「イイエ、ナンデモアリマセン」
上空、雲の上にて飛行を続ける。隊列を組むことはなく平行に並んで飛んでいる状況だ。昨日のことを思い出してつい声に出してしまったが、この風を切りながら飛んでいる最中であるにも関わらず私のボヤキが聞こえてしまうとは、私の声が思いのほか大きかったのだろうか。それともただ単に耳がいいせいなのか・・・。
前回陛下達と隊列を組んでいた時は、不穏な気配を感じたが今回はそのようなこともなく、順調に南国へ入ったことをあの生暖かい風が教えてくれた。
「街が見えてきましたね、降りますよ」
ロードさんの言葉と共にリュヴァーは下降を始めた。そして再び南国への入り口の門までたどり着いた。一瞬、この前の門番がいて私を覚えていたら厄介だと思ったが、幸い門番は違う人間だった。
前回同様、帝国の使いだという証を見せ無事入国を果たした。さてここから陛下のもとまでどうやっていくかが問題だ。とりあえずロードさんについて行こうと思いロードさんを見る、と何故か目が合った。
(も、もしかして)
「では、陛下の元へ向かいますよ―――ハニー」
「・・・はい、わかりました――――っ、ダーリン」
そろそろ、この流れを本気でやめにしたいなぁ・・・ロードさんに手を引かれどこか遠くを見つめてしまったのは仕方のないことだと思いたい。
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王城へ向かう途中、必然的にその手前にある立派な神殿コルデリア家が目に入る。しかし私が目にしたのは・・・
本殿である神殿は特に変わった様子はなかったが、その奥リリンがいた離宮と呼ばれる場所が―――崩壊していた。
(フ、フゥ君・・・もしかしてあの部屋の魔石の力を使って魔法を)
コルデリア家周辺では復旧工事が進められているのか少し慌ただしい。あの第四騎士隊はこの周辺にはいないようだが、離宮が崩壊したとあって人々も不安そうな表情をしていた。
このことにどうやら国はそこまで干渉していないようだ。騎士は配備されているものの私がニーナ嬢に恨まれているとだけあって国際手配でも受けるものかと思っていたが、今のところそう言った様子は見られない。
国王にはソレイユさんの死は伝わっているだろう。もしかしたら、いまだ国民が普通通りの生活を送っているのは、国民には知らされていないからなのかもしれない。
何はともあれ、ニーナ嬢が変な動きをしていなくてよかった。ある意味あのタイミングでフゥ君が魔法を使って離宮を崩壊したことで時間を稼いでいるのかもしれない。
ロードさんは、何も言わずにその崩壊した離宮と、手前にある大きな神殿を一目見て一瞬何かを考えたかのようなそぶりをした後再び王城へ向かって歩き始めた。手を引かれているので、私もその場から立ち去ることになる。
崩壊した離宮をしり目に、リリンも今頃は成すべきことをしているのかもしれないと、そう思った。
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ガシャン
王城の門へとたどり着いたが、両サイドにいる門番兵にそれは見事に止められてしまった。それもそのはず。
第一に、服装が軽装すぎる。私たちはリュヴァーに乗ってそのまま来たので正装はしていなかった。第二に、供がいない。私とロードさん二人だけで王城の前にいる。そしてこれが最も重要、第三に――――
――――私たちは、いまだに手をつないでいる。そう、これが一番の止められた原因だと私は思う!
「失礼ですが、来る場所をお間違えでは」
「ここは由緒ある貴きお方と、許されたもののみが入るのことのできる場所。ふっ、商人だかなんだか知らないがここはお前たちを相手にする者はいない、他を当たってもらおうか」
私たちを見て、兵はそう言って追い返すそぶりを見せた。まあ、商人としては些か荷物が少なすぎる気もするが、たぶんロードさんの見た目だろう。服装は軽装であれど、平民には見えない。かと言って貴族にしては供が少なく服装も地味だ。となれば他国のかなり儲けている商人となるわけだ。
「ああ、失礼。ここに身分証を・・・」
そう言ってロードさんは何かを兵に手渡した。それを見て、ぎょっと目を見開きロードさんを凝視した。
「確かにこの場にこの格好は大変失礼かと存じてはおりましたがこちらも急ぎのことと我が王からの指示。この無礼は後程南国王へ―――既に我が王から私どもがここへ来ると伝えてあるとのことでしたが、何やらここへ来る途中崩壊した建物が見えました。慌ただしいゆえにきちんと伝達されなかったのやもしれません。我々はここで待機していますのでその間に取り次いでいただけますか」
(ペラペラと、随分と嘘が出てくる出てくる。流石外交のプロ、陛下の側近宰相だわ)
確かに見た目は残念なのに、なぜか圧倒されるものを感じる。兵もそれを察したのだろう、一人が大慌てで中へと入っていった。もう一人は先程の自分の言ったことを思い出し真っ青になっていた。
数分後、よほど急いだのだろう。息も切れ切れに兵はやってきて入城を許可した。陛下のいる部屋まで案内してくれる女官まできちんと手配されていた。王宮の中は、赤を基調とした内装だった。北国の状況とは違って、王宮内での不穏な動きはないので帝国同様豪華で美しい内装が施されている。
既に王宮内には私たちの存在も伝達されたようで、すれ違う人々には深く頭を下げられた。勿論私たちを案内するのもこの国の女官長だそう、こんな見た目だがきちんと国賓として扱ってくれるようだ。
「こちらでございます。お二方のお部屋はこちらのお部屋の隣に設けてございます。御用の際はお部屋に入ってすぐの机の上にあるベルを、お手数ですが二度ほど鳴らしてくださいませ。ここまでの案内を、王宮女官筆頭ルチノー・ヴェルンガが担当いたしました。どうぞごゆるりとお寛ぎくださいませ」
そう言ってルチノーさんは深々と頭を下げて、目の前にある陛下のいる扉を開いた。洗練された動きに、リリーも普段はこうだもんな、と思った。
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「…心配しましたよ。それはもう、あの神殿をすべて壊しつくして貴女様を探しに行こうと思うくらい」
陛下に止められたので、渋々ここで貴女様が来るのをお待ちしておりましたが。開口一番、リリーはあの時の比ではないくらいそれは恐ろしい顔で私を見てきた。
流石のロードさんも何か感じるものがあったのか繋がれていた手を咄嗟に話して陛下の元へ静かに向かった・・・裏切り者がっ!!
近くにいるあの少年、ナギは憐みの目を私に向けてきた。この様な経験があるからなのだろう。確かにこのようなお叱りを毎度受ければあのような恐怖も湧くものだと納得してしまった。
「そのくらいにしておけ、お前も反省しているようだしな。」
仲裁に入ったのは、書類に目を通していた陛下だった。蒼い瞳をこちらに向け目を細め静かに笑いかけてきた。だがその目は、反省しているよな?そうだよな?反省しないわけないよな、この俺にリリーを引き留めるという煩わしいことを押し付けたのだからな?とでも言いたげだったが・・・
(本当に、やられ損)
「陛下、ご迷惑ご心配おかけして申し訳ありません。リリーも、心配かけてごめんなさいね」
頭を下げ陛下の元へ向かう。いつの間にやらロードさんは魔法で着替えてしまったらしい。そんな技があったのかと、驚いた。あの軽装から、この場にいてもおかしくないきちっとした格好になっている。おおう、場違いな服装は私だけのようだ。
といっても私は騎士服なので、リリーにあの白いローブを肩にかけてもらった。これで一応、身なりは整った。
「大方の事情はリリーから聞いた。が、随分意見が食い違う結果となりそうだな。詳しく報告しろ」
既にナギ少年が音を遮断する結界をこの部屋一帯に張っていたようだ。これで心置きなく内密な話ができるというわけか。
鋭い眼光が私を捕える。私は深く息を吐き出し、事の詳細を話し始めた。陛下と別れて約一週間、漸く合流し、事の顛末を話す事となった。
三日ぶりの更新、申し訳ありません。
話が全然進んでなくて、面白くないと思われるかもしれませんが、どうか拙い文ですが読んでくだされば幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。