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陛下の専属様  作者: 月詠 桔梗鑾
第6章
135/151

一つの決意

再び意識が覚醒したのはすっかり日も沈んだ夜。扉の下、ほんの隙間から光がこぼれている。たぶん隣の部屋でロードさんが何かをしているのだろう。時折紙の様なものをめくる音が聞こえてきた。


(こんな時間まで仕事しているのねー。流石宰相)


感心していて、はたと思う。もしかしたら、怪我人である自分がここにいるせいで彼が眠れないのではないだろうか、と。それはいけない、眠ったおかげで気力も思ったより早く回復した。まだ少し頭がぼーっとするけれど寝起きのせいでもある。


静かにベッドから出て、扉へと向かう。そして扉を開けた先で、ロードさんが机で書類に目を通していた。よほど集中しているのだろうか、私が少しづつ近づいてもこちらに気づく様子はない。



「―――あの」


「!?・・・ああ、目が覚めたんですか」


(そんなに驚かなくても)


逆にこちらが吃驚するような反応を見せてきたロードさん。秘密文書かなにかなのか、その書類が机の引き出しへ素早くしまわれてしまった。そして立ち上がりこちらへと近づいてくる。


「体の具合はどうです」


体調が万全かどうか、目で確かめてくるロードさん。全身をゆっくり見られるのでなぜかいたたまれない気持ちになった。


「だ、大丈夫です。すっかり良くなりました」


「本当ですか?では、こちらへかけなさい。聞きたいことがあります・・・と、その前に何か胃に入れなければなりませんね。ここへきてから殆ど何も口にしていないでしょう。今何か作ってきますからそこで静かに待っていてください」


ひらりとマントを翻し、颯爽とどこかへ行くロードさん。あれ、もしかして貴方が作るのですか?―――え、ええ!?


―――――――――――

―――――


「どうぞ」


「い、いただきます」


数分後、私の目の前に出てきた数々の料理。王宮専属のシェフが作ったようなもの、ではなく家庭に出てきそうなごく有り触れた料理だ。しかし綺麗に盛り付けられ、良い匂いが食欲をそそる。


さあ、と目で食べるよう促されたので手前にあった料理から手を付ける



「あ・・・美味しい」


「でしょう。少し時間が遅いので口当たりよく、重くならないよう作りました。残さず食べなさい」


ロードさんが少し喜んでいるようだった。それにしても、この短時間でよく計算された料理だと思った。一口、また一口と食べ進める。食後にはフランのお茶が、やはり蜂蜜入りで出てきた。至れり尽くせり・・・まさに今の状況を言うだろう。



(一国の宰相に、給仕をさせているなんて・・・。)


そう思いそっと後片付けまでしてくれたロードさんを見る。と、視線がぶつかった。何か?と言ってきたので咄嗟に答える。


「とて、とても美味しかったです。いつからご自分で料理をするように?」


「随分と昔からですよ。幼い頃旅をしていた時に自分で作らなければ美味しいものは食べられないと学びましてね・・・ええ、それからですよ」


どこか遠くを見つめながら話すロードさん。どうやらその旅の思い出はあまりよろしくないらしい。それにしても旅だなんて、そんな幼少期が彼にもあったのかと驚きだ。なんとなくだけど、ロードさんは小さい頃から部屋にこもってひたすらお勉強だとか言ってそうなイメージだった。


「ところで。そろそろ本題に移っても?」


「―――はい」


真剣な眼差しで私を見てくるロードさん。一瞬の隙をも与えてくれないだろう、動揺は即ち是であり否であると彼なら一瞬で理解してしまう。


「まず、あの怪我はどうしたのです。見たところ・・・いえ誰であろうと貴女を見てこう言うでしょう。この死体はなんだ、と。相当腕に自信のある治癒士でなければ匙を投げていたでしょう。幸いにして私の得意とする魔法は治癒。貴女を万全な状態まで治すことができましたが、私でも治すのに一晩かかりました。普通なら数分、重傷で数時間程度なのに、です」



貴女にあれほどのけがを負わせるなど、相当の殺意があったと見て取れましたがさて誰でしょうかね・・・そうそう言って私を見てきた。いきなり核心をついてきた。まさかニーナ嬢だとは口か裂けても言えまい。



「―――、魔物に襲われました」


「ほー・・・魔物、ですか。では仮に魔物に襲われたとして、どうやってここまで、しかも誰にも邪魔されることなく私の部屋に来れたのでしょう」



(明らかに疑われてる、しかも嘘だと知ったうえで話を展開させてきたっ!苦し紛れについた嘘でさらに嘘をつかなければならない状況になってしまった)


その長い脚を優雅に組み、薄ら笑うロードさんが恐ろしい。



「―――、リュヴァーが運んでくれました。この部屋へたどり着いたのは、偶然です。」


「リュヴァーが、貴女をねぇ。穏やかな性格ではありますが、主人でもない貴女にリュヴァーが危機を察知して助け、しかもここまで連れてきて、大層な傷を受けたまま命からがらこの部屋にたどり着けたと、仮に信じたとして、そのリュヴァーは今どこに?」



「――――ふ、再び陛下のいる南国へ戻り、ました」


言い訳がどんどん苦しくなっていく。一言一言否定するのではなくあえてすべて信じたうえで話が進んでゆく。もう、誰が聞いたって、え・・・それ嘘でしょとわかるレベルの嘘。


(く、苦しいわ)


「それはそれは。優秀なリュヴァーのようだ。で、他に貴女から言いたいことは、ありますか」


断定的な最後。その言葉を聞いて、無駄に嘘をつくのはやめようと素直にロードさんに向かって謝罪の言葉を口にする。



「申し訳、ありません」


私のその一言に、ロードさんは静かにため息をこぼすだけだった。追求することもなければ放っておくこともなく、ただ静かにため息をこぼし私を見た。


「―――何か、言えない理由があるのならば今回はまあ見逃しましょう。陛下に何かあったとなれば私は貴女が口を割るまで責め立てねばなりませんでしたが、幸い陛下に何かあったわけではないのでしょう?南の護り人との一件も理由はわかりませんが何かあった様子でしたし、いいでしょう。」


ロードさんは、そう言って苦笑した。仕方がないな、と結局許してしまうアッシュのその表情に、そっくりだった。



「貴女は、魔物に襲われ、危険だった状態なのをリュヴァーによって助けられ、そのリュヴァーによってここまで連れてこられ、運よく私の部屋を見つけ入り、ここへ来たリュヴァーは賢い頭脳で再び南国へ帰った・・・のですね?」


「――――は、い」


「よろしい。では、無理をさせましたね。もう休みなさい。どうせ明日にはまた南国へ行く予定だったのでしょう?」



その通りだ。むしろ今からでも行こうと思っていた、ロードさんに挨拶をしてリュヴァーを借りて・・・。フゥ君の方が速いけれど突然いなくなってしまっては余計に怪しまれる。そう考えた。だが、ロードさんはそんな私の思考をまるで読んだかのように言った。頷けば、ロードさんはあの、怪しい微笑みをその顔に張り付けた。


「そうだと思いましたよ。こちらでリュヴァーの準備は済ませておきますから貴女はもう休みなさい。ほら、明日は早いのですから」


笑顔の真相が分からないまま寝室のある部屋へと促された。そうだ、ロードさんはどこで寝るのだ。と聞けば―――


「貴女の隣で眠りましょうかハニー?残念ながらまだ仕事が残っておりますし、それにここ以外にも来客用の部屋がありますからご心配なさらず。―――嗚呼、もしかして寂しかったのですか?それならば仕方ありません、仕事が粗方終わり次第行きましょうか?」


「―――結構です!!」


―――――――――――

―――――


(なんだ、変わらないじゃないの!腹が立つわね)


神経を逆なでされるかのごとく、ロードさんの言葉にはいちいち引っかかるものがある。勢いよく扉を閉めてベッドにもぐりこむ。



ガチャン

鍵が閉まる音がした、たぶんロードさんがリュヴァーの手配をするためにどこかへ行ったのだろう。煩わしい人だが、こういう優しさがあったりするから嫌いにはなれない。



何をすることもなく、天井を見上げる。明日には再び南国へ帰る。そしてリリーや陛下の待つところへ行く。きっとリリーにはたくさん心配をかけてしまっただろうが、陛下なら気づくだろう。


契約者は、契約した者の生死がわかるようになっているのだから。もし下手にリリーが行動しようとしても陛下がそれを止めるので、リリーとニーナ嬢の接触はないと信じたい。



「ニーナ嬢、か」


≪ああ、その女なら俺が死ぬ寸前まで追いやったぜ≫


「・・・え?」


ガバッ

勢いよく起き上がる。何やらいつの間にやっちゃった子がいるらしい。漸く現れたフゥ君がどうだ俺凄いだろうと言いたげな得意げな表情をしていた。


「な、なんてこ・・・いや、違うわね。私の代わりにやってくれたのね、ありがとう」


≪おう≫


折角私が痛い思いして我慢をしたのに、そこまで思って、目の前のフゥ君の先程の心が締め付けられるような台詞を思い出してしまった。彼らだって憤りを感じているはずなのだ。彼らは何もできない私に代わって行動をしてくれたのだ、感謝する理由はあれど怒る理由など、どこにもあるわけがない。



それに――――


(こんなに嬉しそうに照れ笑いするのだから、ね)


ソレイユさんとの約束があるため、流石に殺していたらそれは多少なりとも怒ったかもしれないけれど彼なりに加減はしたようだ。


≪まあ、弱い奴は数人死んだかもしれないけど≫


「―――そ、そう」


それも運命だと、というよりどれだけの規模の魔法を使ったのか、後処理は大丈夫なのかという方面が心配になってきた。



ニーナ嬢、彼女を救うためには・・・私はそこで一つの決意をする。必ず救える必勝法が、これは確実だろうといえるもの。絶対に失敗はしないと言い張れる、その方法。



(―――陛下の血を、どうにかして貰うしかないわね)


私は、南国へ行って滞在していられるわずかの時間の間に陛下の血を、手に入れなければソレイユさんとの約束は果たせないだろうと確信した。



――――――この決意が、後の負の連鎖へと繋がっていく。

さて、ここまでくればもしかして・・・お気づきになられた方多数いらっしゃるかもしれませんね。


新しくまたいくつかの布石を敷いておきました←

もうすぐ400万PV、だと!?皆様の支えあってのこの作品。ここまで読んでくださってありがとうございました

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