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陛下の専属様  作者: 月詠 桔梗鑾
第6章
134/151

休息

この話は視点が切り替わる場面があります。注意してお読みください


息も絶え絶え、やっとの思いで彼女のは俺の名を口にした。遅いだろ、俺は、俺たちはお前を助けたかった。なのになぜ、そんな状態になって漸く呼ぶんだ。


≪っ馬鹿野郎!≫


ボロボロになったミアンに触れる事が躊躇われた。こんなに傷ついたミアンを見るのが初めてだったからだ。それでも、俺はミアンを安全な場所へと連れて行かなければならない。


≪おい、しっかりしろ!安全な場所?なんだよそれ、安全な場所、森か?≫


気が動転していて、冷静に働かない頭。しかも安全な場所なんて、そんな急に言われても、治癒士のいる所か?だがこの傷を見て、死ぬ寸前の奴を前にして匙を投げられるかもしれない。


ふと、この扉に近づく気配が感じられた。ともかくこんな危険な場所から去らなければならない。血に染まったミアンを慎重に抱きかかえ、近くの窓から外へと飛び出す。


だが、ただ飛び出すのは悔しかった。こんなになるまでミアンを痛めつけるあの女を、殺したくなるほど憎らしい。幸いにしてこの部屋には魔石が多くあり魔力を吸収できる。


ありったけの魔力を吸収して、それを力へと変換させる。次々と砂のようになっていき、部屋はがらんとした状態になった。夕暮れの日差しが俺の背後から入ってくる。


≪その罪の重さを身をもって知り命尽きるまで・・・懺悔しろ。この俺が、粛清してやる。―――消えろ≫



体から放出される風の魔力が、外を飛び回る風の精霊と共鳴しあって大きなうねりをあげる。


ヒュウォオオオゴォオ!!!


徐々に力を増していき、その風を小さく圧縮する。圧縮された球体を部屋の中へ放り投げた。微風が吹くだけで部屋に異常は特にない。


バタン

部屋の扉がノックもなく、開かれた―――今だ!



≪弾けろ≫


パンッ!

俺の言葉と共に、その球体が弾け飛んだ。急に聞こえてきた音に、入ってきたものは驚く。次いで、そこに倒れていたミアンの姿がないと、驚いていた。


「あの状態で生きていたか!だが、さほど遠くまでは行っていないでしょう・・・オズウェル!!命令です、今から―――」


(なんというタイミングだ)


殺してやろうと思っていたその女が、次々と入ってきた騎士と思われる男に今まさに命令を下そうとしていた。だが遅い―――既に術は完成している。



ゴゴゴゴォオオオオオ!!!

女の言葉を遮って、地響きのような音、そして激しく部屋が揺れるのが見て取れた。あまりの振動に、立っていられないのか皆崩れるように倒れる


「な、なに!?」


≪せいぜい醜く死ね≫


ドン!!

背を向け飛び立つ背後で、大きな音が轟いた。そして、建物が崩れる音がし始めた。あの時弾けた風は、ここで奪った魔力全てを注ぎ込んで圧縮させたもの。それをあんな小さな部屋で解放したのだ、一瞬にして拡散した風。


なれど、その威力は巨大な台風主凌ぐ風の圧。その風は音もなく、気配すらなく至る所に亀裂をいれた。そして、傷ついた建物が、一瞬の間をおいて崩壊したのだ。


背後で、悲鳴のようなものが聞こえたが・・・瞬く間に崩れる音にかき消された。


―――――――――――

――――



≪急げ、安全な場所へは俺が案内する。ノヴァといったか、俺たちを闇で包んで隠せるか≫


背後で、崩れる音がしても動じることのないもう一人の精霊。ティウォールは迅速に俺たちを誘導する。ティウォールに言われた通りノヴァという精霊が反応し俺とミアンを闇で覆った。


≪安全な場所ってどこだよ!時間がないぞ!≫


≪落ち着けフレイン、この馬鹿が!彼女はお前に願ったんだ!彼女が心配なのは皆同じだ、いいから落ち着いて俺の言葉に従え≫


ティウォールの、焦りと怒りと悲しみが伝わってきた。同じ人から作ってもらった兄弟。それは時として感情をも伝わってしまうらしい。


≪―――どこだ≫

≪それは――――≫


そういってティウォールは、俺を一人の人物の元へと案内させた。その場所は嫌というほど見知っていて、だがこの部屋は知らない。けれど、この気配はよく知っているものだと、あまり好きではないがミアンは彼に対して警戒心を感じなかった。本当に、ここの奴に任せて大丈夫なのだろうか。


≪大丈夫、こいつはひねくれているが心は優しい。それに治癒魔法も得意だ、態々結界に大きな揺れを残したんだ。すぐに気が付いて戻ってくるだろう――――ほら≫



ガチャ 

気配無く、扉が開かれる音が、この部屋の奥から聞こえてきた。近づく気配は知ったもの。どうやら俺の役目はここまでのようだ。


≪目が覚めたら、怒鳴り散らしてやる―――早く目を覚ませ≫


ガチャ

音がして、漆黒の髪揺らめくそいつがここへ入ってきたのだ


―――――――――――――――――――――――――――――――

―――――



頭がぼーっとする

優しい光と・・・この気配、怪我をする度にそうやって直してくれたわね。そして私が目を覚ますと、蜂蜜たっぷりの甘いお茶をくれる。そのあとはお説教だけれど、怒ったような顔をして本当は私を心底心配するその表情が、私は嬉しかったのよ―――アッシュ。


―――――――

―――


「・・・あ、れ?」


懐かしい、夢を見た。夢心地のまま、しかし体は急速に覚醒を始めた。目を覚まし働かない頭を動かして必死に考える。あれ、ここどこ。



「首を傾げたいのは私ですが?」


突然聞こえてきた、聞きなれた声。振り向けばおっとまあ、そこにいたのはなぜかロードさん。―――なぜ?


しかも、首を傾げている様は、妙に絵になっているところが腹立たしい。手渡されたお茶を一口、そこで気づく。



(懐かしい気配がしたのは、ロードさんだったのか。ふふ、それにこのお茶、蜂蜜が入っているわ・・・アッシュより随分若いけれど、似てるかも)


思わず綻ぶ顔に、驚いた様子のロードさん。確かに普段顔を合わせれば棘のある会話しかしていなかったけれど、あの夢と今がリンクしているように感じてどうも素直になってしまう。



お茶を口にしたことで、自身が思った以上に弱っていたことを知る。まず、寒い。なんだこれ、すごく寒いぞ。外傷や内部の損傷は、やれ吃驚。ロードさんが治してくれたらしい。かなり酷い、一般的に死の一途を辿っていた私をここまで回復させるとは、流石アッシュの子孫だ。



暫く休んでいろと言い部屋を後にするロードさんを目で送り、そのまま横になる。この部屋はロードさんの寝室だろうか、フゥ君ってばよくここに連れてきたわね。


「ありがとう、フゥ君。それから、ノヴァとティウォールもね。」


≪―――ざけんな馬鹿、あんな光景ただ見せつけられていた俺たちの気持ち、少しは分かれっ≫


「うん、ごめんね」


フゥ君は、普段なら真っ先に出てきてくれるのに、思うところがあるのか出てこようとはしなかった。代わりにノヴァがベッドの上でちょこんと座っている。ティウォールもまだ姿を現すまで回復はしていないようだ。



≪ひとまず、意識を取り戻してよかった。でも、あの馬鹿の言うことは正しい。心配しましたよ、あんな惨い光景、二度とその命を安いものだとお考えにならないでください。死なないとはいえ、痛みは覚えているものです≫


「軽率な行動よね、心配してくれてありがとう」


冷静な口調で咎めるティウォール、まだ弱り切っているのに心配させてしまうとは…痛みは覚える、か。あの殴られる振動、斬り付けられた感覚は治癒されても忘れることは確かにないだろう。



≪彼もああ言ったんだ。今は、休まないとね≫


何も語らず、私を見上げるノヴァ。この子は私の闇を見てしまったから、何かを言うことはないのだろう。そそっかしく自信のないノヴァが、ここにいる誰よりも実は物事を冷静にとらえているのかもしれない。


「そうする」


ベッドに横になり、重力に逆らうことなくふかふかの生地に身を預ける。ほんのりロードさんの香りがした。


(―――うわ、香りがしたって何よ)


自分の考えに、なぜかいろいろな思考が混ざり合いなんだか眠れなくなってしまった。森に群生するカルネの花のような香りと、僅かな獣の匂い。あ?獣の匂い?そういえば、なんでこのベッドからそんな匂いが?


≪どうしたの?≫

 

「・・・ノーちゃん、一旦引っ込もうか」


多分ノヴァのせいだろう。このままではベッドが獣臭くなってしまう。ここを離れた後ロードさんに獣の匂いがしましたね、なんて言われたら心外だ。


「そういえば、よくここに私を連れてきたわね」


ノヴァを引っ込めて、思い出す。ロードさんがアッシュの子孫だということは彼らは知らない。アッシュが死んだあとに彼らは生まれたのだから・・・



≪ああ、それは・・・≫


フゥ君が言葉を濁した、ということはフゥ君の考えではないらしい。と、なると・・・


≪俺ですよ。少しばかりあの子とは縁がありますからね。もう暫く休まれた方が。見た目は完治していても、心身共に休息が必要ですよ ≫



ティウォールが、意味深な発言をした。気になるので、問い詰めようとするが耳元で水が静かに流れるようなそんな音がし始めた。ティウォールが、少しでも眠りにつきやすくしようとしたのだろう。川のせせらぎは、心を鎮める。


あのお茶の効果が出てきたのだろう、瞼が重い。仕方ない、気になるけれど今は眠ったほうがいいようだ。遅いくる睡魔に身を任せ、再び意識は深く深く、落ちてゆく。


懐かしい気配に包まれて・・・

ティウォールの意味深な発言、だが皆様きっと気づいている。そして若干の伏線回収、こちらも勘のいい人は気づいてしまったでしょうか(/・ω・)/


ここまで読んでくださってありがとうございました

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