囚われの神子その2
「魔女様!!」
≪ヒメサマ!!≫
フゥ君の力でリリーとノヴァの元へとたどり着けば、案の定というかなんというか…捨てられた子犬のような目をしていた。いや、実際ノヴァは体が大きいだけの子犬と大差ないのだけれど…
≪ん、なんだアレ≫
フゥ君がノヴァの存在に気づき、地上へ降りることをいったん止め上空で止まる。見知らぬ存在だが、知る気配に動揺しているのだろう。地上にいるリリーとノヴァは降りてこない私たちを不審に思っている。
「ああ・・・あなたの弟よフレイン。闇の精霊ノヴァ、仲良くするのよ」
≪―――は?何を言って、っておい!≫
フゥ君にだいぶ端折った説明をして、返事を待たずその腕から抜け出し地上へと落ちる。呆気にとられたフゥ君の顔はなんともまぁ間抜けなことで、でも私が落ちたという状況で咄嗟に判断し風を纏わせ私を安全に地上へ卸してくれた。
「魔女様、お説教は後です!!よくご無事で・・・目的は果たせたようですね」
そういって近寄ってきたリリー。心配そうな表情で私を労わる姿はまさに女官の鏡といってもいいだろう。だが、リリーはきっと私にたくさん聞きたいことがあるに違いない。
だって、フゥ君はリリーにも見えていたはずだから。普通の精霊と違ってフゥ君は力が強いから常に具現化し、その姿を保つことができる。フゥ君はあれでも、新緑の精霊と謳われるだけあってその姿は教会やら画集やらで世界中にばら撒かれてある。その存在が上空にあるにもかかわらず、リリーは何も聞いてこない。
それどころか、私を心配し、目的を果たせたと確信している。末恐ろしい女官だと、本気で思う。
(これで、副女官だからなぁ…じゃあ女官長様は、どんな人なのかねぇ)
「私用の目的は果たせたけれど、陛下との約束はまだ。急いで、王都へ向かおう。リュヴァーは・・・」
「既に待機させてあります。いつでも飛べますよ」
指さされた方を見れば、二体のリュヴァーが準備万端にしてそこにあった。近寄れば、一瞬警戒されるもすぐに体を預けてくれた。たぶん、ティウォールに反応したのだろう、気配に鋭いよくできたリュヴァーだと感心する。
「さて、行きますか」
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再び、上空を飛行し王都へと向かう。
何も言わないリリーをいいことに、フゥ君に風の結界を張ってもらい更には風を使ってより速くしてもらった。ノヴァに対する説明に満足していない様子で、お願いしても機嫌がすこぶる悪かった。
「見えてきましたわ」
雲の間、見えてきた白亜の王城。南国もかろうじて栄えているようで目立った貧困は見られない。それでもやはり、国境付近での争いは絶えないようで所々で騎士が団体で街を歩いているのがうかがえた。
「魔女様、コルデリア家への正規の門は王都中心部にあります。どうやって行きますか」
「正面突破」
「―――え?」
私は徐々に下降を始める、そして王都へと入る門の前に降りるようリュヴァーに指示をした。
「そんな・・・陛下からは、コルデリア家を探るようにとの拝命を受けたはずでは。直接向かっては探ることもままならないのでは?」
「確かに探るようには言われたけれど、何も争いに行くわけではないから。拝命を受けた時点で陛下からはコルデリア家当主宛に書簡を渡されているの。だから正面から行ってこの手紙を届ければ堂々と入っていける。そしてあくまで帝国の使者として私たちは内部を探るのよ」
現状を探れ、と言われ部屋を後にしようとしたときに手渡されたものだ。私も最初はどうやって潜入して探ればいいのかと少し不安になったりもしたが、そこはやはり流石というべきか…リリーも、納得したのかそれ以上は何も聞いてこない。
「では、書簡をお持ちなので安心ですね」
「うん、確かコートの内側に・・・あれ」
「ちょ!?無くしたなどとはおっしゃらないでくださいね!?」
「じょ、じょーだんよ。確かこのあたりに・・・」
「え、えぇー!?」
―――――――――――
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リュヴァーとともに無事着地し、正面王都入口の門番に帝国の使いだという証を見せ入国をした。流石に王都ともなると、活気があふれている、あちこちで通行人を止めるような誘惑が軒を連ねている。
「あ、あれは何だろうねリリー」
「・・・」
(あちゃー、完全に拗ねてしまった)
上空での書簡どこに行ってしまったの事件のせいで、リリーは動転しあれやこれやと策を講じていた。実際はコートの内側ではなく外側のポケットに入っていたので何ら問題はないのだが、私のあまりの適当さにリリーの機嫌を損ねてしまったらしい。
「リリー、機嫌を直して。もうすぐコルデリア家につくわよ」
「―――もう、魔女様のせいですからね。お説教は後です。・・・シャキッとしなければなりませんね、失礼しました。もう大丈夫です」
間近に迫る白亜の王城
しかし、その手前王城に引けを取らない立派な神殿が―――コルデリア家だ
常に熱を纏った結界が施されてある。この魔法は、高度な魔法だ。誰かが開錠の呪いを唱えない限り開かない仕組みになっている。帝国にある、ロードさんと再会した場所にある教会と同じ結界。
入口まで歩いて行くと、二人の衛兵門番に止められる。燃えるような赤い瞳、南国特有の少し日に焼けた肌。
「失礼、レディ。ここは神聖なる南の魔女を護る、護り人の神殿。時に失礼を承知で伺いたい、何用でございましょうか」
一人の騎士が私たちに礼をしながらも隙のない佇まいで問いかけてきた。もう一人も笑顔だが、警戒をのぞかせている。
私は、陛下から預かった書簡をその一人に手渡した。
「その書簡を、コルデリア家当主にお渡しください。我々は、案内があるまでこの場で待機しますので」
「ギル・オーウェンがしかとこの書簡、預かりました。しばし、この場でお待ちください」
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―――――
「お待たせいたしました、どうぞ中へお入りください」
数分もしないうちにその騎士は帰ってきた。既に警戒の色は見えない。もう一人の騎士が、そこではじめて口を開いた
「『アルバノン・フィージア』」
(へぇ…一介の騎士が高度な魔法の一つを扱うなんて。王宮さながらの警備じゃないの)
剣の腕だけでなく、魔法も使える騎士。それを門番にあてがうのだから、やはり護り人ともなると王族と同じような扱いになるらしい。リリーも、少し驚いた表情をしていた
案内されるまま、広い庭を通り大きな扉の前にたどり着く
ここが、中への本当の入り口だろう、強い結界しかも二重に施されてある。
庭にも、炎の精霊があちこち飛び交っているところをみると、ここが本当のコルデリア家なのだろう。扉に触れ、ゆっくりと開く。
「帝国よりはるばるお越しくださいました。ようこそ、コルデリア家へ」
そう言って正面から出迎えたのは、ニーナ・コルデリアだった・・・
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