精霊と魔女その3
まだPC買ってません←
そして、やはり不具合で一度全文章が消えるアクシデント…つらいな
ではどうぞ
ドクン…ドクン
確かに、胎動する音が伝わってきていた
以前かなりの量の魔力を吸収させてはいたけれど、なかなか目覚めないので随分とお寝坊さんだとも思っていた
けれどここ最近は慌ただしくて、すっかり忘れていたわ…聞こえた、この場を打開できる唯一の存在が私の元に居るのだという確かな音が―――――
≪ひ―――さ、ま…ヒ、メ――ま…ヒメサマ≫
ドクン
ドクン
≪ナ…マエ―――ボク、ナマエ…チョーダイ≫
錆びついた、腐敗する臭いが立ち込めるこの場所で新たに息吹を上げる存在に…名を、真名を――――
『ノヴァ』
古代語で、暗闇
精霊に名を与え、使役する
≪ノ…ァ―――――ボクハ、ノヴァ≫
ドクン―――ドクッ
『そう、お前はノヴァだ』
次の瞬間
辺りに宵の闇が広がりだした
私の声に反応して、胎動は徐々に大きくなり魔力が溢れだす。精霊特有の純度の高い魔力。それは、私の白いコートのポケットから発せられていた。そう、以前教会の前で哀れに散った花から生まれるはずだった命――――チノは確実に成長を続けていた
そして今、漸く目を覚ます
「魔女様―――これは…」
「この前も後ろも進めない状況で、漸く起きてくれたお寝坊さんが、打開策を見つけてくれたわ」
遂にポケットから重さが消えた。そして更に闇が広がる、前後左右上下の間隔が奪われる程濃い闇…その闇は私達の前で渦を巻き次第に形を作っていった
≪ノヴァ、僕はノヴァ――宵の精霊に御座います姫様≫
ノヴァと名付けられた宵の精霊は、黒を身に纏い、月を思わせる炯々と輝く黄金の瞳を持った狼だった
「魔女様、この狼は―――」
「この前リリーが連れて行ってくれた教会の近くで見つけたチノよ。さあ、ノーちゃん早速お願いできる?」
もう既に足音が近くまで来ている
あちらも私達の気配と、先程の魔力を感知してか攻撃態勢のまま進んできている。急いでこの場を乗り切らなければこの先に居るあの子を助けることもできなければ陛下にもあらぬ迷惑と借りが出来てしまう。なによりこの場に連れてきてしまったリリーに申し訳が立たないわ
私達は、凛々しく佇む狼を見つめる
ノヴァは頷くかのように頭を下げ…顔を上げた瞬間泣きそうな表情をしていた―――
≪―――え、い…いやいや、まだ生まれたてだし?そもそもここ暗いし、嫌な臭いするし僕帰りたいよ≫
「魔女様、打開策が見当たりませんわ」
「嘘でしょ…歴代の精霊をも凌ぐ凛々しく逞しい外見からは似つかない雑草の様な弱い発言」
残念なものを見る様なリリーの目と、呆れた眼差しを送る私。なんで、こんな残念な子が今っ!!
(フレインやティウォールは馬鹿だけどしっかりとした心を持っているのに、なぜこの子は逃げ腰なのかしら)
そこまで考えてはてと思い出す、あの魔力のことを…
「そういえば、この子に与えた魔力の半分はあの古狸こと下種な人間から摂取させたんだった」
魔力は遺伝するのだろうか…そうなるとこの子もあの人間の様な精霊になってしまうのかしら、そう本気で心配したところで目の前の狼が狼狽えはじめた
≪ちょ、ちょ!冗談だってー…僕だって姫様から生まれた精霊だよー?≫
「…駄目、ですね」
「駄目ね」
リリーの冷めた目と私の呆れた眼差しが宵の精霊に向けられる
炯々としている黄金の瞳が左右に揺れ動いていた
しかしどうやら時間は止まってはくれないらしい…気配が、もう直ぐ傍
相手もこちらの気配に気が付いたらしい、先程のノヴァの魔力のせいもあるだろう。戦闘態勢でこちらに向かってきている、背後からも魔力の圧が感じられる
≪ノヴァを信じて≫
そう言って宵の精霊は私の胸に顔を埋めてきた。毛並の良い手触りで、撫でてやればその耳が少し垂れるところがなんとも愛らしい
甘えるような仕草はこの場には余りに似つかわしく、状況判断に欠けるこの子はやはり生まれたてなのだと感じさせる
だが、嫌な気配は直ぐ傍まで来ていた。微かな息遣いさえ聞こえる距離…
「魔女様、どうしましょう」
リリーも感じているのだろう、気配が近いということを。微かに手を動かしノヴァを触りたそうにしているところは…見なかったことにしよう
そっとノヴァを押し、黄金の瞳を見つめる。どうやら心配はいらない様だった――――お寝坊さんで甘えん坊さんのおっとりとした性格の宵の精霊。しかし、あの子たちと同じ強い瞳をしていた
「ノヴァを信じてあげて…さあ、お願い」
今度こそ、しっかりと頷くノヴァ
見た目通り頼りがいのある逞しい姿だ
≪二人とも僕に触れて≫
その言葉にいち早く反応したのはリリーだった、なぜか嬉しそうにノヴァに触れている。私もそっとその毛並みに触れた
しかし、何か変化があるわけでもなく、かといって何かをする様子もない
「ノヴァ、本当にだいじょ≪静かに≫…」
ドンッ
横の壁が何者かによって壊された
ゴォオオという音と共に魔力の塊が背後から迫った
そして遂に、私たちの前に、背後に――――現れた
「誰でしょう、このようなところに」
先に声を発したのは後ろの方だった。意を決して振り向く、そこにはノヴァにも勝る恐ろしい男と―――何故か見たことのある男が立っていた
恐ろしい男の方には、無数の炎の精霊が辺りを飛んでいた。その男が、重々しい口を開いた
「誰だと、聞いている。よもや迷子か?それは気の毒だ、出口までお連れしよう」
重低音、そして薄ら笑った表情にノヴァが微かに震えたのが分かった
リリーと目を合わせる。力押しでもここからとりあえず出ようと頷いた。既にリリーは普段の優しい眼差しから、人を殺すことも厭わないと言いそうな鋭い眼差しへと変わっていた
「その先は黄泉へと続く道でしょうから…入口と言っても過言ではありませんねぇオズウェル様」
その言葉が合図とでも言うように、リリーが動こうとノヴァから手を放しそうになった瞬間
「あっらぁ…いい男が二人もいたから声が出なかっただけよー?随分とぶっそうねぇ、んふっ―――ギッタギッタに殺してやりたいわぁ」
艶やかな声には似つかないほど残虐な言葉が私達を挟んで聞こえてきた
つまり、先程舌打ちをして「引くよ」と言ったその声だった
「レディが口にしていい言葉ではありませんねぇ」
「似非の笑みが気持ち悪いわよー折角の男前が台無しね、あら怒った?かわいー」
「簡単に、死ねると思わないで下さいねぇ」
互いに魔力が高まる
その状況を、私たちは挟まれた状態で訳も分からなく立ちすくむ
(と、いうよりさっきからこの人たちと焦点が合ってない。まるで私達が間に居ないかのようにお互い話して――――)
「んふっ私達は全部で3人。皆強いわよー?そう言えば誰って聞いてたわね?男前の貴方たちから名乗ってくれるなら教えてあげてもいいわ?ついでにキスのサービスもしちゃう!」
シュッ
「あら貴方も怒ったの?意外と短気ねぇ、んふっ―――私の顔にこんなのが当たったら危ないわ」
「貴様の顔を少しはみれるようにしようと思ったんだがな、残念だ。どうやら当たらなかったので醜いままのようだ」
投げられたのは、短剣だった。素早い動きに、しかしその短剣を二本の指で掴んだ女性―――双方隙が全くない
「いいわよぅ、名乗らなくても。ここに来た時点で、貴方たちワンちゃんが来る事くらい予想済み。四家南の魔女の護り人コルデリア家の番人、灼熱のオズウェル率いる政府第四騎士団―――通称マッドナイト」
「本当に噂通りいかれてるね!お嬢、面白いね!」
女性の後ろでフードを被っている二人のうちの一人が楽しそうに声を上げた
「これはご存じとは光栄ですねぇオズウェル様?まぁ存外貴方たちもいかれているとおもいますがー…その刺青、西の山賊でしょうか?国境付近で暴れないで下さいねぇ、処理が面倒なんですからー」
「いやーよー、それに弱いのがいけないんだわ!…お互い名乗らなくても承知済みなんじゃない、もったいぶるなんて嫌な男」
「お互い様だろう」
「こっちは三人、貴方たちは二人…勝てるかな?」
「俺一人で十分だ」
その言葉が、合図となった
凄まじい魔力がこの狭い空間に密集する
周囲の精霊たちもざわめきだした
(三人と二人―――ここに私達は含まれていない。間に挟まれているはずなのに、見えていない?)
ノヴァを見る
すると、得意げな顔で言った
≪僕は宵の精霊、闇にまぎれることができる。僕に触れていればその力は触れたものにも伝わり同じ効力を発揮するんだ!≫
『よくできました』
リリーにも、大丈夫だと目で伝える。手を放しそうになったが今度はしっかりとノヴァの体に触れた
(戦わず、逃げることができないとわかれば隠れる、か。甘えん坊のこの子にぴったりの技ね)
ニコリと微笑めば、照れるように頭を下げ再び顔を上げると―――――何故かまた悲しそうな表情…まさか
≪でさー?隠れることは出来ていても、このままだと前と後ろの攻撃に間に居る僕達は当たってしまうんだけど、どうするの?≫
『…言うのが、遅い!』
~if~
「ちょ、ちょ!冗談だってー…僕だって姫様から生まれた精霊だよー?で?いつ頃助ければいいの?」
「「今でしょ!」」
お気に入り2000人突破、本当に感謝です。このような状態でも、本当に有り難い。ここまで読んでくださってありがとうございました