表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陛下の専属様  作者: 月詠 桔梗鑾
第2章
12/151

華添

新章はいりまーす

はなそえ、と読みます

人間は不思議な生き物だ

そう感じたのは私が森に閉じ込められて100年が過ぎたとき



神聖だなんだと口にしておきながら

数多あまたの血で汚れた屍を私のいる森に捨て置いた

別にこの森が血で染まるのも悪くはない


木の上からその屍を見て思ったのもまた事実

苦しみもがきまだ息のあるソレを救う理由が私にはない



―――助けてくれ....と、血に埋もれた誰かが私を見て叫んだ

私はその声が聞こえていた

聞こえていたけど助ける理由がないんだから助ける必要もなかった




助けて、そう叫んでいたこえは段々に消えていった

あぁ死んだのか



別に死のうが生きようがどうでもいいことだ

私はここで生き続ける"生きた歴史"なのだから...



ベチャ


不意に私の肩に何かが当たるのが分かった

肩を見れば紅く色づいている


血ではない

バラナの実だった


どこから飛んできたのだろう

実を頼りに視線を移せばそこにもまだ息のある人間がいた



――ばけもの!


そう叫んで息絶えた



人間とは不思議だと私はそのとき思った



――たすけて

そう私に崇拝の眼差しを向け


――ばけもの

そう私に恐怖の眼差しを向ける




別に構いはしない

人間が生きようが死のうが嘆こうが笑おうが



ただその二択の声を聴いた私はその時から"バラナの実"が好きになった

それを食べるたびに人間の不思議さを思い出して面白いからだ


そんなことを考えていると....



「怖い魔女だ...死に逝く人間に対してなんとも思わないか」



ガサリガサリ


屍を踏みつけながら私の元へ誰かがきた

その言葉をお前に返してやろうか、そう思った


『死んだ同族を踏みつけ歩くお前の言えたことか』



ガサリ


「同族だと?同じにしてくれるな魔女...こいつらと俺は違う」


私を見上げてそいつはそう言った

私には何が違うのかさっぱりわからなかった


そんな私の表情を読み取ったのかそいつは小さく笑った


「魔女よ、俺はいずれ東の王となる男だ。」


だからなんだ

誰が王になろうが私の知ったことではない



「魔女よ....そのいましめが邪魔ではないか」


その男は私の手についている鈍く光る銀の輪を見ていった

これは私が守るはずであった帝国の王が私につけた忌々しい呪いの鎖だった


これを外せるものはもういない

これの呪いを解除できる男はとうに死んだ


『何が言いたい』


この鎖が邪魔で仕方がないのだ

誰でもいいからこの鎖を切れ



「俺がその戒めを解いてやろう」


戯言たわごとを』



私は心底その男を殺したいと思った

簡単に解けるのならば解いている


あまりに軽く言う男に何がわかる



「降りてこい。戯言ではない、俺が外してやる」


その言葉に嘘はないんだろう

男の持つ目は揺るがない、静かに炎が灯っていたから



私はその男を信じ男の元へと飛び降りた

男は私より遥かに大きかった


「小さい魔女だ」

『たわけ人間風情が』


小さい小さいとよく南の魔女ルゼラから、よくからかわれていた

むきになった私がそんなに面白いのか男はよく笑った



一頻ひとしきり笑うと男は私の手を掴み言った


「魔女よ、今この世界に純潔の魔女はあんただけだ。もし、この世界の均衡が崩れると思ったその時はあんたの判断でこの世界を無に帰し元に戻せるか」



何を言い出すのだろうと鼻で笑ってやろうとした

だが、その男の表情はとても真剣だった


静かな炎が荒々しく燃えていた

その瞳を私はとても綺麗だと思った


『もともとこの世界は私達が支えている、それを人間などと下種げすな生き物が壊そうものならその前に私が人間をこの世界から消すさ』



私達...それでは語弊があるかもしれないが。

そう言えば男は嬉しそうな顔をした



「ならば安心だ。そら、あんたはもう自由だ」


気が付けば手首に巻かれていた枷は血の染みる地面に吸い込まれるように落ちていっていた



『自由?』

「そうだ、あんたはここにいなくてもいい。自分の意思でどこへでもいける」



私が求めた自由

離塔に閉じ込められて、誰も立ち寄らない決められた人間以外立ち入らないこの森から出ていくことができる


私が求めた自由を今目の前にいる男が叶えてくれた



『人間、礼を言おう。お前の御蔭おかげで私は自由の身となった』



そう言いながら男を見れば男は実に人間らしい表情をしていた

それを見て、あぁ....またか、と思うしかなかった



「だが魔女、あんたは魔法が使えない。俺が新たに戒めをつけたからだ。魔法が使えなくても自然を操れる魔女ならなんともないだろう?」


欲の絡んだ目だった


『よもや私を手懐け様とは言うまい』


睨みつけるようにその男を見れば男は苦しそうに微笑んだ



「悪いな魔女、別にここの国の王のようにあんたを監禁したりはしない。ただ....俺が死んだあとこれからずっと先の未来で、俺の収める国が危なくなったら助けてほしいんだ。その時期が来るまではあんたの魔力は俺が大切に保管しておこう。時期がくればこの魔力はあんたに戻るから」




欲...では無いのかもしれない

それは切望する目だったのかもしれない



私はその言葉を信じた

お人よしと言われればそれまでだ


だがこの男がとても面白かったから少し放って置こうと考えたんだ

ここは森


魔女は自然を操れる

魔力がなくとも世界は常に私に味方する


その状況の中で、殺されるかもしれないのにこの男は燃えるような目で私に言ったのだ

ならばその覚悟も捨てたものではないだろう?



『お前の言う時期まで待ってやろう。人間、私は少しお前に興味を持った....行け。お前が言葉通り東の王となりその時期が来るまでは私は何もせずただ見守っていてやる。ただし、約束をたがえるな人間...それが条件だ』



「魔女よ、貴女の御心の広さに敬意を...貴女の優しさに温情を」



その男は私に礼をして一度私を見てからまた屍の広がる奥へと消えていった

不思議なものだ


囚われたくないと思っていたのに自ら囚われてしまった

魔女も大概不思議なものだ




私はそこらに散らばる屍に精霊の命が宿る華を添えた

いつしか目の前に広がる光景は血に汚れた屍ではなく色とりどりの華を咲かせていた



綺麗だ

純粋にそう思った




華は次第に大きくなりものの見事な大輪となった

40年という歳月が流れた後の華だった


一輪の緑の大輪からスゥっと何かが出てきた

それは風の精霊の誕生の瞬間


精霊を生み出した華は瞬時に枯れ果てた


私はその小さな精霊を抱きしめた

森に澄んだ空気が流れた


するとほかの華が一斉に精霊を生み出した

一つ誕生し水が流れた

一つ誕生し光がさした



命の連鎖が始まったのだ



私はそれを微笑ましい気持ちで見ていた

あの男が言った


ここにいる奴らと同じにするなと

...なぁ人間、ここにいる奴ら全員綺麗だ


お前の御蔭で暫くこの森で快適に暮らせるぞ



精霊が私の周りを飛び回る

あんなにも汚れた人間だったはずの生き物は今は全く別のモノになった


森が綺麗になるのに80年の歳月を要した

だが80年で森は蘇った



そんな時ふと思った

あの男は生きているだろうか


『そんなはずはないか』


一人私の声が寂しく響いた

私に新たな戒めを付けた人間


あの男が言った時期まであと何年あるだろう


私はその日が来るのを待つ

バラナの実を手に取りながらそう思った




新章のOPみたいなものですね

これはミアンちゃんの懐かしき過去の一つです


魔法が使えない理由がここで明らかに!!

長くて失礼しました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ