帝国の華
「彼女を乗せたリュヴァーが此処を発ってから随分と時間が掛かったようだな」
遠まわしに遅いと現在進行形で怒られている私達
いや...
すっと横目でロードさんを見る
彼は陛下の説教に我知らずと言った表情をしている
九割がた貴方のせいですよ、ロードさん
「どこを見ている?」
「すいません」
私の視線に気づいていたのか、陛下から御咎めを受けるとにやりと口角を上げ笑ってきた
理不尽だ
私は悪くないのに!絶対悪くないのに話の方向が私が悪いという展開になってきている
「まあ、陛下...お説教はそのあたりにいして本題に入りましょう」
(お前が言うな!)
何故私が元凶であるロードさんの口添えによって説教が終わらなければならんのだ...なぜだ
悔しくて今度はしっかり彼を睨んだ
が、たいして効果は無くむしろさらに彼を楽しませるという結果で終わってしまった
――――――――――
――――
「まず最初に言って置こう、暫くお前に教育を施す時間が無いので教育の件は保留だ」
南の護り人、その血族であるニーナ嬢が帰ってしまった以上それはしょうがない
分かったと頷いた
最初にってことは、やはりもっと大事な事があったのね
それも暫くは時間が取れない程の何かが...
「先程、南の国から使者がやってきてニーナ様に帰国要請をしてきました。事情が事情故にすぐにこちらも返しましたが....問題は、彼女の兄君のことです」
先程とは打って変わって真剣な表情のロードさんが説明をしてくれる
ちなみに、忘れてしまいそうだがこの執務室には私と陛下、ロードさんと扉の前で直立不動のシドさんが居る
「その、彼女のお兄様に何が?」
「ニーナ様の兄君は毒により殺されかけたようですよ」
毒により殺されかけた
その一言に私は、陛下がなぜ私を今呼び出したのかその意図が見えた
「頭のいい女は、モテるぞ」
ソファで腕を組みこちらを見ている陛下が言う
私の表情から何かに気付いたとわかったのだろう、でもなんでだろ...陛下が言うと悲しくなるわ
「そうですね、それでもう少し淑女らしく振舞ってくださればパーフェクトなんですがね」
「で、その毒殺の話の続きは」
ならばあなたはもう少し紳士らしく振舞って、尚且つその歪みまくった性格を直してくれればパーフェクトなんですがね
そう思ったが口にはしなかった
余計話が拗れるだとうと予測できたからだ
「態々、使者が一介の騎士にそんな国の重要一族の情報を他国にそう易々と話す訳がない....が、あちらはご丁寧にどの状況で使われたのかもこちらに教えてくれたようですよ。本当に、このままいけば国際問題に発展しますよ」
護り人の存在はその血族であっても特殊
それは魔女、精霊王、五大精霊、分血の次に重要な存在だ
それぞれの国で手厚く保護されその血を絶やさないよう国の保護の下生活していく
そんな国にとってとても大切な人間の、しかも暗殺という事件を他国に易々と話すことなど前代未聞
そしてロードさんや陛下が危惧している国際問題への発展
原因は一つ
「どうにも、あちらの人間を殺めそうになったという毒は我が国の華のようだ」
陛下が重々しく口を開く
我が国の華...このアルファジュール帝国指定の毒花
「―――――アルファスの涙」
この王宮のどこかの扉、陛下が以前私を連れて行ってくれた
其処に広がる純白の世界
一見、無害で儚い印象を与えるアルファスの涙と呼ばれる純白の華
地に根を張っている間は本当に美しくまるで一面雪が降り積もったかのような幻想を思わせる
だが一度抜いたり手で折ったりすれば見えない毒が一気に散漫し忽ち毒により死ぬ
東の国、リーナ姉さんが愛した黄色い華
それは魔力を感知した場合猛毒を放つ
中央の国、私の国にもそれは例外なく存在する
それがアルファスの涙...純白の華
(持ち出せたのも凄いけれど、よく今まで保存できていたわね)
手折った瞬間猛毒を放つアルファスの涙は、数分間毒を吐き続ける
それが収まると今度は華が毒を蓄えはじめる
だから最初の数分を乗り越えても華の毒が消えたわけではないのだ
今度はその華、触れれば触れた先から腐り近くで香りを堪能しようものなら意識が飛ぶ
―――――お茶なんかの飾りに入れれば即死ぬような....ね
それを一輪盗むことが出来た人物を私はよく知っている
そして多分、もうこの部屋に居るすべての人間も知っているはずだ
「そうだ、そのアルファスの涙が使用されたんだろう。南の使者は我々にも今回の事件について何らかの関係性があると指摘してきたのだ。ただの使者が言ってくれる、普段この城が簡単に侵入できる手薄の城と言われているのをお前は知っているか?少なくともこの国以外の他の4国の幹部はそう思っている」
手薄の城
そう言って自嘲気味に笑う陛下
(それはまた、恐ろしい解釈をしたものだ)
私が末恐ろしいと感じた男が国の国王なんだぞ、そんな隙があるわけがない
それに、気配を完全に断った状態でこの城をくまなく見張っている存在だっている
女官でさえ強力な魔法が使える
誰でも入れるが、誰も出れない
この城の仕組みはそうなっているに違いない
ああ、例外はあったけど
「つまり、今回の華の使用。直接我々が手を下したとあちらさんは思っていないでしょう、がアルファスの涙が使われたことに違いは無い。管理不届きということを言っているのでしょう」
私達が城を手薄の状態にしていたから盗まれたのだぞ...ってことを言っているってことか
「盗んだものは、十中八九...東の王だ」
唯一この国に侵入して、無事に出ることのできた人間
そしてエルダンと名乗り華を盗んだ者
「ああ、ミアさんが危険な目にあった事件ですね。あの時何故アルファスの涙を取り返さなかったのです?あのような猛毒性のあるしかも帝国指定の貴重な華を奪われるなんて陛下らしくもない」
ロードさんの説教が始まった
確かに、隙を与えない陛下がなぜそんなミスを犯したのか
相手を逃がしたことに関してはしょうがない
こちらも穏便に済ませたかったし、なにより相手は一国の王だ
(ま、国の王様が堂々と他国に許可なく不法侵入すること自体いかれているとしか言いようがないが)
「―――だからだ」
「聞こえませんね」
陛下が珍しく俯き言葉を濁している
それに対しロードさんは鋭く追及する
「チッ、しょうがないだろ....彼女が既に全身で東国指定の毒花から溢れ出ていた毒を浴びていた。それに内臓を軽く損傷していた。魔女の分血だから期待していたが全くもって使えなくて本当に驚いたぞ。それでも貴重な時の魔女の分血だ、華と彼女の命を比べたら必然的にそうなってしまったんだ」
「申し開きの仕様もありません」
私の浅はかな行動のせいですね
そうですよね、そのせいで今になって国際問題へ発展しそうな勢いなんですよね
しょうがないじゃないですか
魔女の領域で自然の力を使用できないことなんで300年も経てば忘れるじゃない
実際問題、今生きているのは少なからず陛下のおかげですが....
ジトっとロードさんから睨まれ、陛下から残念な表情を向けられた
「もうここまで来たら仕方ありません。こちらにもなぜ東国王に華を易々と盗まれたのか原因もわからないですし落ち度はあるでしょう.....ただし即急に解決しなければなりませんね」
「既にナギともう一人で東国へ行ってもらっている、情報を掴み次第戻れと連絡はしてある」
ナギ...陛下の口から私の知らない誰かの名前が出てきた
一瞬、シドさんがその名前に反応した....誰だろうか
「流石は陛下」
「関心している暇があるか、どうするか考えるんだ」
帝国指定の猛毒を持つ毒花
純白の、そう...一面に広がれば銀世界とも取れるほど美しい華
アルファスの涙
その一本の華が、また一つ歴史を変える手がかりとなる
と、いうことで漸くアルファスの涙が出てきました
忘れてしまった方は第2章から宜しければ読み直して下さいね
そして東の国
こちらも漸く出てきました、話の都合上南の国と同時進行していこうと思っています...あともう一回出番ありますが。
東国もこの物語の鍵を握る国ですからね...
ご不明な点御座いましたらいつでも受け付けております
ここまで読んでくださってありがとうございました