逢瀬
季節はすっかり夏本番
皆様、熱中症など体調の変化にお気を付け下さいね
それではどうぞ
キラキラと、何かに期待されたような目で見られるとなんだか気まずい...
この部屋の惨状は私の怒りに同調した精霊たち、そして何よりフゥ君のおかげで酷い有様だ
「あの、ランウェイ様」
(とりあえず彼女のことは暫く放置の方向でいこう。あちらが動く前にこちらが下手に動いてことを更に煽ってしまったら意味がない)
私の呼びかけに漸く気づいたのかはっとして私を見てきた
生暖かい風が部屋の中へ入り込んでくる
その風は優しく彼の黒髪を揺らした
「陛下より、直ちに執務室へ来るよう申し付かっています。こちらも、一刻の猶予もない状況にあるようですね...詳しくはあちらでお話ししましょう」
陛下が?
一体何があったのだろうか、急に慌ただしくなった事に若干頭が着いて行かないのを整理しつつ先を行くロードさんの後をついて行った
「そうそう、貴女のあの力ですが...」
ロードさんが歩きながら話をする
しかも内容は先程の精霊たちの力についてだ
ややテンポの良い少し高い声で彼は言う
「陛下には黙っていましょうか」
「えっ?」
思わず足を止めてしまった
それに気づいてか、ロードさんもまた足を止めてこちらを見ていた
(まさかそんなことを言われるなんて。てっきり、報告するから詳しく話せとでも言われるのかと思った)
目の前でいつもより数倍優しそうな、あくまで優しそうな顔で私を見つめるロードさん。不思議を通り越して不気味とまで取れてしまう...それは日頃の彼の見た目とは裏腹の真っ黒な性格を知っているからなのだろうけれど
「だから、陛下には少しの間だけ黙っていてもいいですよと言っているのです」
廊下の横に取り付けられている窓から日が差し込む
その光りは私とロードさんを照らした
「―――なぜ?」
「おや、ただの親切心だとは思わないのですか」
そう言って今度はこちらへ一歩一歩近づいてきた
条件反射のように私も彼が近づくごとに一歩、また一歩と下がる
「何故下がるのです」
「それは、貴方が近づいてくるからかと...」
下がってばかりでは埒があかないのでサッと窓の方へ逃げた
日の光を背に私とロードさんは対等する
何故、私は窓の方へ逃げてしまったのか
後ろは壁だというのに自分の行動の先読みの無さに呆れてしまう
「近づいてはいけない理由は何です?ハニー」
そう言ってロードさんは後ろに下がれなくなってしまった私をさらに追い詰め、日の光に翳されても全く色を変えないその黒髪を揺らし、瞳を真っ直ぐこちらに向けてきた
「ちょ、あの...ホントその辱めやめて下さい精神的に攻撃してますよね、目に見えない恐ろしい程の脅威を貴方にはもう少し理解していただきたいのです。その単語を発するごとに私の大切な何かが奪われていっている錯覚に陥るのです」
「可笑しいですね辱めなどと...全身全霊を込めて愛をささやいているのですよ」
どの口がソレを言うんだ
それが本当ならこの人の血液は全て砂糖で作られているに違いない、ゲロ甘だ
「はあ...愛ですか」
呆れ半分、苦笑半分で彼を見上げる
いつの間にか私達の距離は足一歩分
「愛、ですよ」
さらりと私の蜂蜜色の髪を一房手に取ったロードさん
日に翳され、その色は稲穂の金色にも見える
厄介なのは彼のその容姿だ
アッシュの子孫だからか、容姿も似通っていて懐かしさを感じ無下に扱えない
特に目元
アッシュにそっくりだ
突然、グイッと強くその髪の毛先、つまりロードさんが手にしている髪の一房を引かれた
(普通女性の髪をそんなに強く、しかもこの距離で引っ張る奴があるか!)
生え際ではないからそこまでの痛みはないけれど彼が引っ張ったことにより私は前に体が倒れる
もう少し優しく扱ってほしいものだ
愛だなんだと言うのであれば
「貴女はこんなに小さくとも、強く希少な血を流しているんですね」
そのまま私の体はロードさんの腕に抱かれた
なんだ、このあり得ない状況は
傍から見たら抱き合っている男女にしか見えない
あれ、これってデジャヴ?
「どうしたんですか、一体」
離れようとそっと...いや、大分強く彼の胸を押しながら問う
しかしながら彼は話すどころか左腕でさらに力を加え抱きしめてきた
そしてもう片方の腕はまだ私の髪を掴んでいる
いや、掴んでいるというより私の髪を悪戯に遊んでいる気がする
「ちょ...早く陛下の元へ行かなければならないのではないのですか」
冷静になれ
自分に何度か言い聞かせ、再び彼を押す
が....
(な・ん・で・だ!?)
離してくれない離れてくれない
この人は一体何がしたいんだ
「私を前に他の男の話をするのですか、あなたは私のハニーであるというのに」
そう言って右手で後頭部をぐっと支えられ視線を合わせられた
これは嫉妬だろうか、私は決して鈍感ではない
今の会話のやり取りから推測するに嫉妬で間違いないだろう、だがどこにロードさんが嫉妬する場面があったのいうのだ
しかもこの人格の代わりよう
優しくされても言葉の裏に何かある気がしてならないのは私の気のせいなのか?
「――――ダーリン、ここは互いの職場ですよ。このような場で...傍から見れば、その...抱き合って、いや抱擁を交わしている様にしか見えない状況を作り出すなんてありえません」
(何故私がこんなことを、しかも彼を直接見たままダ、ダーリンだなんて!!)
「目を逸らさないで」
恥ずかしくなり視線を横へずらそうとするもすぐロードさんが咎める
彼の黒い瞳と、偽りの茶色の瞳が交差する
彼の黒い瞳に困惑した表情の私が映っていた
ゆっくりと近づく
その距離....約数センチ
思わず目を瞑ってしまった
こんな場所で何をやっているのだろうと、もうそんなことは頭の片隅にいってしまった
とても恥ずかしくて、そんなことを冷静に考える暇など無かったからだ
さらりと彼の髪が私の顔に触れた
そして―――――
「っと、こんなことしている暇なかったんですよね。行きますよ、ミアさん。陛下に遅いと叱られてしまいます」
「――――私は、最初からそう言っていました!!」
何事もなかったかのように歩き始めたロードさんに思わず大声で言う
なんだ、なんだなんだ!
急に意味の解らない行動をしないでほしい!もう年寄なんだからそういうの心臓に悪いんだからね!
私自身意味の解らないもやっとした感情を声に乗せて...
窓からの光が廊下を照らす
先を行くロードさんを足早に追いかけ、だが思う事は一つ
(やっぱり、彼は腹黒い)
昨日伏線を回収できるのに、なんて言ってたくせにこんな話を入れてしまった...馬鹿だな自分←
期待した方、申し訳ありません
明日こそはUPするでしょう(・_・;)
それにしても年寄りだから、のところ。本当に年寄ならロードの意味不明な行動にも何の感情を抱くことなく流せるはずなんですがね。心は17歳で止まってしまっているということですね。
ロードの甘ったるい行動、いかがでしたでしょうか。一応タグ恋愛ですしね、これからまたシリアス展開に向かいそうなので一息...
ここまで読んでくださってありがとうございました
追伸
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皆様には心からの感謝を、本当に有難う御座います
今後ともよろしくお願いたします