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陛下の専属様  作者: 月詠 桔梗鑾
第5章
109/151

能力‐SIDEロード‐


バタンと重々しい重低音が室内に静かに響いた

彼女達が出ていって、この執務室には私のほかにシドと陛下のみ...



「よりにもよって彼女を教育者に選んだのですか」



厭味ったらしく言う

確かにミアさんは時の魔女の分血、護り人の血を引く彼ら南の一族ならば教育者としては適任だが...



だが、彼女は本国の生まれではない

彼女は南国の生まれだ




「――――釣り合うだけの教育者があの娘以外思いつかなかったんだよ。」




「帝国にも、魔女に詳しい専門的知識を身につけた者達もいた筈です。釣り合わないとは一体どういう意味でしょうか」




深くソファに座りながら上を仰ぐ陛下

その諦観した表情をするには余りに若く、だが違和感はない



「この国にどれだけ魔女の記述が残っている?―――ほぼないに等しいだろう。数百冊の魔女に関する文献が残っていたとしてそれを専門的に調べたものが居るのと、300年間その血と共に魔女のほぼすべての歴史を受け継いできた者....どちらが優れている」




そう問われて何も答えることができなかった

数百冊の文献を調べただけでは、足りないと言っている




創造主の魔女の文献が数百冊しかないこと自体がおかしいのだ

この世界が作り出されたときより既に千八百年は過ぎている



いや、本来ならばもっと沢山この帝国にもあった

魔女に関する多くの文献と、それと共に精霊王の文献




「それ以前に...全てを魔女の歴史を捨てた我々がどんな顔をして分血という存在に知識を与えるというんだ。それこそ可笑しな話だろう」




300年前の魔女狩り

この時、総じて魔女に関するほぼすべてのものを帝国は捨て去った



「失言いたしました」


「別にいい。他国に頼らなければいけないような状況を作った先代の国王達が悪いんだ」




そこまで言って、急にシドが動いた

彼が動くと云う事は誰かが来たという事




暫くして扉が叩かれる

思わず、そのシドの並々ならぬ気配の察知力というか聴覚に驚いた



(この私ですら、シドより早く気配を察知できないなんて)



扉の向こうからは若い女性の声がした

陛下の指示で扉が開かれる



現れたのは騎士服を着た品のある女性

彼女は確か、騎士団の中で黄薔薇と言われているクリンソン侯爵家の息女だったはず...




ちらりとその薄桃色の瞳と交わり、彼女は片膝をついて頭を垂れた




「御前失礼いたします、私は騎士団第4小隊隊長ナタリー・クリンソンと申します。急を要する故この場にてご報告させていただきます」




「なんだ」



黄褐色の髪が長く背に流れている

彼女は、王族の次に位の高い侯爵だ



その息女が騎士服など、と思うかもしれないが仕方のないことなのかもしれない



クリンソン家は代々男子が生まれていた

皆武力に長けていて、そのほとんどが騎士団に入り功績を残している




だが今回ばかりはなぜが女児しか生まれなかった

3人いる姉妹のうち、武力の才に恵まれたのは彼女ナタリーのみ



他の2人は既に他国へ嫁いでいる

もっとも、彼女にもこの国の礎となるべく婿が決まっていて...つまり婚約者はいるようだが




「はい、南の国より使者が参りました。直接陛下との謁見は望まれてはいないようです。用があるのは先程城に到着したばかりの護り人の血を引く女性だそうですが....」



つい彼女の容姿に意識を別な方へ向けてしまったが、南の、という言葉で現実に引き戻された



(なぜ急に)



「その女性に何の用があってきたのだ」


陛下も疑問を持っているのだろう、いつの間にか身を起こし机の上で腕を組んで真剣な表情をしていた




「はい、その女性の親族である兄君が倒れたそうで...毒による暗殺ではないかと。幸いにも彼が護り人の血を引く一族の為毒に多少なりとも耐性があったこと、その毒にいち早く気づき体内への侵入は防げたことが死を免れたのでしょう。大層美しい雪の様な華だったこともあり、飾りとして出されたお茶の上にあったそうです。まだ気は抜けない状態のようですが命に別状は無いとの事です。そのことを知らせて欲しいと...」




彼女の報告に陛下はとりあえずその南の使者を返すよう言い渡した

その上で、険しい表情でこちらも彼女の為に騎竜士を動かすと伝えろとも言っていた




「御意」



深く頭を下げ彼女は出ていった

暫しの沈黙が続く



「ロード」


「ああ、陛下もお気づきに」



彼女の報告、別段可笑しいところは無かった

あるのはその内容だ



「随分とまあ、詳しく騎士に教えたものだな」


本来、そういった命にかかわる問題を他国のしかも騎士にそこまで詳しく説明はしない


態々(わざわざ)ご丁寧に言ってくれたものだ

そう陛下は言いたいのだろう




そして....

「これは、一悶着あるぞ」



つい最近北国の問題が解決したと思ったら次は南ですか

それも今度は我々も直接的な関係性があるようだ...



「とりあえずロードはいまの話をあの娘に伝えよ。それと混血の、ミアを呼べ」



「御意」



―――――――

―――




急ぎ足でミアさん達のいる部屋へ向かう

向かう途中人とすれ違わなかったのは、多分ミアさんの配慮だろう


単に魔女に関することで聞かれたくなかったからなのかもしれないが...



角を曲がり彼女の部屋を捕えたところで人の気配がした

それはこの王宮で女官を務める、リリーだった



「今は...」


「急用だ、陛下のお達しが出ている。悪いのですが入れてもらえますね」



有無を言わさぬ圧力

こちらにも、事情から時間はあまりとれないのですよ



困ったように目を伏せて、そしてわかりましたと頷いた


彼女が了承を得て、扉を開けたのを見てすぐさま二人の元へ行く



一瞬、冷たい何かを感じ取ったがあえて触れることなくニーナ様に要件を伝える


驚きの表情で、話を聞いた後直ぐ出ていった



さて、ミアさんには陛下からの呼び出しを受けていることを伝えて...



そこまで思い、そして目の前の光景に唖然とする

本能的に悟った




(怒っている)



今の彼女は危険だと

この私をも凌駕するほどの何かを感じ取った



そして彼女の、いつも能天気に笑っている目が鋭く窓へと向けられた



突如

外は嵐のように、荒れ狂う



そして一層双眼が細められたとき部屋の窓という窓のすべてのガラスが風によって破片となり飛び散った



「なっ!?」


驚きと、そして同様に私は彼女に対して怯えという感情を抱いた


それは精霊たちの声のせいなのか

それとも彼女の普段とは違う一面になのか....




だが、なぜか怯えと共に懐かしさを感じた

ゾクリと背筋を撫でられたような、歓喜のような興奮を覚えた



(そうか、そうか!これが....この自然を操る力こそ魔女の能力の一種!!)



だからいつの間にか陛下の命令を言うのを忘れ暫し彼女の怒りを見届ける



美しい

何が、美しいか...全てだ



だから私は独り言のようにつぶやいた



「―――――これが、魔女の血を引く力ですか」



嗚呼、陛下からの呼び出しの件を伝えなくては...




そう思いつつ漸く出会えたような昂揚感こうようかんを抑えられずにはいられなかった



いろいろ思う点はあるかと思いますが、次の話で前の伏線をまた一つ回収できそうです。



一話の文字数、多すぎたり少なすぎたりはしていないでしょうか

ルビをふるとスマートフォンなどの携帯端末の方は見にくいかとも思いましたが、なるべく多くはふらないつもりですのでご了承いただければ幸いです。



ここまで読んでくださってありがとうございました

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